Long story


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「ところで…今回のことはこれで丸く収まったんですか?」

 歩きだしてすぐに、春人が首を傾げた。
 解決したのかと聞かれればイエスだが、丸く収まったかと聞かれればそれは微妙なところだ。

「李月がしばらくのた打ち回るということを除けばな」

 それさえなければ、丸く収まった。めでたしめでたしと締めくくれそうなものだが。亞希が全く躊躇なく断言していたので、本当にのた打ち回るほどの苦しみを3日味わうことになるのだろうし…亞希の言う「のた打ち回る」を想像すると、華蓮はとてもめでたしめでたしと言う気にはなれなかった。

「でも実際のところ、どれくらい辛いの?」
「サバイバルナイフで体の中を切り刻まれながら、100度の熱湯の中に24時間ぶち込まれているくらい」

 亞希が前に一度「のた打ち回るほど苦しくなる」と言ったのにも拘らずその忠告を無視した結果の後遺症は、正にそのような感じだった。華蓮はその時のことを少しだけ思い出して、すぐに思い出したことを後悔した。

「聞くんじゃなかった…。やっぱり見に行くのやめる」

 侑は顔を青くして自分の腕を抱いた。
 自分で口にして当時の苦痛を思い出したことには後悔したが、侑の気分が変わったのならまぁよしとしよう。

「それ…生きていられるんですか?精神的に」
「生きていられないことは八都がさせないはずだ」

 多分。

「今多分って言いました?」
「言ってない。何だお前は世月か」
「世月さんがそう言ったって…」
「だから言ってねぇよ。人の心を勝手に読むな」

 先ほどまで双月にボロクソに言われていたのに、もういつもの世月に戻っているのだろうか。反省しているのか疑わしくなる。

「言ってなくても思ってるんだったら一緒じゃん。ああ、さよならいっきー、お葬式には行くからね…」
「やめろ。不謹慎極まりねぇな」

 死ぬ前提で話を進めるとはどういうことだ。
 そもそも李月が一人で行動したのは華蓮の体調のせいだ。それでもし本当に死なれたら、華蓮の後味が悪くなる。

「冗談に決まってるでしょ。てか、おもっくそヘッド様出てるよ?」
「別にいい」

 出ていたところで誰が気付くわけでもない。正体を知っている者しかいないのだ。

「最近多いね。なんかヘッド様っていうよりも、カレンと会う前に戻ってる感じ」
「馬鹿言え」

 そんなことはないはずだ。
 亞希と契約を交わした時から、華蓮はカレンと会う間の自分を捨てた。

「春人君はどう思う?」

 華蓮の言葉を無視して、侑は春人に視線を向けた。

「俺はその頃の夏川先輩を知りませんから…分からないですけど…。世月さんが…私もそう思うって言ってますよ」
「ほら、やっぱり戻ってるんだよ。秋生くんのおかげ?それともいっきー?」
「戻ってない」

 もしも戻ってしまったら、また一つ失ってしまう。
 望まない終末が、待っている。

「どうしてそこまで否定するの?」
「否定しなきゃいけない理由があるのよ…って、世月さんが」
「だから勝手に心を読むな」

 どこを飛んでいるのかも分からないから、睨み付けることもできないのが腹立たしい。

「ふうん。まぁ、別に否定するのは勝手だけどね。絶対に戻ってるよ」
「いい加減にしろ」
「嫌だね」

 世月とは違って睨み付けられる侑に視線を向けると、侑は華蓮を馬鹿にしたように舌を出してきた。見えていればそれはそれで、どっちにしても腹立たしい。

「でも…もし本当に戻っていて……その原因が秋だったら…、夏川先輩…どうするんですか?」

 侑を睨み付けていると、どこか不安そうに春人が声を出した。視線を向けると、声と同じように表情もどこか不安そうだった。

「何を」

 春人が一体何をそんなに不安がっているのか、華蓮は分からなかった。華蓮が戻ろうと戻るまいと、それが誰のせいだろうと、春人には何ら関係のないことのはずだ。

「夏川先輩は…その…困るんですよね。戻っちゃうと。だから…もしその原因が秋だって分かったら…秋を突き放すのかなって……」

 どうやら春人は、秋生のことを心配しているらしい。
 少しだけ想像してみた。
 仮に華蓮が戻っているとして。完全に戻ってしまったら、望まない終末を迎えてしまう。
 そして、もしもそうなりかけた時、その原因が秋生だったなら。春人の言う通り、秋生を突き放せば契約が望まない終末を迎えることはないだろうか。

「手遅れだな」
「え?」

 春人が不思議そうに華蓮を見上げてきた。

「もし、本当に原因が秋生にあるとしても…今更突き放してももう遅い。俺はそんな無駄なことはしない」

 突き放したところで、気持ちが消える訳でもない。もしかしたら望まない終末を回避することはできるかもしれないが、そんなことで回避するくらいならば…他の方法を探した方がマシだ。

「なっちゃん、いつからそんなに秋生君にぞっこんになってたの?」
「深月には言うなよ。賭けに負ける」

 せめて8月末くらいまでは隠し通さなければいけない。
 いくら稼ぐようになっても、5千円は大金だ。

「なにそれ。てか……否定しないんだ?」

 侑が少し驚いたような表情を浮かべていた。

「まぁ、1日1回触れないと死ぬ病気ってほどじゃないが?」

 華蓮がそう言って笑うと、侑の顔がかぁっと赤くなった。
 それから、怒ったように睨み付けてくる。しかし、全くもって怖くない。

「なっちゃんてば…覚えてなくてもいいことを覚えてるんだから…!」
「寝れば治る病気だったか?」
「もー!深月に言ってやる!ばか!」
「それはやめろ」

 華蓮が顔を顰めると、侑が怒ったような表情のままで舌を出した。
 これは5千円が無駄になったかもしれないと、華蓮は少しだけ調子に乗った自分の発言を後悔した。



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