Long story


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 秋生と華蓮が一緒にいないときに何かが出た場合、2人が近い場所にいない場合は現地集合だ。不思議なことに華蓮の方が現場から遠い場所にいても、いつも華蓮の方が早くに着いている。そして場合によっては始末してしまった後だったりもする。いつもは見つけた自分を差し置いて――なんて思うけど、今回は複雑な心境だ。行った瞬間に終わっていれば、戻って春人と話の続きができる。しかし、自分が華蓮の役に立たなければ名誉は挽回できない。考えに考えた末、どちらがいいのか結論が出ないまま現場に着いた。
 現場は第三音楽室。扉は鍵が壊されていて、開いていた。犯人は幽霊ではないだろう。幽霊は鍵など壊さなくても移動できる。この状況から、今日も華蓮の到着の方が早かったらしいことが推測できた。


「遅い」
「先輩が早すぎるんすよ」

 教室の中には華蓮と加奈子が並んでいる。加奈子は何か冊子のようなものを持っているが、それはどうでもいい。2人とは別に、学校の備品であるグランドピアノの椅子に座っているもう一人が、今回の標的ということだ。

「また一人増えた。俺に一体何の用だ」

 十代後半から二十代くらいだろうか。少なくとも秋生よりは年上に見えるが、とはいえそんなに年は変わらないだろう。最近は古い幽霊ばかりと出会っていたが、こいつは比較的最近死んだようだ。街を歩いていても馴染みそうな普通の格好をしている。悪く言えば、特徴がない。

「こいつっすか」
「そうだ。名前は、吉田隆。後は何も話そうとしない」
「他は何も話そうとしないのに、よく名前は言ってくれましたね」
「加奈子をけしかけた。同じ幽霊ならそれほど警戒はしない」
「……なるほど」

 また加奈子に遅れをとった。早く挽回しなければいけない。幸い、何も話さないということは秋生の出番だ。これで役に立てる。そして、その結果仕事が早く終われば、戻って春人と会話に花を咲かすこともできる。どちらもできて完璧だ。

「さっさと始めろ」
「はぁーい」

 秋生は吉田隆の前に立ち、そして既に生気を灯していない眼を見つめた。


「ヨシダタカシ」

 吉田隆の目と同じように、生気の籠ってない声が教室に響く。

「あんたはどうしてここにいるんだ?何をしている?」
「……探し物を。時計を探している」
「ここに落としたのか?」
「分からない。でも、多分この学校の中に落とした。分からないけど、大切なものだった」
「…だ、そうっす」

 秋生が話を聞きだして振り向くと、華蓮は面倒臭そうな表情を浮かべていた。

「ところどころ記憶が欠落しているようだな。どこから来たのか聞け」
「あんたどっから来たんだ?」
「分からない。…時計を探して彷徨って……ここに来た」
「じゃあ、死んだ原因とか、死んだ場所とか」
「分からない」

 分からないばっかりだ。これでは時計を探そうにも探しようがないし、それ以前に時計が本当にこの学校にあるかも定かではない。

「何も分からないのにここに来ても時計なんて見つかりません。他を当たってください。ここはあんたが思ってるより危険な場所だ。そのうち時計を探すことも忘れて人を呪い殺す化け物になってしまう。もっと簡単に言おうか?さっさと出て行け」

 このままここにいられると、強制的に秋生たちも時計を探す羽目になる。そうすれば、休み時間はおろか、昼休みも放課後も拘束されかねない。そんなのは御免だ。秋生は一刻も早く春人の所に戻って、話に花を咲かせたいのだ。吉田隆さえこの学校から出て行けば、時計を探す必要もなくなるし、そうすれば昼休みも放課後も自由だ。

「俺は出て行かない。時計を見つけるまでは。…時計が見つかるなら、化け物になっても構わない」
「化け物になってもらっちゃこっちが困るんだよ。いいからさっさと出て行け」
「嫌だ。お前みたいなガキに指図される筋合いはない」
「あと数年もすればあんたよりも年上になるんだよ。お前、自分が死んでるって自覚してる?」
「でも今は俺の方が年上だ。お前の指図など受けない」

 これでは本当に埒が明かない。

「…ならば消えてもらうまでだ」

 秋生が半ば諦めかけていた時、華蓮が秋生を押しのけて吉田隆の前に出た。バッドが上に振り上げられている。
 たぶん、脅しだろうが。

「ダメ――!だめっ、だめだめだめ!」

 華蓮が前に出てすぐ、加奈子が華蓮の前に飛び出した。それを見た秋生も反射的に飛び出し、加奈子を猫掴みのように捕まえる。

「加奈!何してんだよ!」
「だめー!その人、まだ悪い人になってないんでしょ!なら消しちゃだめ!時計なら私が探してあげる!だから消さないで―――!」

 超音波のような甲高い音が鳴り響く。音楽室だからだろうか。加奈子のポルターガイストに拍車がかかっており、耳から頭に響く音に対して秋生も華蓮も思わず顔をしかめた。それだけに留まらず、ガタガタと窓や音楽室の備品が音を立てて揺れ出した。このままでは時期に窓が割れてしまう。

「分かった加奈!俺も時計探すから!手伝うから!」
「……ほんとう?」
「うん、本当だって。だからそんなに泣くなよ…」

 というより、このポルターガイストをどうにかしてくれ。

「秋大好き!ありがとう!」
「ああ……」

 あまりに頭に響くのが耐えられず、秋生は時計を探すと言ってしまったが。本心としてはあのまま華蓮に消し去って欲しかった。なんて、今さら言えない。言うとまた加奈子のポルターガイストが悪化して放たれるだろう。

「はぁ…春人に謝っとかないと。あー、もう。ついてねぇなぁ」
「さっさと見つければ、昼休みにはイカれたバンドの話が出来るだろう」

 華蓮は秋生の考えをお見通しのようだ。

「昼休みまでに見つかればいいっすけど」

 まるで手がかりもない状態で時計を探すのだから、到底昼休みに終わりそうにはないと思うのだが。

「俺はそいつ自身の情報を探ってくる。昼休みまでに見つからなければ、一旦新聞部に来い」
「了解っす」

 探したくないだけじゃないかと思う秋生だったが、そう言ったところで「そうだ」とシンプルに返されそうだったのでやめておいた。
 とりあえず、こうなったからには一刻も早く時計を見つけて吉田隆に成仏してもらうしかない。奇跡的に昼休みまでに時計が見つかることを願って、必死に探すことだけを考えよう。秋生はそう決意しながら、春人の謝罪のメールを送るのだった。


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