Long story


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 物凄い地鳴りのような音が学校中に響き渡った。その音がしたのとほぼ同時に、秋生が「何かいる」と顔を顰めた。まるで正体のわからなかった今回の敵が等々姿を現したのかと思って「何かいる」場所に行ってみると、別世界のような光景が広がっていた。
 まるで隕石でも落ちたかのようにボコボコになっている廊下と、自販機の前に倒れている見知らぬ男。その男にくらいついている八都と、その少し手前に倒れている李月。そして李月の傍で泣きじゃくってポルターガイストを起こしている世月。
 華蓮が目の前の状況にまるでついて行けずにただただ顔を顰めたのは、一時間前の話しだ。

「あー、実際に目にするとやっぱりへこむ」

 廊下の残骸を目にした侑は、嘆くように言って頭を抱えた。
 既に今回の根源である男も、それから李月もいない廊下(だった場所と表した方が適切だ)は、改めて見ても悲惨だ。いつもなら様を見ろと悪態を吐くところだが、流石に同情を禁じ得ない。

「世月さんがごめんって、謝ってます」

 既に姿の見えなくなった世月の言葉を春人が代弁する。表情が引きつっていることから、まだ泣きじゃくっているのかもしれない。

「うん、もういいよ。あれだけ双月に叱られた後だから怒るに怒れないし……ねぇ?」
「ああ…俺も文句を言うタイミングを逃した」

 侑が苦笑いを向けてきたので、華蓮も苦笑いで返した。
 華蓮と秋生がこの場に駆け付けてからすぐ、双月に深月、それから春人と桜生も駆けつけてきた。侑はその場にはいなかったが、テレビ電話で状況を目の当たりにして発狂していた。
 それから泣きじゃくる世月に事の端末を聞いた途端、双月の猛攻が始まった。李月を部室まで運び、倒れた原因がもともと体調不良だったことに加えて世月がまき散らした邪気を思いきり吸ったせいで免疫力が及ばなかったせいだと分かり、身体の中に残った邪気を亞希の力で浄化させ、それでも3日はのた打ち回るほど苦しいだろうなんて断言されているその間も、世月はずっと双月に叱られっぱなしだった。亞希を使ったせいで華蓮の体調まで悪化してしまったことに多少なりと文句を言おうかとも思ったが、双月のあまりの勢いにさすがにその気も失せてしまった。

「ま、双月くらいしか世月を叱れないんだから、叱るべき時にしっかり叱ってもらわないとね」
「それで反省したならいいが」
「大丈夫でしょ。次やったら絶交するって双月に宣言されてたから」

 侑はそう言いながらしゃがんでひび割れた廊下に触れたり、立ちあがって穴の開いた天助を見上げたりした。状況を詳しく認識しているのだろう。

「いっそ一度絶交されてみればいい」
「そんなことしたら、春人君が世月の終わらないポルターガイストの餌食になっちゃうよ。…うん、これくらいならどうにか隠せそう」

 侑は悲惨な現状を一通り歩き終えると、パンと手を叩いた。
 その言葉に華蓮は安堵の溜息を吐く。この間も学校を破壊したばかりなのに、また学校を破壊してこれ以上心霊部の立場を悪くするのはまずい。この学校に心霊部は必須なので廃部になることも特別待遇がなくなることもないだろうが、その条件を減らされる可能性は大いにあり得る。そんなことは御免だ。

「春人君、こっちきて」
「世月さん、何してるの?早く来て〜。…もー、自分のせいでしょ。双月先輩に言うよ」

 侑に手招きをされた春人が、瓦礫の間を縫って被害の一番酷い場所に移動した。春人の発言からするに、世月はこの期に及んでまだ駄々をこねているようだ。これから春人の体に世月を憑依させなければならなく、それは同時に春人に負担がかかるということなので、気持ちは分からなくもないが。

「なっちゃん、結界よろしく。誰も入れないようにしてね」
「ああ」

 侑に言われた華蓮がバッドを地面に叩きつけると、その瞬間にバッドから自販機側の景色に靄がかかった。ガタガタになった廊下も、侑も春人も見えなくなった。

「じゃあ世月、憑依して」

 真っ白になった先で、侑の声が聞こえてくる。

「いいわ」

 侑の声に加えて世月の声が聞こえてきたが、随分と声がかすれていた。それは、春人に憑依しているからだろうか。それとも、泣きじゃくっていたからだろうか。

「自分がやったことを順番に思い浮かべて。……いくよ」

 侑がそう言った途端、靄の先から冷たい空気が流れてきた。そろそろ初夏だというのに、まるで冬の寒気を浴びているようだ。
 ただでさえ体調が思わしくないと言うのに、どうしてこんなことをしなければならないのだろう。華蓮は深いため息を吐くが、李月のことを思えばこれくらいでぶつぶつ文句を言っているわけにもいかない。

「なっちゃん、いいよー」
「もう終わったのか」

 まだ結界を張ってから1分も経っていない。

「うん。世月が壊した順番だけじゃなくて壊れ方まで正確に覚えてくれてたから。気持ち悪いほどの洞察力と記憶力が役に立ったよ」

 世月に対して気持ち悪いなんて言ったら普段は罵詈雑言を浴びせられるところだろうが、今はそんなことを言える立場でもないだろう。それが分かっているから、侑も好き勝手なことを言うのだ。
 華蓮が廊下に叩きつけたバッドを地面から離すと、靄が消える。
その先に見えた景色は、先ほどまでの悲惨な光景から一変して、何の変哲もない学校の廊下になっていた。さすが時には神とも呼ばれる妖怪の子孫なだけはある。

「うわ…元に戻ってる!?」

 先ほどまでとは打って変わった光景を目の当たりにした春人が目を見開いた。まぁそれが普通の反応だろう。華蓮は元からこうなることを知っていたので、完成度が高いこと以外に驚きはしなかったが。

「そう見えるだけ。だから、歩くときは注意してね」
「えーと…世月さん、どこ歩けばいい?こっち?…うん、わかった〜」

 どこに瓦礫が落ちていて、穴が開いているかは世月にも見えていないはずであるが。壊れ方まで覚えていたくらいだから、世月にしてみればそれくらい記憶しておくのは容易いことなのだろう。

「これで後は立ち入り禁止テープを貼って、双月の一声で大鳥グループの人に夜の間にちょちょっと直してもらえば万事オッケー」
「見えないと直せないんじゃないのか」
「それは大丈夫。完全に外部の人にはありのままが見えるようにしてあるから」

 どこから出してきたのか、侑は“立ち入り禁止”と書かれた黄色いテープを張り巡らせ始めた。端からみれば何もない場所を立ち入り禁止にして一体どういう言い訳をするのか知らないが、その辺は生徒会長の力量の見せどころといったところだ。

「さて、仕事も終わったことだし、のた打ち回るいっきーでも拝みに行きますか」

 そう言うと、侑は楽しそうに歩き出した。
 先ほど「流石妖怪の子孫」だと思ったことを後悔した。何が神様だろうか。華蓮よりもよほど性格が悪い。華蓮がそんなことを思いながら侑の後に続くと、春人も苦笑いを浮かべながら続いた。



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