Long story


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 双月から渡されたのは生徒と教師の名簿だった。一般的な基本情報に加えて好きな食べ物や交友関係まで記されている。現在痔で通院中って、これは必要なことなのか。

「それが李月から言われた、この一週間以内で条件をクリアした上で倒れた生徒及び教師リスト。全部で13人。生徒が11人、教師が2人」

 13人中教師が2人。昨日倒れた桜生たちのクラスで授業をしていた教師と、李月たちのクラスで授業をしていた教師。生徒は名前を見ても知らない生徒ばかりだった。当たり前だ。李月は未だにクラスメイトの名前もろくに覚えていない。

「思いの他多いな。それで噂にならなかったのか」
「この間は教師だったから騒ぎになったけど、生徒が倒れるって意外とよくあるからな。大体貧血で片づけられる。11人のうち9人は自力で保健室に行ってるし、他の2人も意識があったってこともあって、教師の手で保健室に運ばれただけ。しかも数時間後には授業に復帰してる」

 かなり症状がばらばらだ。共通点は、李月の出した条件である“倒れる前に無駄にテンションが高くなっている”ということだけ。

「で、何が追加調査なんだ?」
「ああ、うん。あのな…」

 双月の話によると。
 何でも、秋生の制服を取りに行った時点でこの一週間で倒れた生徒及び教師のリストは見つけていたらしい。しかし、その中で李月の条件にあてはまる生徒を探すには実際に学校に行って聞き込みをしなければならない。そんなわけで、学校に着いてからホームルームまでの間にそれを済ませた。すると、条件にあてはまる生徒及び生徒を見つけると同時に面白い事実が分かったので、その事実を確かめに春人を連れて家に帰ったらしい。制服を着替えたのはその時。そしてその後再び戻ってきて再度調査をした際に、3人の生徒に出くわしてしまったとのことだった。

「で、肝心のその面白い事実その1」
「その1…?」

 つまりその2もあるということか。

「うん、その1。これはそんな大したことじゃないけど…倒れた13人全員が、その前日にも無駄にハイテンションになってる」
「前日にも…?」
「そう。これはホームルーム前の聞き込みで分かったこと。教師は担任のクラスに、生徒はクラスの友人に聞き込んだんだけど、13人全員の知人が突然踊り出す勢いでテンションが上がったからよく覚えたってさ」

 13人全員、知人の誰もが覚えているほどにハイテンションになった。
 尋常ではない。

「で、これがその2」

 机の下からまた紙が出てきたが、今度は一枚だけでそれも千切ったメモ用紙だった。李月はそのメモ用紙に見覚えがある。

「書庫にある電話の横に置いてあるやつだな」
「記憶力いいな。プリントアウトしてる時間なければコピー機から用紙出すのも面倒だったからこれにした。…ってことはどうでもよくて。ほれ」

 双月から紙切れを手渡される。そこには、4人の名前が書いてあった。どれも、さきほど見た紙に乗っていた名前だ。3人は生徒、もう1人は桜生たちのクラスで倒れた教師だ。

「この4人がどうしたんだ?」
「最初の聞き込みで発覚したんだけど。その4人は倒れてから一度復活したにも関わらず、数時間後に早退してる。おまけに4人の友人たちは口を揃えて早退理由を知らないというではないですか。こりゃあ何かあるなって思って、春人と一緒にもっかい家に帰って調べてみた」

 そして、ついでにその時に着替えたというわけか。

「それで?」
「母さんにかわいーくお願いして、あまりよろしくない生徒情報が保存さている書庫の鍵を無事ゲット。そこに4人とも名前があったよ。早退じゃなくて、全員が大鳥病院に搬送されてた」
「搬送って…また倒れたのか?」

 李月の問いに、双月は首を振った。

「その4人は倒れた数時間後に何らかの方法で自殺をはかって、病院に搬送された」

 思いもよらない答えだった。

「冗談だろ…」

 李月はそう口にしながらも、双月の言っていることが冗談ではないと分かっていた。
 ただあまりにも予想外過ぎた事実を前にして、そうあって欲しいという思いからか、言葉が無意識に口を吐いていたのだ。

「それだけじゃないぞ。友人たち…というか、その光景を目撃した全員が結構な額積まれて学校側から口止めされてたらしい。それを友人たちに確認しに行ったときに、3回ほど目撃された」
「確認って…そう簡単に……ああ、お前の常套手段だな」

 結構な額がどれほどかは分からないが、金で口止めされていたものをそう簡単には話さないはずだ。しかし、双月にはそれが可能であることを思い出した李月は、事故解決して溜息を吐いた。
 秋生が幽霊相手に言うことを聞かせられるのなら、双月は人間相手にそれができる…というのは言い過ぎだが、双月は人の真理を覗くことができる。
 双月の霊力は兄弟4人の中でも比較的低い代わりにかなり異質だった。どういう原理でそれが可能なのかは本人も分からないらしいが、双月に見据えられて質問を飛ばされると、自分でも気づいていないような真理を引き出されてしまう。それは同時に、隠している真実も引き出すことが出来るということだ。
 李月は双月がやたらと他人をおかしくしてしまうのも、その異質な霊力のせいではないかと思っている。

「常套手段っていうほど使ってないよ。ああでも、前に秋生に使ったらショートさせちゃったっけ」
「お前な…」

 李月が呆れたような表情を浮かべると、双月は苦笑いを浮かべた。

「まぁ、それは置いといて、4人の自殺未遂方法なんだけど。ある生徒は授業中に突然窓から飛び降りる。別の生徒は部活中に用具倉庫で首を吊る。また別の生徒は美術の授業中に手首を切る。最後は、保健室の薬が保管されている棚を割って睡眠薬を大量摂取…これ聞いてどう思う?」
「中途半端だ…というより、突発的な犯行と言った方がいいか」
「だよな。なかまるで、“そうだ、京都に行こう”みたいなノリで“そうだ、死のう”ってなってる感じがするだろ。実際、どの生徒にも自殺をするような動機はなかった」

 とつぜんハイテンションになり倒れ、それが戻ったかと思ったら今度は自殺をはかる。頭がおかしくなっているとしか考えられない。

「まるで麻薬の過剰摂取だな」
「違いないな。でも…俺が調べた限り、そんな怪しい感じはしなかったんだよなー」

 双月は机に頬杖を付いた。
 学校が自殺未遂を隠すのはイメージの問題だろう。その他に何かあることをひた隠しにしているわけではなさそうだ。しかし、これは明らかにただの自殺未遂ではない。しかし、李月がプリントを見た限り、おかしくなった13人に“おかしくなった”ということ以外の共通点は見つけられない。

「さてどうするか…」

 双月の話から、まず偶然ではないことは明らかだ。しかし、悪霊の仕業であるならば秋生が気付いているはずだ。いくら何でも、これだけ被害が出ているのに気付かないわけがない。ならば…やはりカレンの差し金だ。琉生の言っていた、人間の僕か、それともまたあのお悍ましい旧校舎に隠れているのか。旧校舎に隠れているのならまだマシだ。しかし、人間の僕となると、探すのに骨が折れる。

「じゃあここでその3といこうか」

 李月が悶々と考えていると、部室の入り口から声がした。
 いつの間にか開いていた扉の向こうに、部屋の主が立っていた。


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