Long story


Top  newinfomainclap*res





 放課後。
 新聞部の部室には春人と双月を除いたいつものメンバーが勢ぞろいしていた。狭い部室も2人いないだけで、随分と広く感じるものだ。秋生はそんなことを思いながら、部屋中の視線を一身に浴びている華蓮と李月に、同じように視線を向けた。

「変にテンションが上がるわけでもなく」
「何かの気配を感じるでもなく」
「ただただ、有意義な掃除時間を過ごした」
「その後にこれといって変化もなし」

 華蓮と李月が交互に言葉を交わしていき、最後に溜息を吐いた。
 まるで何かの調査の報告会のようだが、もし本当にそうなら多分この報告会はいい結果の報告会ではないのだろう。華蓮と李月の表情は決していいものではなかった。

「いや、何が変化なし?学校中がすごい騒ぎなんですけど」

 すかさず侑が口を挟む。
 部室の外に耳を傾ければ、今日はしきりにばたばたと生徒が走り回る音が聞こえる。

「第三体育館で幽霊ライブ!主催者は超美形妖怪か!…次の新聞の一面はきまりですね」
「桜生、中々いいセンスしてるな。さっそく記事に起こしていいぞ」

 秋生は桜生新聞部らしいことをしているのはあまり見たことがなかったが、どうやらそれなりに働いているらしい。深月がそう言うと、立ちあがって棚からノートを引っ張り出してきた。

「こらそこ。そんな記事生徒会は認めません」
「こんなオイシイネタ捨てるわけねぇだろ。何せ学校中の生徒が聞いてるんだからな」

 深月はそう言ってニヤリと笑った。
なんというか、これぞ新聞部という感じだ。すごく久々だ。

「全く…幽霊たちの騒ぎを止めるのが心霊部の仕事でしょ?思いっきり騒がせたんじゃ、本末転倒じゃないか」

 侑が頭を抱えるのは珍しい。それほど、今回の幽霊ライブ事件は大変な事件だということだ。
 掃除を開始して10分ぐらいだったか。どこからかギターの音が聞こえ始めた。桜生に言うと、桜生も聞こえるというので2人で首を傾げた。すると、他の生徒たちも徐々にギターの音に気付き始め、教室がざわついた。それは教室だけに留まらず、他のクラスや他の学年も同じだった。
 また悪霊が何かやらかしたのかと思ったが、特に何の気配もない。…こともなく。秋生はすぐに、体育館の方に尋常でない霊の気配を感じた。それを桜生に伝え、2人は掃除をほっぽりだして体育館に向かった。
 体育館に着くと、音を頼りにすでに大量の生徒が集まっていた。生徒が集まっていたのは第三体育館。中から施錠されていて入ることはできないが、ギターの音は確実にその中からしていた。大量の霊の気配もその中から感じた。そしてここまで近づくと、ギターの音だけでなく、それ合わせて歌声も聞こえてきた。つまり、誰かが幽霊相手に歌を歌っていることだ。
 夢がミュージシャンだった若者が志半ばで死に、その無念を晴らすために幽霊相手にライブでもしているのだろうか。秋生がそんなことを思っていたら、隣にいた桜生が「これ、僕の作った歌だ」と呟いた。意識を集中させて聞いてみるとなるほど確かに、5限目に桜生が作って秋生が所々アレンジした「職権乱用の歌」だった。
 それが分かった時点で秋生と桜生は顔を見合わせ、人ごみを掻き分けてどうにか中がのぞける場所がないかさがした。そして、体育館の足元に並んでいる小窓の中に、ひとつだ開いている場所を見つけた。中を覗きこむと、案の定、歌っていたのは華蓮で、ギターを弾いて居たのは李月だった。

「幽霊たちが沢山いたのがバリアになって顔はバレてないみたいだけど。なっちゃん、自分の声でCD出したばっかりだよ?分かってる?」
「その辺も幽霊たちの影響で多少変化は出ているだろう。問題ない」

 侑が詰め寄るが、華蓮はまるで悪びれる様子もなく言い放った。
 なるほど、幽霊たちも使い方によっては役に立つものだと秋生は思う。

「問題大有り!誰が早急に噂を消して、始末書作って、大鳥グループから怒られると思ってんのさ!ああ考えるだけでも頭が痛い!お前たちの部室没収してやる!」

 どうやら今回のことを侑は相当怒っているらしい。

「お前にそんな権限ないだろ」
「でも小さくすることはできる。君たちの特別待遇の中に部室を選ぶ権利なんて入ってないでしょ?でも、僕はそれができるんだよ?なにせ天下の生徒会長ですからねぇ!そうだなぁ、いっそ犬小屋にしてくれようか!」

 侑のその言葉には、さすがの華蓮も顔を顰めた。
 とても口を挟める状態ではないが、秋生としても部室が

「実際にやってんのはお前じゃなくて副会長だろ。特別待遇を理由に全部副会長に押し付けて逃げてるくせに、よく言う」

 深月はどこか呆れたようにそう言って、コーヒーを啜った。
 もしそれが本当なら、副会長はさぞかし苦労していることだろう。いや、生徒会長が侑というだけで気苦労が絶えないに違いない。

「何でみっきーがそのこと知ってんのさ」
「俺にどうにかしてくれって愚痴って…あれは懇願にも近かったな。もう少し優しくしてやらないと、そのうち過労で死ぬぞ」
「ちょっと待って。うちの副会長とみっきーがどこで喋る機会があるの?」
「あれ言ってなかったか。クラス一緒だし、今は席が隣。だから喋ることもあれば、内部事情を聞くこともある」
「仲良くなりすぎでしょ!?何で滅ぼすべき新聞部の部長と仲良くしてるの、あの子は!!」

 滅ぼすべき新聞部の部長と付き合っている会長にだけは言われたくない台詞に違いない。
 秋生は副会長の顔も名前も分からないが、酷く同情した。

「うるせぇなぁ。別にいいだろ、教室で喋って…この前一緒に映画見に行ったけど…その程度の仲だ」

 一緒に映画を見に行くのは“その程度”の仲ではないと思うのだが。
 そう思っていると、バンっと机を叩く凄まじい音がした。

「あのあばずれ……澄ました顔して僕の深月をたぶらかそうなんていい度胸じゃないか……」

 再びバンッと机が揺れる。立ちあがった侑はいつも綺麗な青色をしているが、今は緑色に光っていた。人間の裸眼では有り得ない色だ。この人が妖怪だということを、改めて思い知らされる。

「お前たちの失態の話は後回し!」

 侑は華蓮と李月に向かってそう言い放つと、まるで鳥のように窓から出て行った。更に改めて、人間ではないと思い知った。

「深月、助かった」
「はいどういたしまして。てことで、さっきの桜生企画は邪魔するなよ」
「ああ」

 出た。通じ合っている感じの流れだ。

「どういうこと?」
「深月はわざと侑を怒らせたんだ。あのままじゃ、割と真面目に部室が犬小屋になるところだったからな」
「え、あれ本気だったの…?」
「本気だった。明日には部室が犬小屋になっている程度には」

 秋生には侑がいつもの冗談を言っているのかくらいにしか思わなかったが。
 李月が断言するのだから、本当に犬小屋になるところだったのだろう。

「甘いな、李月。仮に部室が犬小屋になったとしても、夏はどうせ言うことなんか聞かずに部室に行くだろ。それを阻止するために旧校舎ごと破壊する程度には本気だったぞ、あいつ」

 無茶苦茶だ。無茶苦茶だけど、さっきの…ここを出て行ったときの侑ならやりかねないと秋生は思った。しかし、さすがにそれは李月も予想外だったようで、苦笑いを浮かべていた。

「よかったね、秋生。あのままじゃ、犬小屋行きだったらしいよ」
「本当によかった。侑先輩が思いのほか深月先輩にぞっこんで」

 前からそうなんだろうなとは思っていたが、今日ほど分かりやすいことはなかった。
 なにせ怒り狂った表情で「僕の深月」なんて言っていたし。

「ああ、確かに。僕なんて頑張って歌ってても罵詈雑言浴びせられるのにね」
「へぇ、珍しいな。李月が桜生を邪険にするなんて」
「そうなんです、酷かったんですよ。僕の歌を聞くに堪えないとか言って…。あの時はそんなに気にならなかったけど…今思うとめちゃくちゃ酷いですよね」

 怒ったようにそう言う桜生を見て李月が顔を顰めるのはまぁ分かるが、どうしてか華蓮まで顔を顰めていた。一体、今の桜生の発言の何がそんなに気に食わなかったのだろう。

「どういうことだ?」
「さっぱり分からん」
「良狐、お前は?」
「わらわは何も感じ得ぬと言うておるじゃろう」

 秋生からしてみれば、李月と華蓮のその会話の方がさっぱり分からない。
 ただ、李月と華蓮が勝手に話をしているだけならともかく、その会話の中に良狐が参加しているのが少しだけ気に食わなかった。




[ 3/3 ]
prev | next | mokuji


[しおりを挟む]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -