Long story


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「せっかく撮った写真だもん。有効的に使わないとね」

 そう悪びれもせず言う侑は、発売したばかりのCDを手に笑顔を浮かべていた。
 一体どこにこんな笑顔を浮かべられる余裕があるのか、李月には理解できない。目の前には鬼の形相が立っているというのに。

「お…俺が……ヘッド様のシングルに……」

 鬼と天狗の睨み合いとは別のところで、今にも死にそうな声が聞こえてきた。
 机の上には、侑が手に持っているCDとは別のCDが置かれている。初回限定盤でライブのDVD付きのものであるが、ジャケットは変わらない。ジャケットいっぱいいっぱいにヘッド仕様の華蓮と、それから髪の長い秋生が写っている。

「秋、ヘッド様のファンに殺されちゃう……」
「しゅ、秋生…こ…殺されちゃうの…!?」
「だって…ヘッド様だよ!?」
「ヘッド様だけど……!」
「俺は闇に葬られるるんだぁぁぁぁぁ…」

 妖怪たちの緊迫した雰囲気とは違い、こちらはまるでコントだ。秋生は頭を抱え、春人と桜生は口を覆いながら青ざめている。華蓮のファンは暗殺部隊か何かなのだろうか。…少しだけ有り得そうだが。

「ははっ、超面白ぇ」
「深月、あんまり笑っちゃだめよ」
「そういう双月も爆笑してんじゃねーか」

 コントを繰り広げている3人を見ながら、深月と双月(世月仕様)が面白ろおかしそうに笑っている。3人には悪いが、李月も同じく笑いそうだった。

「何をそんなに喚くことがある。顔は映っておらぬではないか」

 暗殺の話で盛り上がっている3人に、ようやくまともな指摘が入った。そう、秋生の顔は長い髪で上手く隠れて見えてはいない。良狐は秋生の肩に乗ってどこか呆れたような声を出していた。

「そうそう。あそこの九尾も言ってるでしょ?顔は写ってないじゃん。なっちゃんの髪だってちゃんと黒くしてあるしー。だって、なっちゃん消せとは言ったけど、使っちゃだめなんて一言も言ってないよね?」
「――――深月!!」
「だから何で俺にバッドを向けるんだよ!何回殴られればいいんだ俺は!助けて李月!!」
「断る」

 と、何度このセリフを言っただろうと李月は思った。
 李月と桜生がそれぞれ華蓮と秋生を起こしに行った後、先に起きてきたのは秋生だった。映像を見た秋生は灰と化しリビングの隅に体育座りの体勢で固定。李月が本気で殺しにかかってようやく起きた華蓮は、既に李月に対してキレているという最悪の状況下で録画した映像を見たために修羅と化し大地震を起こした、それが午前1時。
 その大地震に全員が起きてきて、再び録画した映像がテレビに流れ、たちまち爆笑を引き起こす。そのせいで華蓮の修羅が悪化し、誰もが死の恐怖を感じたのが午前1時半。その際に深月が一度死亡。
 睡蓮の必死の戦いにより(本来説得するはずの秋生は灰となって役に立たなかった)ようやく修羅が落ち着くが、それからしばらく華蓮と侑の言い合いが続く。しかし、とりあえず寝た方がという双月の発案から一度就寝、午前3時。
 一夜を明かせば(実際は寝た時点で明けていたが)落ち着くかと思われたが、朝一番に春人がテレビを付けるとニュース番組の特集でshoehornのCDが取り上げられていたために華蓮と侑の言い合いが第二回戦を開始した。その際に深月が二度目の死亡。午前7時半。
 それから学校に行くことで言い合いは強制的に終了となり、このまま事態が収束するかと思われたが。世の中それほど甘くはない。
 ジャケットに写っている華蓮があまりに自然なため、一緒に写っている女は本当の彼女なのではないかという噂が学校中に流れていたことが発覚したのが午後12時半。李月はその時点でこの学校の7割がshoehornのファンだということに驚愕したが、それよりもっと驚いたのはその噂が学校だけに留まらず全国に広まっていたことだ。そのことが分かったのは、昼休みにたまたま職員室の前を通りかかった春人が、ついていたテレビのワイドショーで話題になっていたのを見たから。偶然とは恐ろしいものだ。
 そんなわけで現在。華蓮と侑は第三回戦を行った挙句に、深月が三度目の死亡を目前にしているというわけだ。

「そうは言うけどさーあ、僕だってただでジャケットに写れって言ってるわけじゃないじゃん?」
「言われる前にもう写ってたけどな」
「そう揚げ足とらないでよね。秋生君、ちょっときて」

 侑は何を思ったか、頭を抱えている秋生に声を掛けた。秋生は不思議そうに首を傾げながらも、なんの躊躇もなく侑に近寄って行く。そこで警戒心を持たないから、華蓮に怒られるのだ。

「その魔性の屑に近寄るな!」
「えっ」

 ほらみたことか。

「まーそう言わずにさ。なっちゃんも来て。ジャケットだってタダじゃないんだよ?」

 侑はそう言うと、華蓮の腕を掴み無理矢理引き寄せた。
 よくもまぁ、この状況で華蓮の間合いに入るものだ。

「おいっ」
「いいことを教えてあげよう」

 侑はそう言ってにこりと笑うと、華蓮と秋生にそれぞれ耳打ちをした。その内容は、2人以外には聞こえない。しかし、侑が耳打ちをした瞬間に華蓮と秋生の顔色が変わったのだけは分かった。

「ね?悪い話じゃないでしょ?」

 2人から顔を離した侑は再びにこりと笑う。まるで勝者の笑みだ。

「秋生…何かあったら守ってやる。我慢しろ」
「はい、先輩。もう余裕で我慢します」

 なんだこのバカップル。

「侑…このバ…2人に何を教えた?」

 危うくバカップルと言いそうになった。
 いっそ言っていればスッキリしたかもしれないが、無意識に言い換えていた。

「ジャケット出演代」

 どうやら侑は最初からこの切り札を出せば納得させられると確信していたらしい。
 すぐ乗せられる秋生ならともかく、華蓮まで丸め込んでしまうとは、一体どれほどの額だったのだろうか。

「お前…そんな切り札あったなら最初から出しとけよ!馬鹿か!!」
「いや〜、焦らしって重要でしょ?」
「なにが、でしょ?だ!俺は2回も死にかけたんだからな!!」
「死んでないし、そうなったら助けてあげるから安心して」

 だったら死にかけないようにしてやってくれ。
 李月は同じ顔が無残に扱われているのを見て、どうしようもなく虚しくなった。


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