Long story


Top  newinfomainclap*res





 かなりショックを受けていた秋生はもう今日は1日何もしたくないというような様子で突っ伏していたが、ひとたび悪霊が出れば赴かねばならない。気重そうに立ち上がり、華蓮ではなく李月に連絡をして教室を出て行くのを見送ってから数分。授業は滞りなく進み、休み時間になった。
 秋生はまだ、帰ってこない。

「あのね、春君」
「んー?」

 早弁ならぬ、早おやつ。
 ここのところお菓子作りに精を出している秋生が作り置きしていたシュークリームを勝手に持ち出してきた春人。それをカバンから出して口に運んでいたが、桜生に呼ばれてその手を止めて視線を向ける。

「秋生があんなときにこんな話しするのもなんだけど…」

 相変わらずどの授業でも漢字の練習しかしていない桜生が、漢字練習帳を机の端に寄せながらどこか申し訳なさそうに口を開いた。

「どうしたの?」
「…僕、いつくんと恋人同士になったの」
「ぶほっ!」

 口に含んでいたシュークリームが少量でよかった。
 でなければ、確実に前の席の人にクリーンヒットしていただろう。

「え、ちょ…どういうこと!?いつの間にそんな関係に!?」
「うん。飛び出して行った後に…夏川先輩のところに行ったの。そこで特訓を受けて、僕はいつくんが好きだって気が付いたの。だから、告白した」
「と…特訓?」

 まず、華蓮が桜生の相手をしたということに驚きだが。
 それよりも、桜生が自分の恋愛感情に気づきあまつされ告白したという事実の方がおどろいた。桜生をそこまで動かすほどの特訓って、なんだそれは。

「うん。話すと長くなるから割愛するけど、それはもう厳しい特訓を受けて…」
「そ、そうなんだ……」

 一体どんな特訓だったんだろう。すごく気になる。

「本当は秋生もいるところで言いたかったんだけど…あんな状態だから」

 桜生はそう言って苦笑いを浮かべた。
 確かに、華蓮に触れることが出来ない状態の秋生はとてもじゃないが、人の幸福を喜べるような状態ではない。発狂しそうだ。

「確かにそうだね。…じゃあ、俺が秋の分までお祝いしとく。おめでとう」
「ありがとう」

 そう言って笑う桜生は実に可愛らしい。
 二度と一人で歩かせるなんてことがあってはならないと、改めて実感した。

「しかし…どうなっちゃうのかなー、あの2人」
「いつくんは一か月で戻るって言ってたから…辛抱するしかないよ」

 桜生は意外に厳しい。
 その口ぶりは気の毒には思っているようだが、それをあまり重大視はしていないようだった。

「あの状態で一か月ももつと思う〜?」
「僕なんて何年いつくんに触れなかったと思ってるの?一か月ごときで音を上げるなんて、甘いでしょ」
「ああ…まぁ、そうだね」

 桜生の境遇をすっかり忘れていた。
 確かに、桜生のことを思えば一か月なんて一瞬だろう。厳しくなるもの無理はない。

「でも、一度触れちゃったら終わりだね」
「え?」
「僕は多分、1日だってもたないよ」

 桜生はそう言って苦笑いを浮かべた。
 ずっと触れていなかったからこそ――なのかもしれない。だから、一度触れられるようになってしまったら、もう前には戻れない。

「李月さんは…桜ちゃんに触れられなくなったらその代わりに毎日好き好き言ってそう」

 李月は意外とストレートだ。恥ずかしげもなく大勢の前で桜生のことを「可愛い」と断言する。その点を思うと、もしまた触れられなくなったら周りの目なんて気にせずに愛を伝えるに違いない。

「そうだったら僕、3日は頑張れるかもしれない」
「それでも3日なんだ」

 もう少し頑張れと思ったが、それほど李月にゾッコンだということだろう。李月に教えれば喜びそうだ。

「うん。それ以上は発狂しまーす。…春君は?」
「俺?3時間が限界」
「それじゃあ、毎日学校にいる間に発狂してるよ!」

 春人の言葉に、桜生はあははと笑った。
 確かに桜生の言う通りだ。じゃあ5時間ぐらいが妥当か、と頭の中で考え直す。

「双月先輩も、きっといっぱい好きって言ってくれそうだね」
「うん」

 桜生の言う通り、もし春人が双月に触れることができなくなったら毎日どころか顔を合わせる度に言ってきそうだ。そんな場面を想像して、少しだけ気分が良くなった。

「でも、今回は僕でもなく春君でもなく、秋生」
「そこが問題だよね。夏川先輩は絶対に好き好き言うタイプじゃない」

 というか、言っていたら引く。

「そうだね。夏川先輩はどちらかっていうと、秋生をからかうために好きって言ってる」
「そうなの?」
「だと思う。いつくんの前の家に来た時も、そうやってからかってた」
「へぇ…」

 春人としては、からかうためであっても華蓮が「好き」なんて口にしているところは想像できない。だが、聞くところによると李月と桜生の前ではところ構わずいちゃついているらしい。一度映像ないし写真に収めてほしいものだ。

「それに、夏川先輩あんまり気にしてないみたいだったし…」
「そうだね。秋生に触れられないっていうより、痛みを感じたくないってことの方に意識集中しちゃってたもんね」
「そう考えると〜、秋がちょっと可哀想かもしれない」

 苦笑いでそう言った桜生の意見に、春人は全面的に賛成だった。
 言葉が無くても通じ合えるなんていうけど、あの2人は絶対に言葉がないと通じ合えないタイプだ。そして、もっと悪いのはどちらもあまり言葉を伝えるタイプではないということだ。
 少しだけ、先が思いやられた。


[ 3/4 ]
prev | next | mokuji


[しおりを挟む]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -