Long story


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 桜生がヒントの要求をしたことで、華蓮は頭を悩ませていた。
 持っていたゲームを置いて腕を組んでから数分、やっとヒントが思いついたようだ。
 
「お前、李月と何かしたいこととか行きたいこととかないのか」
「え?…うーん…あ、膝枕!前に夏川先輩が秋生にしてたやつがしたいです」

 先ほどやりたいことリストの中で、一つだけ注目を浴びたのですぐに頭に浮かんだ。

「そういえばそんなこと言っていたな。…もし、春人が誰かを膝枕していたらどう思う?」
「春君ですか?…どうって…どうもこうもないです」

 春人が誰かを膝枕しているのを見ても、何とも思わない。
 それが双月以外の人だったら、見てはいけない物を見てしまったと思うくらいだ。

「秋生は?」
「だからこの前、夏川先輩にしてたじゃないですか…」

 何を思ったかは、今言ったはずだ。自分もしたいと、そう思った。

「そういう意味じゃないが…まぁいいか。じゃあ、李月は?」
「いつくん…?」
「そうだ。李月がもし誰かを膝枕していたらどう思う?…たとえば、秋生とか」

 李月が秋生に膝枕なんて、絶対にありえない。そもそも、秋生は華蓮以外にそんなことしないだろう。
 だが、もしもしていたら。そう思うと、無性に嫌な気持ちになった。

「だめです」
「だめ?」
「そんなの嫌です。してほしくない。他の誰かでも嫌なのに、よりによって秋生なんて…」

 桜生が顔を顰めてそう言うと、華蓮は微かに笑った。

「春人や秋生はよくて、李月だけ嫌なんだな」
「だって……秋生にするくらいなら、僕にしてほしいです」

 どうやら桜生は特に秋生だから嫌だということもあるらしい。
 さきほどから秋生の名前を出すたびに表情の歪みが増している。

「心臓が破裂するんじゃないのか?」
「それくらい我慢します。僕の方が絶対いつくんのこと大好きなのに、ずるい」
「大好きだからしてほしいのか?」
「……そう、なのかな」

 華蓮に指摘されて気が付いた。
 いつの間にか、無意識のうちに発言していた。

「でも、李月が誰を膝枕するかはまた別問題だ」
「えっ…」
「桜は李月が大好きだから膝枕してほしいっていうなら、李月だって膝枕はするのもされるのも好きな奴がいいはずだろ?」
「ほんとだ……」

 桜生がいくら李月のことを好きでも、李月が桜生のことを好きでないならば、膝枕をするのもされるのもお門違いということだ。
 秋生と華蓮はお互いに一番好き同士で、だから膝枕ができる。しかし、桜生は李月が自分のことをどう思っているか聞いたことはないし、分からない。

「なら、李月に膝枕してもらうためにはどうすればいいか」
「…他の誰よりも、僕のこと好きになってもらわないといけないです」
「そうなるな。…ヒントは終わりだ」

 華蓮はそう言うと、組んでいた腕を解いて再びゲームに手を伸ばした。

「今のがヒントだったんですか…?」
「ああ。もう一度考えろ。お前が李月に対している好きが、一体何かを」
「…うーん……」

 桜生は秋生も春人も、李月も大好きだ。
 しかし、秋生や春人が誰かに膝枕をしていたとしても何とも思わない。一方、李月が誰かに膝枕をしていたらとても嫌だと思う。他の誰かにするくらいなら桜生に膝枕をしてほしいし、自分もしたい。同じ大好きなのに、この違いは何だろう。
それは分かっている。秋生は家族愛で、春人は友情。そして李月は別の何か。
 李月が誰に膝枕をしたいか、してほしいかというのは李月の意志だ。桜生がしたいから、してほしいから出来るわけではない。華蓮と秋生が膝枕を出来るのはお互いに一番好き同士だからだ。つまり、桜生が李月に膝枕をしてもらうためには、李月にも桜生のことを一番好きになってもらわないといけない。
 桜生は秋生に一番好きになって欲しいとは思わない。だって、桜生も家族の中で秋生が一番好きとは言いきれない。琉生だって好きだし、父も母も好きだ。
 春人も同じだ。春人が一番好きなのは双月だと知っている。そして、春人は秋生のことも好きだろう。桜生はそれでもいい。一緒に話して、笑っていられたらそれでいいのだ。
 李月は違う。桜生は誰よりも李月のことが大好きで、だから誰よりも李月に好かれたいと思う。一番好き同士になりたい。
 一番好き同士の華蓮と秋生のように―――…。

「……恋人同士になりたい」

 桜生の中で、ひとつの答えが出た。
 恋人同士になりたい。そう思う気持ちが何であるか、家族愛や友情と同じように、聞いたことがある。

「いつくんへの好きは……恋愛感情…?」

 恐る恐る華蓮の顔を見ると、華蓮は満足そうに笑みを浮かべた。
 その笑顔は、桜生の見解が間違っていないことを示していた。

「そこまで分かれば、お前がどうして李月に近付くとおかしくなるのかも簡単に分かるだろう」

 そう言われて、桜生は再び考える。そうすると、意外とすんなりと頭の中に考えが浮かんできた。

「…僕が…いつくんに恋愛感情を抱いてるから…いつくんのことが好きすぎて、近づくだけで心臓が破裂しそうになるんだ……」

 李月のことを思うと胸が苦しくなって、近づくだけで息が詰まりそうになる。でも、それでも一緒にいたくて、一緒にいられるだけで嬉しくて仕方がない。それほどまでに、桜生は李月のことが好きなのだ。それが恋というやつなのだ。
 ずっと悩み続けてきた答えが、ようやく分かった瞬間だった。



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