Long story
「だからって、何で俺のところに来るんだ」
そう言葉を漏らす華蓮は面倒臭そうな表情を浮かべた。
李月がいたら素直に教室に戻ろうと思っていたが、神様は桜生に味方してくれたようだ。心霊部の部室にいたのは華蓮だけで、家にいる時と何ら変わらず、ソファに座ってゲームをしていた。
「…夏川先輩なら教えてくれるかと思って……」
「興味ない」
「そんな……」
最後の頼みの綱は、知っていて教えないとかそれ以前の問題だった。
もう打つ手はない。
きっと桜生はずっと分からないまま、一生このおかしい心臓と格闘しなければならないのだ。そう思うと、何だか悔しくて泣けてきた。
「おい、泣くなよ。俺が李月に殺される」
「だって…だって…」
どうしてみんなに分かることが自分だけ分からないのだ。
ずっと霊体だったからか。世間を知らないからか。でもそれは桜生が望んだことではない。それなのに、どうして誰も助けてくれないのだろう。
「李月はともかく、秋生と春人が教えられないのは仕方がないだろうな。李月が教えないって言うなら、俺も教えるわけにはいかない」
「どうしてみんな、いつくんいつくんって……!」
これは桜生の問題なのに、どうしてどいつもこいつも李月を引き合いに出すのだ。
李月は何も関係ないのに。
「落ち着け。でも、お前が理解するのを手伝ってやることはできる」
「え…?」
「直接教えることはできないが、お前が自分で理解するのを手伝うのはいいだろ。…多分」
「手伝ってくれるんですか…?」
「ああ」
「ありがとうございます…!」
華蓮のところに来てよかった。
桜生はあまりの嬉しさから無意識に華蓮に向かって飛びついていた。
「!!…おいっ!抱き付くな!」
「あ、すいません…」
「俺がお前のその顔を心底憎んでいることを忘れるなよ。無意識にバッドで殴り殺しても謝らないからな」
「夏川先輩はそんなことしないです」
華蓮は既に、カレンと桜生を完全に別の人物をして認識している。
そうでなければ、もっと桜生の存在を嫌悪するはずだ。
「もういい。さっさと問題を解決して出て行け」
「では問題です。僕がいつくんと一緒にいると心臓が爆発しそうになる原因は一体何でしょう?」
「それをお前が考えるんだろうが」
「考えて分かってたら苦労しないです」
もう随分と長い間考えた。考えに考えつくして、答えが出ていないから悩んでいるのだ。
そう言うと、華蓮は面倒くさそうにため息を吐いた。
「じゃあまず、お前にとって秋生はどんな存在だ?」
「秋生…?何で今秋生が…」
心臓の話をしたいのに、どうしてこう関係ない人間の名前ばかり出て来るのだろう。
顔を顰めると、思いきり睨まれた。
「いいから答えろ」
「…大切な兄弟…かな」
「どうして大切なんだ」
「それは…だって、大好きだから」
それ以外に言いようがない。
好きだから大切で、失いたくないと思う。それは華蓮もよく分かっていると思うが。
「お前が秋生に対して思っている大好きが一般的に何ていうか分かるか?」
「…わかんないです」
素直に答えるとまた呆れられるかと思ったが、意外にも華蓮は笑いかけてくれた。
「それは家族愛だ」
「ああ…聞いたことある。そっか…じゃあ、兄さんのことが大好きなのも家族愛ですね」
「そうだな」
「あれ…じゃあ、春君が好きなのは何て言うんですか?」
「お前は春人と友達だろ。だから、それは友情」
「あ、それも聞いたことがあります。すーくんとも友達だから、友情ですね」
「それなら、李月は何だと思う?」
「いつくん…?」
「ああ。李月のことは好きじゃないのか?」
「好きです。…大好きです」
それこそ、春人よりも、秋生よりも大好きだ。
誰よりも大好きだと、胸を張って言える。
「じゃあ、それは何だろうな?」
李月は家族ではないので、家族愛ではないことは確かだ。
「友情…?」
「春人と同じなのか」
そう言われると、それも違う気がする。
「でも、何が違うんだろう…」
腕を組んで考えるが、全く分からない。
「難しいな」
澄ました顔でそう言う華蓮は、その答えが分かっているのだろう。
「難しいです…。……ヒントをください」
「ヒント?…ヒントか……」
今度は華蓮が腕を組んで考える番だ。
そんな華蓮を見る桜生は、こうして悩んで考えることが楽しくなってきているのだった。
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mokuji
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