Long story


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 深月が帰ってきてから1時間くらいして、再びリビングの扉が開いた。本日最後の帰宅である双月だ。双月は深月が帰ってきたのと同じようなことを言って、華蓮が同じような説明して、深月と同じように納得していた。少し違ったのは侑が泣いていることに驚愕していたことくらいだ。とはいえ、それも華蓮が説明したことで納得すると、それから次の行動はまた深月と同じでまず冷蔵庫に向かった。デジャヴだ。

「俺の夕飯は?」
「あ、お前の分もあったのか。どうりで多いなと思ったんだ」

 双月が冷蔵庫に向けていた顔を振り向かせると、既に食べ終えた深月がお茶を飲みながら納得したように頷いた。しかし、先ほど深月が出してきた皿の上に、ハンバーグは残ってない。

「…それで?」
「全部食べた」

 そうだろう。
 空になっている皿が、それを裏付ける証拠となっている。

「もぉお――!何してくれてんだよ!」
「いや腹減ってたから」

 言い分が酷い。おまけに謝る気もないらしい。

「俺だって減ってんだよ!李月殴って!そいつを一発殴って!!」
「何で俺が…」

 思わぬところで飛び火してきた。
 それほど距離も変わらないのだから、自分で殴りに行けばいいだろうに。

「俺が殴ったらやり返されるだけだろ!華蓮でも可!」
「名前で呼ぶんじゃねぇよ」

 華蓮は苛立ちを滲ませて振り返った。
 そういえば、以前はみんな名前で呼んでいたのにどうしてか名字に変わっていた。
 その理由を想像するのは簡単だ。李月がこの家を出た後、桜生に会う前に華蓮は一度カレンと接触している。その時に、両親とカレンが一緒にいるところを見たのだろう。
 李月も初めてカレンが両親に囲まれて「華蓮」と呼ばれているのを聞いた時には驚愕したが、華蓮はそれどころではなかったはずだ。その衝撃に耐えかねて名前を呼ばせなくなたとしても無理はない。

「睡蓮も琉生も李月も呼んでるだろ!」
「睡蓮は可愛いし、琉生は呼ばせないなら何も教えないとか言いやがるし、…そうだお前も呼ぶな」

 気が付いていなかったのか。華蓮にしては随分と間抜けな失態だ。
 華蓮の気持ちは分かるが、今さら呼び方を変えるなんて面倒臭いことは御免だ。

「嫌だよ。今更面倒くせぇ」
「お前が面倒かどうかなんて知ったこっちゃねぇんだよ」
「俺だってお前の心情なんて知ったこっちゃねぇよ」

 華蓮がバッドを引っ張り出してきたので、李月も刀を構える。
 そっちがその気なら、受けて立たないわけにはいかない。

「あーあ、双月が余計なこと言うから、殺し合いが始まっちゃうよ」
「ここんところ仲良かったのに、どうすんだよ」
「仲良くない」

 深月の言葉に返す言葉が揃って、李月と華蓮はお互いを睨み付けた。
 思考回路が同じだということが、とてつもなく腹立たしい。

「もー、何でどれもこれも俺のせいなんだよ。…喧嘩はじめたら、桜生の通学取り消してもらいに行くからな!」

 双月の言葉に、今まさに切りかかろうとしていた李月の手が止まった。華蓮も同じく、バッドを持つ手が止まっている。

「え、じゃあ通学で出来るようになったのっ?」
「当たり前だろ。俺を誰だと思ってるんだ、天下の世月様だぞ」

 双月はそう言うと、キッチンから戻ってきてポケットから何かを出して机の上に置いた。
 “柊桜生”と名前の入った学生証だ。

「わーお、やるじゃん」
「そうだ、もっと褒めろ。まじで大変だったんだからな!」
「褒める褒める!さっすが双月!」

 いつもなら皮肉りそうなものだが、素直に褒めるのは侑にしては珍しい。
 しかし、気持ち的には李月も侑と同じだ。

「お前、双月に頭が上がらないな」
「もともと誰にも上がらないから問題ない」

 そう返すと、華蓮はバッドを退けながら呆れたような表情を浮かべた。
 喧嘩の熱も冷めたのか、そのままソファに戻って行った。

「感謝くらいしろよな」

 華蓮と李月の会話を耳にした双月が不満げに呟いた。

「感謝は嫌というほどしてる」
「だったらそれを言葉で示すことを要求します」
「ありがとう」

 李月が素直に礼を言うと、双月は一瞬驚いた表情を浮かべてから逃げるようにキッチンに戻って行った。

「何で逃げるんだよ」
「そうさらっとお礼言われるとそれはそれで気持ち悪い」

 実に失礼な発言だ。
 しかし、多分それは本心ではない。

「双月のやつ、照れてる」

 深月がそう言って面白そうに笑った。

「照れてない!」

 そう答える双月の表情は見えない。しかし、その声色から深月の言っていることが図星だということは確定だった。
 深月が更に笑うのを見ながら、李月も同じように笑った。



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