Long story


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 既に日付を跨いでから一刻、先に家の玄関をくぐったのは深月だった。
 ゲームをしていた侑は待ちわびたと言うように深月を出迎え、ゲームに付き合っていた華蓮は部屋から動くことなく迎え入れた。李月はいつものように遅くまでコーヒーを淹れて飲んでいたので、華蓮と同じように迎える形になった。

「李月が起きてるのはともかく、夏が侑に付き合うなんてどういう風の吹き回しだ?」
「俺の部屋で屑妖怪が2匹飲んだくれてるから寝れない」
「なるほど…」

 いつもの部屋の縁側では秋生と桜生が寝ているから気を遣って騒げないと言って華蓮の部屋にやってきたらしい。本来なら絶対に追い出しているところだが、交換条件として秋生の容姿を元に戻すように言ったら了承したので、しょうがなくリビングで寝ることにしたとのことだった。
 華蓮がソファに横になったところで、今度は侑が顔を出した。何でも、座敷童を寝かしつけたから深月を待つために降りてきたのだと言う。入ってきたときは嫌そうな顔をした華蓮も、そう言われると追い出すこともできなかったのだろう。結果的に一緒にゲームを始めて、今に至る。

「みっきー、家に帰ってたんだよね?」
「ああ」

 深月を出迎えに行った侑が再びソファに戻りながら聞くと、深月は短く答えながらキッチンの方に向かった。多分、目的は冷蔵庫の中の夕食だろう。

「双月に会った?」
「双月?…いいや、会ってないけど」
「あら、じゃあ県議会にでも乗り込んで捕まったのかな」

 そんな馬鹿な話があるか。
 侑ならやりそうだが、双月は絶対にそんなことはしない。度胸がないという意味ではなく、そんなリスクが大きくメリットが少ない手をわざわざ使わない。もっと考えて行動するだろう。

「県議会?…母さんに顔見せに行っただけだろ?何でそんなもんが出て来るんだよ」
「それもあるけど、今日は桜生ちゃんを学校に通わせるための交渉をしてくるっていう、重大な任務を背負って行ったんだよ」
「…いや、無理だろ。いくら鶴の一声ならぬ世月の一声でも、それは無理だろ」

 冷蔵庫から夕食だったハンバーグの残りを出してきた深月が、それをレンジに入れながら振り返り顔を顰めた。

「双月もそう言ってたねー」

 深月の言葉に返す侑は、まるで他人事だ。

「それをお前が無理矢理追い出したんだろ」
「失礼な。背中を押したと言ってほしいな」

 侑が少し怒ったように言い返してきた。
 あのやり方は絶対にそんな聞こえのいい言い方をしていいものではなかった。

「どっちでもいいけど。…ていうかお前、散々双月を苛めておいて何させてんだよ」
「俺が行かせたんじゃない」

 本当は苛めてないとも付け加えたいが、その点は世月のこともあってそうじゃないとはっきり言いきれないのでスルーすることにした。

「でも止めなかったよね」

 侑がそう言うと、李月はバツの悪そうな表情を浮かべる。今日はいったい何度同じような顔をすればいいのだろうか。
 それを見て侑が面白そうに笑ったのが腹立たしかったが、言い返すことはできない。

「いいよね、いっきーは。好き勝手に生きてても物事が自分のいいように進んでくれて。その代償に深月や双月が自由を奪われても、知ったことじゃないもんね」

 多分、侑は深月が自分と一緒にいる時間が少なくなっていることが気に食わないのだろう。だから、笑顔で容赦なく李月の胸に釘を何本も突き刺してくるのだ。
 しかし、今さら李月にどうしろと言うのだ。もし今家に戻って家業を継げと言われたら多分素直に継ぐだろう。双月の代わりに世月になれと言われても拒まない。だが、どちらも不可能だ。

「別に俺は李月の代償じゃねぇよ」
「朝早くから呼び出されてこんな遅くまでこき使われてるのに?李月がもっと真っ当だったら背負わなくてよかったことでしょ」
「いやまぁそうだけど。李月が真っ当だったとしても俺は自分から継いでたから」
「は?」

 深月が苦笑いで弁解するのに対して、侑が顔を顰めた。
 罵倒されながらも、侑の意見はもっともだと感じていた李月も同じように顔を顰める。

「今回だって、父さんは嫌なら継がなくていいって言ってくれたけど、俺が自分で継ぐって言ったんだ」

 深月の告白に李月は心底驚いたが、李月よりも侑の方が驚いていた。
 ソファから深月がいるのところまで移動して、胸倉でも掴むのではないかという勢いで詰め寄っていく。

「どうしてそんなこと。あんなに嫌がってたじゃん」
「それは…それなりに心境の変化があったんだよ」
「どんな?」
「何でもいいだろ、そんなこと」
「よくない」

 どうはぐらかしても侑は真実を知るまで絶対に引かないだろう。
 深月もそれを察したのか、諦めたように溜息を吐いた。

「俺が家を継いで一番上に立てば、誰も俺には逆らえなくなるだろ。そうなったら俺は、俺が誰を好きでいようと、誰と一緒にいようと、一切口を出させない」

 李月がまだ失踪する前から、深月と侑はずっと引き裂かれていた。李月が失踪した後で深月は侑と一緒にいるために家を出たのだろうが、それでも圧力がかかっていたことは明白だ。大鳥グループならやりかねない。
 たとえ父親が継がなくてもいいと言い、深月が後継者から逃げ切ったとしても、大鳥グループにとって侑は大事な跡取りを奪った憎い妖怪となってしまう。それなら、自分が後を継いでトップに立ち、誰にも文句を言わせないようにする。
 きっと深月は、自分が継がなくてもいいと言われた時にそのことに気が付いたのだ。だから、それを言われた時に自分で継ぐことを決めたに違いない。根拠はないが、李月はそう確信していた。
 つまり、深月が家を継ぐことを決めたのは、侑と一緒にいるためということだ。

「……嘘…」

 深月から距離を置いた侑が、呆然とした表情で歯切れ悪く呟いた。
 自分の聞きだした真実があまりに予想外すぎて、おまけに関係ないと思っていた自分が原因だったために何をどう言葉で表現していいか分からないのだろう。

「ほらみろ、だから言いたくなかったんだ」

 呆然と立ち尽くしている侑の反応を予測してたようで、深月は顔をしかめて投げやりに言葉を吐いた。

「…深月……」
「泣くなよ。泣いても知らねぇからな」

 深月は電子レンジから温めたハンバーグを取り出しながら侑に言い放った。
 しかし、俯いて肩を震わせているあたり既に手遅れのように見える。

「馬鹿じゃないの、泣くわけないでしょ…」

 と言っているが、声も震えているのでこれは完全に手遅れだ。

「もっと説得力ある顔で…うわ!」

 深月が呆れたように言っている最中、侑が俯いた顔を上げて深月に抱き付いて行った。深月の手にしていた皿が危うく手から滑り落ちそうになったが、開いている方の手で支えてどうにか落下は阻止したようだ。

「おいっ!危ねぇだろ!」
「だって…知らないっていうから」

 そう言われると返す言葉もないのか。…否、深月の表情は完全に侑の予想外の発言にときめいている。ちょっと、いや、かなり、とにかく可愛くて仕方がないと思っている表情だ。

「リア充滅べ」

 李月は聞こえないくらい小さく呟いて、深月と侑から視線を逸らした。
 何はともあれ、どうやら自分が深月に対して負い目を感じることはないようだ。それが分かったので、この腹立たしい甘ったるい空気もコーヒーで緩和させて我慢することにした。



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