Long story
テレビ画面から爆発音がして、画面中央に「WINER」という文字が表示された。その背後には、李月が使っていた機体が格好良くポーズを決めている。もう何度目か分からないくらいに見た光景だ。
「もう少し手加減してくれてもいいと思う」
「そんなことしてたら秋には勝てない」
「だからって、一方的すぎ…」
桜生は頬をふくらましながら不満げに声を漏らした。
確かに秋生に勝ちたいとは言った。それは事実だ。どうせやるなら同じスペックである双子相手には負けられない。
しかし、だからといってこれはどうだろう。最初に始めてから今まで、桜生は勝つどころか李月の体力を減らすことすらできていない。おまけに、30秒以上持ったこともない。これでは秋生に勝てる勝てない以前の問題で、このゲームを嫌いになってしまいそうだ。しかし、まるで勝てないままで終わりたくはない。
「おっけー、こうしよう。手加減はしなくていい。でもいつくんは開始から1分は避けるだけで攻撃しちゃだめね」
「それ手加減とどう…」
「黙ってやって」
「はいはい」
反論を遮って睨み付けると、李月は苦笑いを浮かべた。
なんだか馬鹿にされているようで少しムッとした。しかし、それが逆に勝利への活力になる。
「一瞬で葬り去ってくれる」
「さっきまで一瞬で葬り去られてたのに?」
「うるさい黙れ」
また余計なことを言ってきたので睨み返すと、どうしてか李月はクスクス笑い始めた。
「お前、ハンドル握ると性格分かるタイプの典型だな」
「…何それ」
「よくいるだろ。普段は温厚なのに運転すると途端に口が悪くなるやつ」
李月は笑っているが、口にしているそれはマイナス要素でしかない。
言われてみると、確かにさきほどから気性が荒くなっている。自覚した桜生は、明らかにマイナス要素であることを指摘されて、一気に熱が冷めた。
「……引いた?」
「いいや、可愛い」
「それは嘘だよ」
引かなかったとしても、可愛いはないだろう。
運転席で性格が変わる奴のどこら辺が可愛いのか、桜生には理解できない。
「桜生は何してても可愛い」
「!!」
そう言って頭を撫でられた桜生は、ビクッと肩を鳴らしてとっさに後退りをした。手から滑り落ちたコントローラーがカーペットの上でことんと音を立てる。
「どうしたんだよ」
「心臓が…破裂する…!」
李月に触れられただけで、桜生の体は過剰に反応する。
心臓が跳ね、鼓動が早くなり、息が苦しくなる。ただ触れられただけなのに、全身が熱くなって、気持ちが昂るのだ。
「じゃあ、もう触らない」
「えっ、それはやだ…」
触れてほしくないわけではない。
ずっと触れたいと思っていた李月に触れられることは、桜生にとってこの上なく嬉しいことだ。そのはずなのに、いざ触れるとこの有様だ。でも、そうなればなるほどに余計に触れたくなるのも事実だ。触れれば触れているほど体はおかしくなるのに、それでもずっと触れていないと思うのだ。
自分勝手だと思う。でも、桜生にもどうしてこんなことになってしまうのか分からないのだ。どうしようもない。
「どうしてこんなになっちゃうの?」
「それを俺に聞くのか」
「だって僕分からないもん…。僕はずっといつくんと一緒にいたくて、触れたくて。せっかくそれが出来るようになったのに。何で邪魔するの、こいつ」
いっそこの心臓がなくなってしまえばいいのにと、本当にそう思う。心臓さえなければ、こんなにもどかしい思いをしなくても済むのに。
その思いを口にすると、李月はまたクスクスと笑った。人が真剣に悩んでいるというのに、その悩ませている当人が笑うとは何事だろうか。
「笑いごとじゃないんだけど…」
「ごめん。…まぁでも、桜生にもそのうち分かるんじゃないか」
「にも?じゃあ、いつくんは分かってるの?どうして僕がこんな風になるのか」
「どうだろうな」
分かっている。これは確実に分かっている時の顔だ。
分かっていて、教える気がないという表情だ。
「分かってるなら教えてよ」
そう言うと、李月はうっすらと笑みを浮かべた。
悪戯な、からかうような笑みだ。
「葛藤してる桜生が可愛いから教えない」
「意味わかんないよ…!」
何て意味不明な理由だ。
普段は可愛いと言われることも嬉しいが、しかし今は全く嬉しくない。
「まぁ、分かるまでしっかり悩め」
李月はそう言うと距離を置いた桜生に近寄ってきて、再び頭を撫でた。
「っ…!」
心臓が跳ねる。息が詰まる。でも、手を離さないでほしい。
矛盾した感情が体の中を駆け巡り、体温が上がる。
「ほら、可愛い」
「もー…いつくんのばか!」
李月はすっかり戸惑う桜生の反応を見て楽しんでいる。
桜生は早くなる鼓動に顔を顰めて顔を赤く染めながら、李月から離れるようにソファに倒れ込んだ。
[ 5/6 ]
prev |
next |
mokuji
[
しおりを挟む]