Long story


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 やっと桜生の存在の違和感に気付いた一同に、秋生と桜生は昨日のことについて説明をした。秋生は朝食を作っていたのでほとんど喋っていたのは桜生だったが、秋生も時々口を挟んでいた。
 春人は一応話を耳にいれていたが、それよりも初めてみる桜生の姿の方に意識を奪われていた。春人はカレンに出会っているのでその容姿は知っていた。否、知っていたつもりだったと言った方が正しいかもしれない。あの時見たカレンと、今目の前にいる桜生は姿かたちこそ同じだが、似ても似つかなかった。本物の桜生は本当に秋生とそっくりだった。それこそ、髪の長さが違わなければ絶対に見分けられないくらいに。そして、その声はあの時聴いた気持ち悪い声とは違い、感情の籠った大人しい声だ。声も大人しいなら、性格も秋生より大人しいように思える。

「僕たちが寝てる間に事が進み過ぎでしょ」

 春人がそんなことを分析していると、いつの間にか話が終わっていて侑が口を開いた。どうやらまたしても重要な場面にいなかったことが不満らしい。とはいえ、今回は一人だけではないのでその不満もそれほどではないようだが。

「体が戻ってよかったなって、言っていいのかな」
「もちろんです。僕が素直に喜ばないと、兄さんに悪いから」

 双月の言葉に対して、桜生は笑顔を見せた。
 色々と考えた末に出した答えなのだろう。その笑顔は確かに心から笑っているように見えたが、奥深いものを感じた。

 ――初めましての挨拶をすべきかな?

 声を出して誰かに聞くことでもないと思ったので、隣にいる世月に頭の中で聞いてみた。すると、世月は悩ましい表情を浮かべて腕を組む。

「…そうねぇ。会ったことはないけど誰かを介して会話したことはあるわけだし、初対面とも言えないからなんとも言えないわよね。…まぁ、するに越したことはないんじゃないかしら?」
「そうだね。…桜ちゃん、初めまして」
「あ、初めまして。ええと…さっきは勝手に呼んじゃったけど、春君でいいですか?」
「うん。あと同い年だし、秋生の顔で敬語使われると気持ち悪いからため口がいいかな」

 そう言うと、秋生がキッチンから「どういうことだよ」と口を挟んできたがここはスルー待ったなしだ。いちいち返していたら話が進まない。とはいえ、進めるような話もないのだが。

「あ、うん…」

 秋生と同じ顔なのに、秋生よりも遥かに控えめな感じがとても違和感を覚える。なんだか二重人格の秋生を見ているようで、不思議でならない。とはいえ、どうせしばらくもしないうちに慣れてしまうのだろうけれど。

「あら」

 春人が考え事をしていると、じっとしていられない世月が桜生の周りをくるくると回りっていた。そして、何かに気が付いたように声を出す。

「あなた、全く力がなくなってしまったの?低級霊も見えないくらいに」
「え?そうなの?」

 世月の言葉に素早く反応した春人が聞くと、桜生は頷いた。

「は……うん。…カレンが僕の力を全部持って行ったから。今は全く何も感じないし、見えない」

 はい、と言いかけたところを言い換えて、桜生は春人に返した。秋生ならば確実に「はい」と言っていただろうが、秋生よりも呑み込みが早い。

「ちょっと待って、私の声は聞こえているの?」

 世月が顔を顰めながら桜生の顔を覗き込む。
 確かにそうだ。春人は「そうなの?」と聞いただけで、世月がどんな質問をしたのかは言っていない。それなのに、桜生は明確に質問の答えを返してきた。世月の指摘に、桜生は不思議そうに首を傾げた。

「あ…そういえば……何で見えるんだろう?」
「声だけじゃなくて、見えているの?」
「はっきりと…」

 世月が聞くと、桜生は世月を真っ直ぐ見て返した。ちゃんと世月の位置を把握して視線を向けていたので、見えていると言うのも本当なのだろう。

「よかったわね、春君。仲間が出来たじゃない」
「……本当だ!」

 世月に言われて春人ははっとした。桜生は今、春人と全く同じ状況なのだ。世月が見えることはそれほど問題ではない。しかし、幽霊の類が見えないということはとても重要なことだ。
 春人が声を上げて立ち上がったので、隣にいた双月が驚きの表情を浮かべて春人を見上げた。しかし、春人はそんな双月などまるで目に入っていない。

「桜ちゃん、ありがとう!」
「え?」
「よろしく!仲良くしてね!」

 首を傾げている桜生の手を無理矢理つかみ、春人は笑顔を向けた。

「うん、よろしく」

 桜生は一瞬驚いた表情を浮かべたが、笑顔になって春人に返した。
 秋生とは全く違う性格だが、すぐに仲良くなれそうな気がした。それは、幽霊が見えないという共通点がまずあるからかもしれないが、それだけではないような気もした。



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