Long story


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「あれは力のない馬鹿の仕業じゃない。誰かが意図的にやったものだ」
「どうして?」

 今度は亞希が首を傾げる。

「怪物の行動を思い出せ。あいつは無暗やたらに学校中を移動していたのに、片割れと出会った瞬間に移動するのをやめた」
「そういえば……俺たちが追っていた方も先輩たちと合流したら止まった……」
「自分の片割れを捜し回っていたということか」

 秋生の言葉が後押しになってか、亞希が納得したように頷いた。

「自分で移動したのなら、自分の片割れを探したりなんかしない」
「そもそも、自分で片割れから離れたりしない…」

 華蓮の言葉に続けて、秋生も納得したように呟いた。
 いつもならば「どうして」とでも言いそうなところだが、今日は珍しく頭が冴えているようだ。

「秋生のくせに呑み込みがいいな。本当に本物か?お前」
「なっ…本物ですよ、失礼な!」

 むっとした表情を浮かべる秋生は可愛い。
 華蓮の中でもかなり気に入っている表情の一つなので、つい苛めたくなる。

「リア充めー!滅んでしまえ!」
「君、いいこと言う。滅んでしまえ」

 李月にくっついてる奴らは一体どこからそんな言葉を覚えて来たのか。亞希も亞希で、言葉の意味を理解しているようで、それを使うことに違和感はないらしい。全く日本妖怪としてのプライドはないのかと言ってやりたい。

「日本にリア充の総人口を滅ぼすのはかなりの労力がいりますよ」

 指摘すべきところはそこではないし、そもそも八都と亞希の言いたかったことはそういうことではない。さきほどのリア充発言も突っ込みどころが多いが、秋生の発言も負けてはいない。まるで桜生みたいな発言だ。秋生でこれだということは、今ここに桜生がいたら、きっと収集がつかないことになっていたに違いない。
 華蓮は今初めて李月の存在の意義を強く感じ、ため息を吐いた。

「あいつらの馬鹿な発言にいちいち反応しなくていい。…とにかく、あの怪物は偶発的にできたものではなく、誰が意図的に作り出した上でさらに片方を屋上に移動させたということだ」
「確かにそれだと筋が通るけど…誰が何のために?」
「それが分かれば苦労はしない」

 そもそも、こんな会話などする必要もない。

「先輩たちを利用して学校を壊したかったとか?」
「壊して何になる?休校にしたところでテストも文化祭もなくならない」
「学生の仕業とは限らないじゃないですか。例えば…ほら、どっかの殺人犯が身を隠すためにとか!」
「それをするなら、殺人犯は事前に俺や李月の存在を把握する必要がある」
「うーん…じゃああれだ。別に校舎を壊すとかそういうことはどうでもよくて、単に騒ぎを起こしてその間に身を隠そうと……」
「殺人犯にこだわりすぎだ。大体、身を隠すならもっといい場所が……」

 秋生に反論している途中で、華蓮の頭の中に突然答えが下りてきた。

「…先輩?」
「お前の言う通りだ」

 秋生のくせに今日は尋常でなく冴えている。
 先ほどは冗談で言ったが、本当に偽物なのではないかと疑いそうなくらいだ。

「え?」
「俺たちはまんまとあいつの手に乗せられたんだ。…桜の体に」
「……どういうことですか?」

 呆けたような顔をしていた秋生が、途端に真剣な表情になる。
 冴えていてもさすがに華蓮の言っていることの意味までは分からなかったらしい。

「あいつは、俺たちが怪物に夢中になっている間に学校内に侵入したんだ。あの怪物は多分、もともと外で作ってから持ってきたのだろう。あれだけの瘴気に包まれたものを引っ提げて移動していれば、いくらあいつの力が強くても多少は隠すことが出来る」
「でも……離れてしまったら、気付くんじゃないですか?」
「だから体育館だったんだ。片方を屋上に落として、それからもう一つを体育館に落とす。そして自分はそのまま……旧校舎に入る」
「そうか……あの中に入れば、いくら何でも気付かない」

 秋生の言う通り、あの校舎の中に入ではカレンの瘴気など簡単に覆い隠してしまうだろう。それほどあの校舎は異常だ。カレンほどはいかなくても、それに近いくらいに危ないものがいくつもいるのだ。
 そしてそんな大がかりなことをして乗り込んだのなら、そう簡単には出て行かない。それどころか、あそこは力を蓄えるのにも絶好の場所だ。

「もしそうなら…、ぐずぐずしている場合じゃない」
「っ……」

 華蓮が秋生から体を離しすっと立ち上がると、秋生はぐっと身を縮ませた。そして途端に、体が小刻みに震えだす。
 状況を把握して早く行動に移したくなったあまり、秋生の状態をすっかり忘れていた。

「すぐ戻る」

 一度しゃがんで秋生の頬に触れると、震えがぴたりと止まった。
 秋生は華蓮を見上げ、どこか不安そうな表情を浮かべる。

「どこに行くんですか…?」
「納屋だ」

 行き先を告げても、秋生の不安そうな表情は戻らない。

「戻って来ますよね…?」
「だからそう言ってるだろ」
「桜生だって…そう言ってました……」

 そう言って俯いた顔は、数時間前に起こったことを思い出して泣きそうになっているに違いない。
 琉生は秋生と桜生を泣かしたら殺すと言っていたが、多分それは無理な話だ。華蓮や李月がどうこうの問題以前に、秋生に至っては涙腺がもろすぎる。

「秋生」

 名前を呼ぶと、秋生はゆっくりと顔を上げた。予想どおり、今にも泣きそうな顔をしている。自分の予想が的中したことに一瞬苦笑いを浮かべてから、華蓮は秋生に口づけた。いい加減慣れてきたのか、秋生は驚いて肩を鳴らすことはなかった。

「俺はいなくならない」

 顔を離してそう言うと、ようやく秋生の表情から不安の色が消えた。
 言葉はなく小さく頷いて見せたが、不安は消えても泣きそうな表情は戻らない。やはり泣かせないのは無理だと華蓮は確信した。

「まじで滅べリア充」
「むしろ俺たちの手で滅ぼすべき」

 背後から妬ましい視線を感じて、華蓮は若干苛立ちつつ立ち上がってから振り返った。
 空気を読むということを知らないのか。

「うるさい外野。妬んでいる暇があったら李月をたたき起こしておけ」
「無理だよ、李月の寝起きの悪さ知ってる?地球ごと塵にしたいの?」

 寝起きの悪さは知っているつもりだが、少なくとも華蓮の知っている限りでは地球を破壊するほどではなかった。せいぜい、家が半壊する程度だ。成長すれば寝起きなんて改善しそうなものだが、この数年で悪化しているとはどういうことだ。
 とはいえ、家が半壊すればよりよいものにリフォームすればいいし、地球が塵になれば華蓮がどうこうすることなく簡単に物語が終結するだけのことだ。

「いいから起こせ。俺が戻ってくるまでに」
「まじでー…?」
「急に意気だって、一体何をする気?」

 八都が嫌そうに金木犀の木から降りてきたところで、亞希が不審げに華蓮を見上げた。
 亞希なら少し考えれば分かりそうなものだが、苛立っているせいで頭が回っていないのかもしれない。


「桜を助けに行く」


 そう言うと、亞希だけではなく八都も秋生も驚きの表情を浮かべた。
 華蓮は目が点になっている連中から何か質問が飛んでくる前に、納屋に向かって歩き出した。もたもたしていたら手遅れになってしまう。事態は一刻を争うのだ。



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