Long story


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 一体何が起こったのか。それが分かったら誰も苦労はしない。
 秋生は以前のように寒さに震えながら、加えて頭痛や吐き気まで催している。桜生がいなくなったことで精神的にも参っているのに、そこにきて琉生と連絡が取れないという状況が事態を悪化させている。
 李月は倒れてからずっと目を覚まさない。まるで桜生と一緒に魂を持って行かれてしまったかのように、寝息すら立てずに横たわっている。分かりやすく表すと、死んでいるようだ。

「こっちは完全に切れているのに、こっちは繋がりが強まっている」

 李月の方に寄って行った亞希が、今度は秋生の方に寄ってくる。華蓮の腕の中でうずくまっていた秋生が微かに顔を上げた。

「李月さんと桜生が切れてるってことは…桜生は……」

 秋生が今にも泣きそうな顔をして亞希を見ている。きっとその先は言いたくないのだろう。言葉が詰まる。
 亞希はそんな秋生に優しく笑いかけた。

「もし精神が消滅しているなら君には分かるはずだ」

 きっぱりと断言したので、秋生は安堵の溜息を吐いた。表情には出さないが、華蓮も心の底からほっとした。

「でも、だからおかしい。この子と切れたら消滅するはずの精神はどこに行ったのだろう?そもそも、どうして突然切れてしまったんだ」

 まるで謎を解く探偵のように、亞希は腕を組んでそこら中をうろうろ歩き回る。華蓮は縁側の襖に待たれて座ってその声を聞きながら、こんな日に限ってひときわ綺麗な金木犀を見つめていた。

「それはあの化け物の力が強くなったからだよ。僕たちの力では抑えられないくらいにね」

 いつの間にか、金木犀の枝に子どもが座っていた。憎たらしいことこの上ない。李月の幼い頃にそっくりの風貌をしている。確か、李月は八都と呼んでいたか。

「あっ、ちょっと。俺の木に来やすく触れるな。枯れたらどうしてくれる」
「枯れないよ。僕たちの方が力は強いから、枯れないよ」
「はぁ?」

 亞希が苛立ったような表情を向けると、八都はクスクスと笑った。顔が似ていれば性格もそっくりだ。
 しかし、現に金木犀は枯れるどころかいつもよりも映えている。そんなことを言えば亞希が怒って暴れかねないので、口にはしないが。

「お前らは8匹いてやっと1人分だろ。1匹ずつじゃ点で話しにならないくせに調子に乗るなよ」
「そんなことないよ。僕だけでもお前より強い。何なら今から試してみる?」
「上等だ。お前なんか一瞬で消し飛ばしてくれる」
「ふざけるな。家を壊す気か」

 一食触発の寸前で呆れたように華蓮が口を出した。
 全く緊張感のかけらもあったものではない。今はそんなことをしている場合ではないだろうに。

「先輩と李月さんみたい」
「やめろ」
「だって、見た目もそっくりで言動もそっくり…」

 秋生が笑うのを見て、華蓮は叱ることもできず溜息を吐いた。
 いつもなら文句を言っているところだが、きっかけはともかく気分がマシになってきたようなのでそれを害すことはしなくない。

「俺はお前たちみたいに見境なく破壊活動はしないよ」
「僕もあんなに力任せに壊したりしない」
「あれはさすがにないよね」
「うん、あれはない。おまけに李月なんて、刀が折れたのも僕のせいだって言うんだよ」
「それは酷い」
「でしょ?僕もそう思う」

 全く仲が良いのか悪いのかどっちなのだと言いたくなる。
 喧嘩するよりは仲良くしてくれていた方がいいのだが、話題が話題だけに素直によしと言えないところもある。

「あれは…どちらかと言うと俺のせいのような…」
「僕もそう思う。君を助けるために折ったようなものだからね」

 それは初耳だった。李月がそう簡単に刀を折られるほどのドジをするとは思わなかったが、やはり理由があったのか。それならばそうと、問い詰めた時に言えばいいものを。

「ですよね……」

 秋生が申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「刀なんて手に入れようと思えばすぐに手に入るだろ」

 普通に買いにいっても売ってもらえないかもしれないが、悪徳霊媒師なんてやっているくらいだから、その気になればどうにでもなる。金だけ置いてこっそり持って行くとか、李月なら簡単にしてしまいそうなものだが。

「他の刀はあんまり持ちたくないみたい。大切にしていたから」
「あの刀を?」
「うん。理由は教えてくれなかったけど、すごく大切にしていたよ」

 少し意外だった。華蓮としては桜生を救いたいと考えた李月が、未だにあの刀を持っていたことも意外だったが。しかし、悪い気はしない。

「うわぁぁ…俺はなんてことを……おまけに怪我までさせちゃったし…」
「怪我?」
「え?あっ…いや、えーと……」

 秋生がしまったと言うような表情を浮かべた。
 華蓮が睨み付けると、秋生はびくりと肩を鳴らしてから諦めたように口を開いた。

「助けてもらったんですけど、その時に李月さん、怪我して……腕に。かすり傷だって言うし……言うなって…言われてたので…」
「腕…?」
「わー、こりゃ酷い。別段呪いとかの害があるわけじゃないけど、単純に痛いだろうな」

 亞希が寝ている李月の元に行くと、腕まくりをしてまじまじと腕を見ていた。華蓮が視線をやると、確かに焼けただれたような傷を負っている。一体どこがかすり傷だというような傷だ。

「やっぱりかすり傷じゃないし……」

 秋生が頭を抱える。
 華蓮が桜生を傷つけると李月がキレると思っていたのと同じで、李月もそれなりに秋生に気を遣っていたらしい。意外だったが、やはりそれならばそうと言えばいいのにと思う。

「また随分と借りを作ったな、お前」
「…すいません……」
「あそこの瘴気はちょっと尋常じゃなかったからね。この子は感度がいいみたいだから、しょうがなくもあるよ」

 八都は木の枝に座ったまま足をふらふらさせ、そう言って苦笑いを浮かべた。

「どこにいたんだ?あの怪物」
「体育館です。ええとほら、前に俺が深月先輩たちと図書室に行って無能化した旧校舎の隣にあるやつです」
「あそこか……」

 旧校舎と聞いただけで嫌気がさす。絶対に踏み込みたくない場所だ。隣の体育館は旧校舎ほどではないが、それなりに校舎の影響が出ているためあそこも近寄りたくはない。旧校舎にいってかなりの影響を受けた秋生が、体育館で感化されたのもうなずける。

「あんなところにあんな怪物放すなんて…恐れ知らずいいところだ……」
「場所云々の話じゃなくて、あんなことする神経が分かりませんけど」

 亞希がどこか感心しているのに対して、秋生は少し怒っているようだった。

「大方、大して力もない馬鹿が手を出してみたら変なことになっちゃったみたいな、そういう感じじゃないの?」
「そんなに簡単にできちゃうもんなんです?」

 秋生が金木犀の方に視線を向けると、八都は相変わらず足をふらふらと揺らしながら頷いた。

「できなくはないよ。むしろ、あまり力を持っていない人が興味本位で成仏させようとしたり除霊しようとしたりすると、あんな風になっちゃうパターンが多いかな。まぁ、それにしても滅多にないことだけどね」
「へぇ……」

 秋生が感心したように声を出した。
 つまり、華蓮や李月のように力をコントロールして普段から使っている者より、深月や双月のような、見えるだけの者が調子にのってコントロールもできないのに力を発揮しようとした可能性の方が大きいということだ。その可能性は大いにある。華蓮や李月のように力を持った者はまずいないが、深月や双月程度ならば学校内を探せばそれなりにいるだろう。
 だが、それにしてはどこか違和感がある。

「でも、片方があの体育館にいたなら、もう片方が屋上に移動していたのは幸いだった。どっちで別けられたのか知らないけど、仮に体育館に両方揃っていたらかなり厄介だった」

 亞希の言葉が、華蓮の頭の中に引っかかる。
 片方が移動していたからよかった。両方が揃っていたら厄介だった。
 しかし、最終的には両方ともグラウンドに移動した。
 あの日のことを思い出して、華蓮は違和感の正体を突き止めた。

「移動したんじゃない。移動させられたんだ…」
「え?」

 秋生が華蓮を見上げて首を傾げる。亞希も八都も、怪訝の表情を浮かべて華蓮に視線を向けた。



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