Long story


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 ドウンッ、という今までに出ないくらいの爆音が響き渡る。同時に、空でも飛べるのではないかと言うほどの爆風が襲ってきた。
 秋生は咄嗟に目と耳を塞いだが、音が鳴った後に耳を塞いだところで意味はない。それどころか、風に煽られまいと足を踏ん張るも、あっけなく地面に尻餅をついてしまった。


「……消えた………」

 隣から桜生が呟く声を耳にして、秋生は尻餅を付いたままに閉じていた瞼を持ち上げた。
 すると、先ほどまで目の前にいた怪物が姿を消し、どす黒い瘴気だけが一面に漂っていた。
 そしてその瘴気の中心に、呆然とした表情で立ち尽くしている男前が2人。その脇には姿がよく見えないが幼い人影が二つあった。


「……多くの者を救うのに犠牲はつきものと言うからな。仕方がない」
「……見た所、人間の被害は出ていないようだしな。大丈夫だろ」

 段々と晴れていく瘴気の中で会話をしていた華蓮と李月が徐々に鮮明に見えるようになっていく。それと同時に両脇に見えていた影らしきものは消えていった。
一体何の人影だったのか気になったが、それよりもいつになく余裕のない華蓮と李月の表情が気になり、その視線が向いている方に振り返った。


「え!?えええええ!?」


 振り返った瞬間、秋生はあまりに様変わりした光景を目にして思わず声を上げる。
 つい先ほどまであった校舎が、跡形もないほどではないにしろ随分な小規模になってしまっていた。


「中にいた人は兄さんが守ってたから、被害はないみたい」
「そ、そっか…それならよか…ねぇだろ!?」

 人間に被害がないことは一番大切だ。琉生がどうやってそれを成し遂げたかは分からないが、それをやってのけただけでも凄いことであるとは思う。
 ただ、人間に被害が無ければいいと言う問題でもない。ちょっと窓ガラスを割った程度なら誤魔化すことは簡単かもしれないが、いくら何でも校舎がほぼ全壊であるこの状況を“ちょっと”で済ますことは不可能だ。
 何せ、先ほどの壮大な爆音で既に校舎の入り口には人だかりが出来ていて、突然怒ったバトル漫画的この状況が多くの町民たちに知れ渡ってしまった。いくら大鳥グループとはいえ、これを一瞬で直すことなど不可能であろうし、見物客たちの記憶を一瞬で消すことなど(それは逆に華蓮辺りが出来るかもしれないが)多分無理であろう。

「学校に行き始めたと思ったらもう退学か……」
「金には困ってないからな。問題はない」
「それもそうか」

 華蓮と李月は既に退学になることを前提として話を進めている。

「それもそうかじゃないっすよ!!俺はどうするんすか俺は!!」
「せっかく学校に行けるようになったのに、そんなのやだよー!」

 秋生と桜生が声を上げると、華蓮と李月が苦笑いを浮かべながら「冗談だ」と口を揃えて声を出す。
 冗談とはもっと笑える状況でいうもので、こんなにリアルに真顔で言わないで欲しい。特に、普段から冗談を言わないような人間に限ってそう言う場面でそんなことを言うのだから、尚質が悪い。

「安心しろ。俺たちがいなくなったら困るのは学校側だ」
「今の騒動で霊たちが騒ぎ出したからな。怪奇現象勃発は間違いない」

 まだ少し瘴気で薄暗くなっている空を見上げる。
 確かに、学校全体に広がりつつあるこの瘴気は今いる霊たちを活発化させるであろうし、外にいる他の霊たちも引き寄せてしまうだろう。そしてその霊たちがこの瘴気に当てられればたちまち悪霊となってしまい、それがまた瘴気を生む。悪循環以外の何物でもない。
 しかし、規模が規模なだけにこればかりはどうともできないだろう。


「ただまぁ、どちらにしてもしばらく休校にはなるだろうがな」


 華蓮はそう言って溜息を吐いた。
 秋生はその言葉を耳にしながら再び校舎に視線を向ける。
 確かに、いっそ清々しいまでにほぼ全壊している校舎を前にして、学校側もあおぞら学級なんてしゃれたことをしている場合ではないだろう。
 生徒たちは何事かと皆がグラウンドに集まってきているし、校門の外には地元住民だけではなく記者らしき人物たちも集まってきた。もうすでに隠し通せる状態ではなくなってしまった今、学校の存続と秋生たちの先行きは大鳥グループの底しれぬ権力に頼る他はないだろう。


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