Long story
ぐちゃっという音と共に怪物がお互いにぶつかりあった。
てっきり合体してさらに大きくなってしまうという王道パターンかと思いきや、ぶつかった衝撃で正気が若干飛び散っただけで合体することはなかった。
「先輩…!!」
「いつくん…!!」
華蓮の姿を見つけた秋生がすぐさま駆け寄っていき、桜生も同じように李月の方に移動して行く。
しかし、その声に反応した化物がすぐさまその2人に向かって体内からどす黒い瘴気を発射させた。
「秋生…!!」
「桜生…!!」
華蓮と李月がそれぞれ秋生と桜生を庇うように飛び出し、バットと刀で瘴気の塊を跳ね飛ばす。
かなり危険を生じたが、互い違いになっていた組み合わせがようやく元に戻った。
「馬鹿か貴様は!こんな奴の目の前を突っ切ってくるやつがあるか!!」
「だって…李月さんは全然怒らないし優しいけど、やっぱり先輩の隣の方が落ち着くから…!ごめんなさい…!」
久々に叩かれるかもしれないと頭を覆った秋生だったが、いつまで経っても鉄拳制裁は下されなかった。
「あざといなぁ、君は」
どこからともなく聞こえた声に、秋生はバッと顔を上げた。
するとそこには、いつもは縁側でしかお目にかかれない顔が当たり前のようににやにやと笑って秋生を見上げていた。
「あっ、あなたは…!縁側の…!!」
「そういえば、まだ自己紹介をしていなかったか。名前は亞希だよ」
「あ…亞希……さん」
「改めまして、どうぞよろしく」
「よ、よろしく………」
華蓮そっくりの顔が礼儀正しくぺこりと頭を下げた。
多少の違和感を覚えつつも、秋生もそれにつられて頭を下げる――と、すぐその頭上を何かがぶわっと通っていく気配を感じた。
「亞希!!呑気に自己紹介何てしてる場合か!!仕事をしろ!!」
「短気な奴だな…」
秋生が顔を上げると、既に底の亞希の姿はなかった。
辺りを見回すと、李月と秋生が追っていた方の化け物に巨大な爪のようなものが何本も突き刺さって化物の動きを封じているようだった。
「また移動されたらどうする気だ?」
「もう移動するようにも見えないし、させないから大丈夫だ」
亞希の言うように、爪のようなものが食い込んでいる方だけでなく、もう片方の化け物も先ほどまで物凄い勢いで動き回っていたのが嘘のようにまるで動こうとしない。
ただ、動かないだけで無数の瘴気を放ったり職種のようなものを伸ばして攻撃をしてくることに変わりはないのだが。
「移動させなくても、この瘴気の連発をどうにかしないことには埒が明かん!」
「だから片方が止めてやってるだろ!文句ばかり言うな!」
そう言われてみれば、爪のようなものが食い込んでいる方が動きばかりか瘴気を吐きだすこともなくなっている。それどころか、纏っている瘴気が薄くなっているようにも見える。
「もう片方は俺が止めてやろう」
「ぐああああ……」
ギチギチっと、何かを締め付けるような音が聞こえた。
かと思えば、瘴気をまき散らしていたもう片方の化け物が突然うめき声のようなものを上げて悶絶し始めたではないか。
一体何が起きたのかと目を凝らして見てみると、真っ白い何かがぐるぐると化物に巻き付いてこれでもかと言わんばかりに締め付けているのが見えてきた。
「一都…あまり苦しめるな」
「はぁ?今まさに殺されるかもしれないって相手を前にして苦しめるなぁ?随分と甘いことを言うな」
最初に秋生が目にした首は李月から「八都」と呼ばれていた。
つまりこれは先ほどとは別の人格のらしい。それは性格を見てもすぐに分かることだが、李月は一体体の中に何を手なずけているのだろうか。
「いいから黙って言うことを聞け」
「嫌だね」
…もしかしたら、この一都という人格に関しては手懐けられていないのかもしれない。
李月の言うことを全く聞こうとはせず、それどころか逆にもっと締め付けているようにも見えた。
「一都くんお願い…あまり痛くしないであげて…!」
「……まぁ、桜生がそう言うなら加減してやらねぇこともねぇけど」
李月の言うことは聞かないくせに桜生の言うことは聞くようだ。
「もういいから、さっさと止めを刺せよ!!こうやってるのも結構大変なんだからな!!」
亞希が叫び声を上げた。
くい込んでいた爪が徐々に押し出されているようだ。
「それはお前の力が弱いからだろ?」
「一匹じゃ大したことも出できないくせに偉そうな口を叩くな」
一都と亞希の間でバチッと火花が散ったように見えた。
カエルの子はカエルとはこのことのを言うのだろうか、と秋生は内心で苦笑いを浮かべる。
「一気に浸食させて消し去るぞ」
「言われなくても分かってる」
亞希と一都が火花を散らしていることなどまるでどうでもいいように、華蓮と李月は顔を合わせてから一度頷いた。
それから、まるで音頭を取ったのではないのかというくらい同じタイミングで地面を蹴り上げ、一都が巻き付いている方に華蓮が、亞希が爪のようなものをくい込ませている方に李月が乗り上げた。
「さっきぶつかったところが若干繋がっている間に、潰すぞ」
そう言った瞬間、華蓮と李月はほぼ同時にバットと刀をそれぞれが乗りかかった方の怪物に突き刺した。
華蓮の言った言葉が、グラウンドに来て怪物同士がぶつかり合った時のことを言っているということは明白だった。しかし、どこをどう見てもぶつかり合ったところが番っているようには見えない、
一体どこがどういう風に繋がっているのだろうかと不思議に思って見ていると、目の前に怪物たちの大きさがまるで風船みたいにぶくぶくと膨らみ始めた。
「同調が足りてないんだよ!」
「このままじゃ大爆発を起こすぞ!!」
一都と亞希が叫ぶ。
「少し黙っていろ!!」
華蓮と李月は声を揃えてそう返すと、深呼吸をしてから集中するように目を閉じる。
そして今一度、同じタイミングで地面を蹴った。
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mokuji
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