Long story


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 地面の下から何かが這いあがってくるような音がした。それが地響きだと気が付いた瞬間、今度は鼓膜が破裂しそうなくらいの爆音が耳を突き抜ける。その状況の凄まじさは、音だけに留まらず次々と割れてしまった窓からも見て取ることが出来た。

「ちっと気合い入れすぎじゃあねぇか…?」

 授業を行うために廊下を歩いていた琉生は、割れてしまった窓から顔を覗かせた。そうしているのは琉生だけではなく、廊下にいた生徒はもちろんのこと、教室内にいた生徒たちも集まり、グラウンドに面している廊下はあっという間にまるで通勤ラッシュの満員電車のような状態になってしまった。

「あっ、あそこに夏がいるよ!一緒にいるのは秋…?」
「あれは桜生。似てるけど別人」
「へぇ…あ!本当だ!あっちに秋がいる…!一緒にいるのは…みっきー?」
「あれも似てるけど別人。組み合わせが滅茶苦茶だな」

 加奈子の質問に律儀に答えながら、琉生はどうして組み合わせがまぜこぜなのかという理由を想像しつつ苦笑いを零した。自分が華蓮に発破をかけたことが大きな原因であるということは、考えるまでもなく分かりきっている。
 問題は組み合わせなどではなく、別々に分かれている組がそれぞれ追いかけている相手の方にあった。

「秋たちが追いかけている黒いのは何…?」
「ありゃ…また随分と禍々しいものを追いかけてるな」
「まがまがしい…?それがあれの名前なの?」
「ん?いいや、あれに名前はないよ。しいて言うなら、怪物ってところか」

 誰がそんなことをしたのか。既に悪霊ですらなくなってしまったものを見ながら、琉生は溜息を吐いた。
 華蓮と李月が気合を入れすぎている原因は分かった。しかし、これは実に厄介な状況である。この場所から見る限り、あの怪物はかなり大きい。あれを消そうと思えばそれなりの力が必要だが、同時にそれなりの反動も必要になってしまうということだ。

「大丈夫?」
「援護してやりてぇとこだが…こっちに害が及ぶと厄介だからな」

 華蓮と李月がそのようなヘマをするとは思わないが、万一ということがある。
 見るからに普通の悪霊ではなくなってしまっている化物。瘴気に軽く触れるだけで一般人はまず体調不良を起こすだろうし、場合によっては後遺症を残したり、もしかしたら死んでしまったりしないとも言い切れない。
 そうならないためには、華蓮と李月の援護よりも生徒の安全を最優先しなければならない。

「どうするの?」
「とりあえず生徒を校舎から出さないようにして、結界を張って見守るしかねぇかな」

 琉生はそう言うと、人混みを掻き分けて足早に屋上に向かった。
 屋上に辿り着いてその惨劇を見た瞬間に溜息が零れたが、今は後々上司からぐちぐちと言われることに気負いをしてしても仕方がない。

「私、ここにいても大丈夫?」
「ああ。その柵から外には出るなよ」
「うん」

 加奈子の返事を聞いた琉生は、神経を集中させながらまずすべての校舎の出入り口を封鎖することに取りかかった。既に外に出てしまっている連中は多少手荒だがその辺にいる浮遊霊を一瞬だけ憑依させて気絶させ、室内に戻す。それが完了したら今度は浮遊霊たちに全ての出入り口の鍵を封鎖させた。
 その時間ものの1分。すべての出入り口を封鎖したら、今度は校舎全体に結界を張らなければならない。

「あ!!あのおっきいのがくっついちゃうよ!!」
「大丈夫だ。あれはもう一つにはなれない」

 結界を張る最中、グラウンドの中央に視線を向ける。
 どうやら化物が合流すると同時に華蓮と李月も合流したらしいが、何やら言い争っているようだった。こんな時ばかりは喧嘩をせずに仲良く化物退治ができないのだろうか。これで変に被害が拡大したら後で説教をするくらいじゃ済まないというのに。
 そんなことを思いながら化物とその周辺を眺めている間に結界の準備は終わった。

「これでまぁ、人に被害が出ることはないだろうが…」
「…なにか心配があるの?」
「校舎全壊!なんてニュースが明日の新聞に出ないといいなぁ…と思って」

 琉生がしみじみとそう言うと、加奈子がどこか困ったように苦笑いを浮かべた。

「そういうのフラグって言うんだよ。前にみっきーが教えてくれた」
「………まじかよ」

 深月は加奈子に変な言葉を教えすぎだと思う反面、できればそんなフラグは回収しないままに終わってくれればいいと切に願う琉生であった。



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