Long story


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 自分でもどう動いたのか分からなかった。ただ、腕に焼けるような痛みを感じて、まるでどこかに行っていた意識が戻ってくるような感覚がした。

「い―――李月さん!?」

 秋生の声がすぐ背後からしたことに驚いた。一瞬横目で秋生を見て、顔を真っ青にしていることに頭の中で疑問符が浮かぶ。そして、再び腕に痛みを感じて李月は自分の腕に視線を戻した。物体の一部が李月の腕に巻き付いていて、凄い力で締め付けていた。それを目にした瞬間李月は状況を理解し、そして理解すると腕に走る痛みが一層増した。

「いってぇな…!」

 李月がそう言うと同時に、三都が李月に絡みついているものを噛みちぎる。そうすると、本体と繋がっている方はずるずると本体の方に戻って行き、李月に絡みついていたものはまるで蒸発するようにその場から消えてなくなった。

「すいません俺、瘴気に当てられてぼうっとしてて……。腕……」

 秋生が今にも泣きそうな顔でうろたえている。
 この瘴気の渦だ。ぼうっとするのも無理はない。むしろ、当てられて立っているだけで上々だ。

「かすり傷だ」

 そんなことより、秋生になにかあった方が問題だ。華蓮に会わす顔がないどころか、多分ただでは済まない。李月の腕はまるで焼けただれたようになっていて、グロテスクな上に痛いなんて最悪の状況だが、秋生に何かあった時に華蓮に受ける仕打ちを思うと、焼けただれるくらい可愛いものだ。

「で、でも……」
「かすり傷だから、華蓮には言うな。それに、おかげで刀も抜けた――…し」

 李月が無意識に移動してきたが、刀からは手を離さなかったらしく、刀もそのまま抜けてきたらしい。秋生も無事だったし刀も戻ったし一石二鳥だ。と、思ったのだが。

「折れて……ますね」

 秋生の言葉で、今目の前に広がっている状況が現実なのだと理解する。今度は李月が真っ青になる番だ。
刀は刀身の半分くらいのところで真二つ。刀と呼ぶには実にみすぼらしい姿になってしまっていた。
 それを理解した瞬間、李月の頭の中で何かがぷちんと切れる音がした。

「よほどミンチにされてぇんだな」

 最初に見た時には多少なりと哀れみを感じたが、もうそのようなものは微塵もない。むしろ、もし感情があったらよほど痛みつけてから始末しているところだ。

「おーこった、おーこった!いーつきが、おーこった!」
「三都、一都(いっと)を呼んでお前は下がれ」

 李月がそう言うと、三都は一瞬驚いたような顔をしてから、笑顔になってその場からすっと消えて行った。
 内臓が煮えているのではないかというほどの熱が体を伝い、李月の周りに八本の刀が宙に浮いた状態で現れた。そしてそれとほぼ同時に、体育館の屋根がまるごとに吹っ飛んで行ってしまったのに、本人は気づいていない。



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