Long story


Top  newinfomainclap*res






 さて、一体どこから説明したらいいのやら。そもそも、どう説明したらいいのやら。
 最近の春人の不可思議な行動と、それから昨日の李月と双月に対しての発言。不可思議な行動だけなら適当にでっちあげるのは簡単だ。しかし、李月と双月の問題に対しての発言は、何をどうしてもでっちあげることは不可能だ。

「宇宙との交信って言うのを、信じてもらえるととても楽なんですけど」
「俺たちもそれが出来たら苦労しない」

 春人が今一度宇宙との交信発言を引っ張り出してくると、深月がすっぱりと切り捨てた。当たり前だ。こんなことが通用しないということは分かっている。

「正直に言ってみたら?」
 ――信じてくれるとでも?
「思わないわ。でも、他に方法はないわよ」

 世月の言葉に、春人はため息を吐いた。世月の言っていることは正しい。他に方法はない。最低の冗談を言うと幻滅されるかもしれないし、頭がおかしくなったと同情されるかもしれない。でも、もう言い逃れは出来ない。

「春人、大丈夫」
「え?」

 切り出せずに黙っていたら、秋生が優しく声をかけてきた。

「桜生にも見えてる」
「え……?」
「だから、お前の見えてるものを、知っていることを誰も嘘だなんて言わない」

 そう言って秋生は笑った。
 春人は驚きの表情を浮かべながら秋生を見つめる。嘘を言って自分の発言を誘導しているようには見えない。そもそも、秋生にそんな頭のいいことはできないだろう。

「あの子…私のことが……」
「見えてるの?」
「そうみたいね。私も気付かなかったけど…」
「そう…。俺だけに見えない人が証人って、何だか面白いね」

 しかし、桜生に本当に見えていて、予め伝えてくれているならば話は早い。最早、春人には何を隠す理由も、はぐらかく理由もなくなった。 
 そして、見えているならばもっと早く言ってくれれば、自分はこんなにも思い悩まなくてもよかったのにと思った。しかし、これは多分、ずっと一人で世月と喋っていた春人への皆からの御仕置みたいなものだったのだろう。

「俺が世月さんに話しかけられたのは、ちょうどその人たちに出会った日」

 そう言って李月に視線を向ける。
 あの日、春人は世月に出会ったことでカレンに飲み込まれるのを回避することができた。そうでなければ、春人は今頃ここにはいない。

「世月さんは、この世に未練はないけれど転生するのが嫌でこの世に残ったそうです。それから、ずっと先輩たちの傍にいたって言っていました。でも、誰にも…夏川先輩すら気づかなくて」
「心外よ。この能無し霊能力者ども」
「……心外だって、言ってます」

 春人は苦笑いを浮かべる。
 世月の言葉が聞こえていなくてよかったと思いながら、あまり刺激的な言葉は無視して喋っていく。

「どうして…転生するのが嫌なんだ?」

 深月が不思議そうに呟く。
 そうすると、世月はすっと深月の前によって行った。

「私だけ先に転生するなんて、真っ平御免だわ。あなた達が転生したころには40代のおばさんになっているなんて、考えただけでぞっとする」

 世月はそう言って、深月に向かって舌を出した。どうして舌を出すのだ。別に何か悪口を言われたわけでもないのに。

「他の皆が転生したころに40代になっているのは嫌だそうです」
「…いかにも世月が言いそうなことだ」
「同じ時期に転生したからといって、同じ時代に生まれ変わるとは限らないだろ…」

 深月が苦笑いを浮かべる横で、李月が呆れたように呟いた。
 春人は前にも聞いたこの理由に何ら疑問は抱かなかったが、そう言われてば確かにその通りだ。

「うるさいわね。人のことをいつまでも引きずっているような馬鹿は黙ってなさい」

 今の世月の暴言はスルーでいいだろう。
 余計な怒りを買うだけだ。

「とにかく、そういうわけでずっと皆さんの近くにいたらしいですが、あの日突然俺に見えた。…それから、ほぼ一緒に行動しています。俺の言動が変だったのは、世月さんとの会話が無意識に声に出たりしたからなんです」

 何度注意しても治らなかった。春人がもう少し学習能力があったら、きっともっと自然に過ごせていただろう。しかし、自分にしか見えないものがあるという状況が人生で初めての春人に、それは至難の業だったのだ。

「夏川先輩にも見えないのに、誰かに言っても信じてもらえないと思って……頑張ってごまかしてたのに、昨日、痺れを切らした世月さんが、俺の口を使って勝手に喋っちゃって………」
「李月と双月が悪いのよ。体があったら殴り倒してやるわ、李月だけね」
「…ええと……すごく怒ってます」

 さすがに世月の言葉をそのまま伝えるのは気が引けて、春人は困ったような表情で呟いた。

「怒ってますじゃないわよ。もっとはっきり言ってやって。いつまでも死んだ人間のことでねちねちねちねち気持ち悪いのよ。うざい、きもい、うざいって」
「そんなこと言えない。もう少し言葉選んでよ…」
「いっぺん死んで私に殴られに来い、ヘタレ馬鹿ども」
「全然だめ!」

 春人は世月に向かって声を上げると、溜息を吐いた。

「桜生、何て言ってるんだ?…いいよ、言っても」

 桜生は李月の隣にいるようで、李月が問いかけると一度言うことを抵抗したらしい。しかし、しばからく間も置かずに、全員の表情が引きつった。どうやら桜生は言ってしまったらしい。

「相変わらず口の悪いやつだな…」
「女子らしからぬ発言だし…」

 華蓮と深月が顔を合わせて苦笑いを浮かべている。
 どうやら世月の口の悪さは死ぬ前からだったらしい。それはそうか。死んでから性格が変わるなんて聞いたことがない。

「ほら、あなたたちも何か言いなさいよ」
「世月さん、カツアゲじゃないんだから…」

 春人が止めると、世月は春人の所に戻ってきた。

「そうね、まじめに話すわ。ちゃんと伝えてね」

 そう言うと、一度息を吐いてから李月と双月に視線を向けた。

「私は自分が死んで李月が生き残ったことをよかったと思っている。私はきっと、あのまま意識を取り戻すことはなかった。一生管に繋がれて生きながらえされられるよりも、死んでしまっても自分の体が誰かの一部となって生きてくれている方がよほど嬉しいわ。それが、自分の大好きな兄弟なら尚更よ。それなのに、どうして李月は自分が死ねばよかったなんて言うの?どうして双月は自分のしたことを後悔するの?私は大好きなあなたたちのために自分を捧げたのに、そんなことで私に申し訳ないと思わないの?」

 春人は世月の言葉を一字一句逃さずに声に出した。先ほどまでの罵倒するような喋り方とは違いどこか懇願するような口ぶりに、代弁しているだけの春人までも感化されそうになってしまう。

「私はあなたたちが大好きなの。李月も、双月も、深月もみんな同じくらい大好きなの。だから、私がいてもいなくてもあなたたちには仲のいい兄弟でいてほしい。私がいなくても、一緒に泣いたり笑ったりして欲しいのよ。私があなたたちに望んでいることはそれだけなのに、どうしてあなたたちはそんな簡単なこともできないの?」

 春人と出会ってずっと強気だった世月が初めて見せた、泣きそうな表情だった。これまでは強がっていただけで、自分のせいで兄弟の間に亀裂が入ってしまったことをずっと気にしていたのだ。李月や双月が苦しんでいるように、それを見ていた世月も苦しんでいたのだ。


「世月……」


 李月と双月が同時に声を出した。しかし、お互いの顔を見ようとはしない。
 世月がここまで言って思いが通じなければ、きっともう、一生通じることはないだろう。

「世月…ごめん……」
「謝る相手が違うでしょ!」

 泣きそうな顔だった世月が、一瞬でいつもの強気な表情に戻ってしまった。
 今さっきの表情は演技だったのだろうかと疑いそうになるくらい、切り替えが早い。

「それから、双月も」

 李月はまるで世月の声が聞こえていたかのように、双月に視線を向けた。
 双月が少しだけ驚いたような表情で李月を見ている。

「俺があの時思ったことは事実だから…、それを撤回することはできない」

 その言葉に双月の表情が曇り、世月の表情が険しくなった。

「でも…今は違う」
「え…?」

 権限そうな双月の表情が、李月を見つめる。
 李月は一瞬どこか違うところを見てから、再び双月に視線を戻した。多分、一瞬見たのは桜生がいる場所だ。

「今は…生きていてよかったと思う。桜生と会えたのは、お前が生かしてくれたおかげだから。だから…ありがとう」
「………そっか」

 双月がそう答えてどこか重荷の取れたような笑顔を返すと、李月もそれに笑顔を返していた。
 これでやっと、世月も心の底から笑うことが出来る。



「うっ…っ…!」


 隣から嗚咽が聞こえてきた春人はぎょっとした。その理由は、これで笑うことが出来ると思っていた世月が隣でぼろぼろと涙を流して泣いていたからに他ない。

「よ…世月さん…!?」
「はるくんんん。わたし…本当は、ずっと…うああああんっ」
「えっ…ええ!?」

 春人に抱き付いて来た世月は、まるで子どものように泣きじゃくり始めた。いや、これはもはや奇声か騒音と言ってもいいかもしれない。突然のことに春人は対処できずにあたふたとしている。

「泣いたか」
「泣いたな」

 華蓮と深月が冷静に分析している声が聞こえた。
 確認しあって頷いている場合ではない。分かっているならどうにかしろ。

「世月は昔から我慢強いんだけど、糸が切れると馬鹿みたいに泣き出すからな。しばらく放っておいたら泣き止むよ」
「放ってって…無理だよ!みつ兄どうにかしてよ!」
「俺に言うな。それをどうにかできるのは李月だけだ」

 深月が横目で李月を見る。春人もその視線を追った。

「いっ、李月さん!!」
「…悪い。見えないことにはどうしようもできない」

 李月は本当に申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。

「そんなぁ!助けてくださいっ、夏川先輩!!」
「俺は悪霊専門だ」

 華蓮はわざとらしく目を逸らした。
 春人にとって今の世月は悪霊以外の何者でもないが、そう言ってないがしろにするのは流石に可哀想なので出来ない。

「ふっ、双月先輩ぃっ!!」
「あー…、まぁ、泣き止むまで待つしかないかな…」

 唯一の頼みの綱だった双月にまでも見捨てられてしまった。
 自分たちは聞こえないからそんなことが言えるのだ。抱き付かれて耳元で甲高い声で泣かれてみろ。絶対にそんなことは言えないだろう。しかし、世月のことが見えない周囲の人物たちがその被害に遭うことはない。

「そんな殺生な…!」
「俺たちに隠してた罰だな」
「ええ……っ!?」

 その罰は絶対に今咄嗟に考えたに違いない。
 春人は深月の言葉に顔を真っ青にして、響き渡る世月の泣き声を遮ろうと耳を塞いだ。しかしながら、世月の声は耳ではなく頭に響いてくるので全く意味がないと言うことに気づいて、ぞっとするのだった。



[ 5/5 ]
prev | next | mokuji


[しおりを挟む]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -