Long story


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 最初に話題に上がったのがこれまた侑の話だ。しかし、今度は深月との関係ではなくて、いなくなっていた一週間の動向についてだ。
 一体どこで何をしていたのか、昨日の時点で桜生の言葉で大まかな推測が繰り広げられ、その後深月は大方話を聞いたらしいが、改めて全員の前で詳しい話があった。

「その子の体を見返すために山に帰ってたってたんだよ」

 その子、と侑が何もないところを指さした。世月が「双子の片割れ」とすぐに教えてくれたが、教えてくれなくとも想像はできた。
 山というのは、侑の家のことらしい。何でも、妖怪が沢山住んでいるのだとか。深月は一度行ったことがあるらしいが、二度と行きたくないと顔を顰めていた。

「でも、その帰り道に君の体に会って、殺されそうになったところをいっきーに助けてもらったってわけ」
「あいつは華蓮が持っているものが欲しいんだろう?どうして殺すんだ」

 李月の意見は最もで、侑の言葉に表情を曇らせたのは深月を除く全員だった。欲しているものを殺してしまっては、一生手に入らなくなってしまうではないか。

「もう自分の手に落とすことができないから、コレクションにしてなっちゃんに見せてあげるんだって」

 まるで他人事のように言って、侑は肉を口に運んだ。この真剣な話の中で一人だけまだ食事を続けている。本当に実際に言われたのか疑問に思うほど口調が軽い。
 しかし、侑の言葉を聞いた華蓮は何も返さなかったが、今にも誰かを射殺してしまいそうな目をしていた。怖い。

「というわけで、僕は無事に戻ってきたわけだよ。…いっきーに飲み込ませたものの話はその子が言ったとおりだよ。それが何で、どういう構造なのかは僕もよく知らない」

 その子、というのは桜生のことだ。桜生が昨日説明した、李月に食べさせたもののおかげで体と完全に切れているという話のことだろう。侑はその桜生が言った通りの目的のために食べさせたということだ。

「知らない…」

 李月が少し青ざめた。
 気持ちは分かる。得体の知れないものを食べさせられた上に、食べさせた本人すら何か分からないなんて、そんなの恐ろしいことこの上ない。食べてしまっているので後の祭りだが、普通なら絶対に口にしない。

「何で座敷童まで連れてきたんだ?」
「通信手段に連れて行けって。この子の幸運を前にしたら、電波障害何てなんのその。とはいえ、それ以外に力を使うことは禁止。本来、座敷童の力を私利私欲に使ってはいけないからね」

 電波妨害を止めることくらいなら大した影響はないが、あまり大きいことをするとその反動も大きいらしい。例えば本来死ぬはずの人間を座敷童や他の誰かの意志による力の利用で死を回避するとか、宝くじで大金を当てるように仕向けるとか、そういうことが大きいことに分類されるらしい。一体どんな反動が来るのかは侑にも分からないが、その反動で即死してもおかしくはないだろうといった。
 座敷童って、幸運を運んでくれるだけかと思っていたが、案外末恐ろしい。

「まぁ、山から下りる時に既に使用済みだけど。そんな都合よく、いっきーのところに堕ちる訳ないし、そもそもあの体が力加減間違えて僕を山から吹っ飛ばすってことも普通じゃあ考えづらいしね」

 私利私欲のために座敷童の力を使ったおかげで、侑は運よく山から下りることができ、しかも運よく李月の元に堕ちてきたということらしい。結構大がかりなことである気がするのだが、大丈夫なのだろうか。

「侑に使った力は死ぬほどのものじゃないよ。人間の世界で例えるなら、道に落ちてる1円玉拾う程度のもの。だから反動も石に躓いてこける程度だと思う」
「そうなの?狂犬病に感染するくらいは覚悟してたんだけど…。なーんだ、よかった」
「まぁ逆に言うと、もう少し粘っていたら私の力が無くても下りられていたってことだけどね……。はぁ、山に帰りたくない」
「それは後の祭り。飛縁魔に怒られるのは僕だから、大丈夫だよ」

 飛縁魔というのは、侑の代わりに家を切り盛りしている妖怪のことだそうだ。その名前が出たときの深月の表情の顰めようといったら、かなり酷かった。

「まぁとにかく、僕の1週間の動向については以上。何か質問があればどうぞ」

 まるで何かの会議をしているようだ。生徒会長だからだろうか、その辺の締めくくり方が上手い。
 誰も質問をする人はいなかったので、必然的に最初の問題は片付いたとこいうことになる。

「さて、じゃあ本日の目玉の話に移行だな」

 ついにきた。
 深月の言葉に反応したように、みんなの視線が一斉に春人に集中する。

「お前の昨日の言動について、説明してもらおうか」

 春人はごくりと息を飲んだ。
 残念なことに、あれだけ時間があったにも関わらず言い逃れの具体案は塵ほども浮かんでいないのだった。


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