Long story
秋生と華蓮がバーベキューに合流してきたとき、どうしてか華蓮は頭を抱えていて秋生は苦笑いだった。トイレに行って戻ってきた睡蓮はどうしてかすこぶるテンションが上がっていて、みんなから不審な目で見られていた挙句に華蓮に睨まれていた。それから時間が経ち、正午を過ぎたころにようやく李月も起きてきた。桜生もその隣にいる(らしい)。
さて、春人は買ってきたばかりのアウトドアセットに入っていたベンチの片隅に座って野菜をつつきながら、この時が来ないことを祈っていた。そしてその祈りもむなしく、今ここに全員が揃ったのだ。
「さぁ、そろそろ覚悟しておかないと」
――分かってますよ。
春人は世月に返しながら溜息を吐いた。
昨日のリビングから逃亡を経て今日の朝、春人は何事もなかったかのように睡蓮に起こされた。バーベキューをするから買い出しを手伝ってくれと言われて快くその申し出を受け入れ、侑と深月と双月も一緒に買い出しに出た。ホームセンターでバーベキュー用品を迷わず山ほどカートに入れながら、どこからお金が出て来るのだろうと思っていると、レジで小学生がブラックカードを提示するものだから少しだけ驚いた。華蓮の許可は得ているのだろうか。それとも、許可なんてなくても自由に使えるのだろうか。そんなことを思いながら、それから今度はスーパーに行ってまたしても迷わず食材を大量購入して、今度は誰のカードが出て来るのかと思っていたらバンドのリーダー様がさっそうと現金でお支払い。そして双月の呼んだ車で優雅に帰宅し、バーベキュー開始。
これはもしかして、昨夜の自分の宇宙との交信発言はスルーされるのかと思いきや、バーベキューの準備が整ったところで深月が春人に視線を向けて「全員が揃ってからだからな」と一言だけ耳打ちした。それは春人に昨夜の宇宙との交信発言の説明を準備しておけと言う助言だった。
「結局、いい言い訳は思いついたの?」
――思いついてたら、俺がこんな顔してると思う?
「いいえ」
――じゃあ聞かないで。
「…どうでもいいけど、敬語が外れているわよ。ようやく心を開いてくれたってこと?」
――心に余裕がないってことです。最初から閉ざしてないですよ。
心を閉ざしているなら、一緒にいることを容認したりしないし、昨日勝手に人の口を使って喋ったことを許したりしない。
「一度外した敬語を元に戻さなくていいわ。…もしどうにもならなかったら、双月に変わって私があなたをもらってあげる」
世月はそう言って、ふふふと笑った。随分とたくましい。
――俺がもらう側でしょ。性別的に。
「あら?もらってくれるの?」
――もしどうにもならなかったら、逃避行しか道はないかもねぇ。
「春君と愛の逃避行できるなんて大歓迎。でも、あなたが双月から離れるのは嫌。複雑だわ」
その言葉に勝手に「愛の」と付け加えられていることには敢えて触れないことにして、世月が困ったように笑っているのに、春人も同じような笑みで返した。
「さて、全員揃ったし、腹ごしらえもしたし、問題をひとつずつ解決していくか」
深月がそう言うと、賑わっていた声が一瞬でしんと静まり返った。ひとつずつということはいくつか問題があるということだが、その中に春人の件があることは明らかだ。できればさっさと終わらせてほしいような、後に回して欲しいような、複雑な気分になる。
「問題?また僕を仲間外れにして何の話?」
「お前が勝手にぶっ倒れてたんだろ」
侑が肉を食べる手を止めて顔を顰めると、深月が同じように顔を顰めて返した。
「そういえば侑、もう大丈夫なのか?」
「ちょっと瘴気に当てられただけだから、寝ればなんてことないよ。この通り」
双月が聞くと、侑は笑顔で返した。見たところ、無理をしているようにも見えないし、その言葉は本当なのだろう。
「えー、違うよ。瘴気のせいじゃないよ」
「どういうこと?」
「…あのね、侑がバタンキューだったのは深月のせいだよ」
座敷童が眉を顰めて呟いた言葉に、双月が反応した。人見知りの激しいらしい座敷童は瞬時に深月の後ろに隠れながら、顔だけひょこっと出して呟いた。
「俺…?」
「侑が深月を大好きなせいだよ。1日1回深月に触れないと死んじゃうんだって騒…もが!」
「こら!余計なこと言わなくていいの!」
深月の後ろに隠れていた座敷童を引っ張り出した侑は、声を上げながら幼い口を塞いだ。しかし、座敷童の言葉はすでに完結寸前だったため、あまり意味はない。
「1時間に1回の間違いじゃないのか?」
「いや、1分に1回の間違いだな」
「そこ!うるさい!!」
座敷童の言葉を聞いて、李月と華蓮が冷めた様子で会話をしている。
その言葉が本心なのかそれとも侑をからかっているだけなのかは分からない。
「あれがつまり、べったりってことかなぁ?」
「うーんなんか違うような気がするけど…そうなのかな?」
秋生もいまいち分かっていないようで、春人の疑問に疑問を浮かべている。
ただ、李月と華蓮の会話に文句を言いつつも否定をしていなかったことから、あながち間違いではないのだろうと思った。
「あの子たちは何で首を傾げてるの?」
「俺はこれ以上掘り下げたくない」
侑は怪訝の表情を浮かべていたが、深月はどこか疲れたような表情を浮かべていた。
別に何をしたわけでもないのに、被害者になっているだから当たり前かもしれないが。
「ていうか、話の論点ずれまくり」
双月が余計なことを言ったために、脱線していた話が元に戻るフラグが立ってしまった。このまま侑と深月の話で盛り上がっていればいいのに。一度話が戻ったら、もう脱線することはないだろう。
「いつかは回ってくることよ」
世月は諦めろと言わんばかりに苦笑いを浮かべた。また勝手に人の心を読んだことは怒るべきところだが、春人はそれに怒る気にもなれず、心の準備をしようと深呼吸をするのだった。
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mokuji
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