Long story


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 何かの焦げるような臭いがして、その臭いに空腹が促進されて目が覚めた。顔を上げる視界に入ってきたのは目の前のテレビ。同時に体がバキバキと音を立てたことで、自分が座ったまま寝ていたことを自覚した。体が石みたいに固い。もう一度今度は布団に入って寝てしまいたいが、それよりも空腹の方が勝っているようだ。
 室内を見渡すと、ソファには秋生が、ダイニングテーブルには李月と桜生がまだ寝息を立てていた。それから華蓮は、室内を見渡した流れでそのまま時計に視線を移した。

「11時……」

 どうして睡蓮が起こさないのかと一瞬疑問を抱き、そして次に今日が土曜日だということを思い出した。そう言えば日本には週末と言う…(以下略)。
 それはそうと、こんな時間なのにリビングに誰も人がいないというのはおかしい。誰かが起きてきてその騒々しさで目が覚めそうなものだ。更に、この焦げるような臭いは何だろうか。どうしてか、外から臭っている。

「う…ん……せんぱい…?」

 窓から外を覗こうと立ち上ると、秋生が寝返りを打ってうっすらと目を開けた。この石みたいな体で再び腰を下ろすなんて、起こしてしまった相手が秋生でなければ絶対にしない。腰をかがめながら、華蓮は無意識に顔を顰めていた。

「悪い、起こしたな」
「いえ…。……何すかこの臭い?」

 秋生は目をこすりながら起き上ると、一度欠伸を零した。 
 しかし、眠たそうな顔が一瞬で顰め面に変わる。

「外で何かしてるみたいだな。バーベキューか?」

 この臭いは庭から漂ってきているようだし、意識が覚醒してくると、焦げている臭いの中に肉や野菜の焼けるような臭いが混じっているが分かってくる。

「バーベキュー?どうしてまた……」
「俺たちが寝ていた上に、今日は土曜日だからだ」
「あー…なるほど……」

 秋生は納得したように頷いてから、今一度目をこすった。それから背伸びをすると、華蓮にも聞こえるくらいにバキバキと音が鳴った。

「大丈夫か」
「はい、多分。…先輩こそ大丈夫ですか?俺より酷い体勢で寝てたんじゃ…?」
「腹が減ってなきゃ部屋に戻って明日の朝まで寝てるところだ」

 華蓮はため息を吐きながら呟いた。
 今の状態なら完全に頭が覚醒しきっていないので空腹さえ邪魔しなければまだ寝つけるだろう。だが、ここ動くときっと頭が冴えるだろうし、空腹が満たされれば意識がはっきりして体の痛みが今よりもはっきりと分かるだろうから、多分もう寝つけない。でも空腹が邪魔をして、今の状態でも寝つけない。どっちにしても、もう寝ることは叶わない。

「俺に何かできることありますか…?」

 秋生が心配そうに見上げてくる。
 その言葉を聞いて、華蓮はニヤリと口元を緩めて秋生との距離を詰めた。同時に、秋生が「しまった」というような表情を浮かべる。

「この距離間で、お前が出来ることは限られるな?」
「……朝から性格悪い」

 性格が悪いのは時間の問題ではない。
 華蓮の意図を察した秋生は、そう言いつつも嫌なわけではないようだ。すぐに華蓮との距離が縮まる。

「…………あっ」

 秋生が華蓮に触れるか触れないかのところまで近づいたが、一瞬で離れていった。華蓮が顔を顰めると、秋生は戸惑ったような表情で視線を窓に向ける。秋生の視線を追って、華蓮は状況を察した。

「睡蓮…」
「僕はただ、トイレに行きたかっただけ」

 華蓮に睨まれた睡蓮は苦笑いでそう言うと、窓から入ってきて足早にリビングの扉に向かった。そのまま逃げるようにリビングを出て行くかと思ったら、出る寸前に一度立ち止まり、振り返った。

「内緒にしとくから、バーベキューの支払いに勝手にカード使ったこと許して。どうやって謝ろうか迷ってたんだけど、このタイミングでトイレに行く僕って天才」

 苦笑いから、どこか楽しそうな表情に変わっていた。そう言うと、睡蓮は今度こそ逃げるようにリビングを出て行った。

「最近、睡蓮が深月先輩とか侑先輩に似てきてる気がします」
「…そうだな」

 やはりここに居座らせるのを許可したのは間違いだったかもしれない。今から追い出すことも可能だが、多分もう手遅れだろう。

「ご飯食べます?」
「ああ」

 華蓮が溜息を吐いて立ち上がると、秋生は苦笑いを浮かべた後に続いた。


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