Long story


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 次に目を開けたときには地に足がついていた。隣で秋生がこの世の終わりのような顔をして呆然としていた。華蓮は立ち上がって自分に付着したガラスの破片を落とすと、秋生に手を差し出した。

「…生きてる……」
「当たり前だ」

 秋生は華蓮の手を取り、相変わらず呆然としながら立ち上がる。状況が呑み込めないのも無理はない。秋生は十数階の部屋の窓をバッドで破壊して不法侵入したことはないだろうし、きっとこれからもないだろう。ちなみに華蓮も初めてだ。

「何かと思えば…霊より質が悪い」

 ふと声がして、華蓮と秋生がそちらの方に視線を向ける。
 そこには、いかにも不機嫌そうな李月が刀を片手に立っていた。完全に戦闘準備万端といったところか。

「霊のように、お前を呪いに来たわけじゃないが」

 華蓮はバッドを手にして、秋生を自分の方に引き寄せた。

「―――お前は……」

 ふと、李月が秋生の方に視線を向ける。そして、思いきり顔を顰めた。


「何でお前が、桜生の双子と一緒にいる?」

 どうやら李月は琉生から何も話をきいていないらしい。
 あの時秋生が学校にいたのは見ていたはずだが、その時はふっとばされてすぐに帰って行ったから華蓮と秋生は話しているのを聞いたわけでもない。琉生が話していないなら、何も知らなくて当然だ。

「何で一緒にいるかなんてお前に話す筋合いはないが…一部を挙げるなら、こいつが馬鹿であり阿呆であり間抜けだからだ」
「え…!ちょっと先輩、それは酷くないですか!」
「何だ、どこか間違いがあるのか?」
「間違い…って言われたらそれは、反論に困りますが……」

 秋生は怒ったような表情と困ったような表情を行き来している。
 それを見た李月は、何を思ったのかクスクスと笑いだした。

「馬鹿だなお前ら」
「馬鹿はこいつとお前と、それからお前と一緒にいる奴だ」

 華蓮の言葉に、笑っていた李月の表情が一瞬で険しいものに変わった。

「どういう意味だ?」
「そんなこと本人に聞け。どうせその辺にいるんだろう」

 そう言うと、李月のとなりにすっと影が増えた。
 出てきた桜生は昨日も今日も、その表情はとても悲しげだ。

「桜生…出てこなくてもいい」

 李月のその言葉に桜生は首を振る。それから、華蓮の方を向いて浅く頭を下げた。

「多分…この人は僕に用事があってきたはずだから。…ですよね?」
「ああ、そうだな」
「どういうことだ?」

 李月は桜生から何も聞いていないのだろう。
 桜生が昨日華蓮に言ったことを李月に言うわけがないことは想像がついていたので、華蓮は李月が知らないことを驚くことはなかった。

「そいつは昨日、俺の所に自分の体を殺してくれと頼みに来た」

 桜生が伝えないからといって、華蓮はそれの気持ちを汲んでやるほど優しくはない。
 昨日のことをありのままに伝えると、李月は驚きの表情を浮かべた。

「このままではお前が死んでしまうから殺してくれと俺のところにきた。秋生もそう望むだろう、お前もいつか分かってくれるだろうと、そう言った」
「…桜生……そうなのか?」

 華蓮の言葉に驚愕している様子の李月は、表情をそのままに桜生に視線を移した。桜生は辛そうな表情を浮かべ、そして頷いた。李月の表情が、驚愕したものから桜生と同じような辛そうな表情に変わり、その顔が俯かれる。

「それで…お前は、桜生を殺すのか」

 ぐっと、李月が刀を持つ拳を握った。次に顔を上げた李月は、今にも襲いかかって来そうな目で華蓮を見ていた。

「お前、琉生から聞かなかったのか。お前はいつも人の話を聞かないから馬鹿だと伝えたはずだが?」
「はぁ?」
「昨日は俺が返事をする前にそいつは帰って行った。だから俺は遠路はるばる答えを言いにきてやったんだ」
「いやまぁ確かに遠かったですけど、それほどじゃあ……」

 華蓮がバッドの先を桜生に向けて言うと、隣で秋生が苦笑い交じりに呟いた。
 いまここでそれはどうでもいいことだ。華蓮は秋生を睨む。

「黙れ」
「はい、すいません…」

 多分、秋生は華蓮の答えを知っているから少し余裕があるのだろう。
 知らないのならもっと動揺しているだろうから、余計なことを口にする思考回路は働かないだろう。
 華蓮は秋生に教えずにつれてくればよかったかと、少しだけ後悔した。

「僕のお願いを、聞いてくれる気になりましたか…?」

 桜生が一歩前に出て悲しそうに問う。
 そんな桜生を、李月は何も言えない様子で見つめている。

「断る」

 華蓮がはっきりとそう言うと、桜生は驚愕の表情を浮かべ李月は思いきり表情を歪めた。


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