Long story


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 窓から盛大に出て行った侑は、10分も経たないうちに戻ってきた。深月と双月がリビングに部屋干しをしている時、いつの間にか出て行った窓の前に立っていた。それに気づいた双月が一瞬驚いて、それから窓を開けた。

「ただいま」
「おかえり。早いな」
「僕は友達が多いからね」

 双月の言葉に侑はそう返しながら入ってきて、元々座っていたダイニングの椅子に座ると、食べかけの食事に手を付け始めた。

「隣市の高級マンションの最上階。すっごいいい部屋、でも訳あり物件だからタダ同然で住んでるよ。そこいる霊を追い出して、そのせいで周りに被害が出てて、大家は頭を抱えて追い出したがっているけど、その決定打がないから頭を抱えてる。笑っちゃうね」

 侑はそう言って、住所が書いた紙をポケットから出してきた。
一体この短時間でどうやってそれほどのことを調べたのか。
 食器の後始末をしていた秋生はその手を止めて思わず侑に視線を向けてしまっていた。

「そんなことはどうでもいい。住んでるのは李月だけか」
「実体のある住人はね」

 回りくどい言い方であったが、その意味は秋生にも理解できた。
 桜生もそこに一緒にいる。そういうことだろう。
 華蓮は侑には何も返さずに、半ば呆然と話を聞いていた秋生に視線を向けた。

「秋生、お前はどうする?」
「え?」
「一緒に来るか?」

 華蓮が一体何をしにそこに行くのか。秋生には分からない。
 ただ、この時点で話さないと言うことはきっと話す気はないのだろう。
 そして、秋生に聞いてくるということは、少なくともその場に秋生はいてもいい。

「……行きます」

 何を話にいくのであれ、その場に自分がいてもいいというなら、秋生はもう一度桜生に会いたい。華蓮に「自分の体を殺して」と言いに来た桜生に、自分の気持ちを伝えなければならないと、そう思った。

「ならもう行くぞ。その紙を貸せ」
「やだ」

 侑の意外な返答に、華蓮は思いきり顔を顰めた。

「僕は見つけて来いとは言われたけど、それを教えろとは言われてない。大体、僕ばっかりのけ者にしてるくせに僕だけ使うっているのはちょっと虫がいいとは思わない?追い出すなら追い出してもいいけど、どっちにしてもこの紙はあげないよ」

 侑はそう言って紙をぴらぴらさせた。
 さすがに華蓮の友人をやっているだけのことはある。一筋縄ではいかない。
 華蓮は終始顔をしかめていたが、諦めたようにため息を吐いた。

「本当にまとめて追い出したいくらいだ」
「追い出すの?」
「…その紙を寄越せ。ドラマの方の新曲を歌ってやる」

 それは、前にここで口論になっていたものだ。
 秋生だけが聞いたあの歌。華蓮が歌っているのを聞いて、過剰に感化されたあの曲。

「本当に!?」

 予想外の返答だったのか、侑は目を見開いてガタリと立ち上がった。
 華蓮はあまり乗り気ではなさそうだが、差し出した手は引かない。

「ああ。だからその紙を寄越せ」
「それはもう、喜んで!」

 侑は今にも飛び跳ねそうな表情でそう言うと、華蓮に弄んでいた紙を差し出す。
 華蓮はそれを受け取ると、その住所を食い入るように見つめた。

「ただ、もう一つ条件がある」
「渡した後にそれ言うのって、ずるくない?」

 一気に明るくなっていた侑の表情がまた曇る。
 さきほどから駆け引きばかりだ。見ているこちらが疲れてしまう。

「簡単なことだ。羽根が1枚欲しい」
「なんだ、そんなことか。そんなの別に条件にしなくてもあげるよ」

 侑はそう言いと、いつの間にかなく黒い羽根を1枚手のひらに乗せていた。
 一体どこから出してきたのか。先ほど突然窓から出て行ったことといい、マジシャンにしても超常現象が過ぎている気がする。
 そして、その羽根が一体何の役にたつのか秋生にはサッパリ分からない。


「そこまでして李月に会ってどうするんだ?」

 秋生がぽかんとしていると、洗濯物を干していた深月がダイニングにやってきて、不思議そうに華蓮に視線を向けた。
 どうやら洗濯物は干し終わったようで、双月が籠を片付けにリビングを出て行くところだった。

「用事があるのはあの馬鹿じゃない」

 華蓮はそう言って立ち上がると、住所の書いた紙をポケットにしまい込んだ。
 ということは、華蓮は桜生に用事があるということだ。

「行くぞ、秋生。その残りは侑にでもやらせておけ」
「え…」
「いいよいいよ。今最高に気分がいいから!」
「じゃあ…お願いします」

 ドラマの主題歌を華蓮が歌うのがよほどうれしかったのだろう。
 秋生はテンションの高い侑に洗い物を変わってもらい、既にリビングを出ようとしてる華蓮に続いた。


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