Long story


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 防音設備皆無の部室での新聞部の笑い声は、廊下まで声が響いていたのは明らかだ。普段は静かであるから、部室前の廊下を通る生徒はきっと不思議に思うだろう。

「やばー、ちょっと秋、確かめてみてよー」
「無理に決まってるだろ。近寄ろうとした時点でバット一振りだ」
「まぁ、それが出来てれば誰かがやってるだろうしな」

 ようやく笑いが収まって、3人は息を整えながら会話を再開する。激しい運動をしたわけでもないのに、物凄い疲労感と息切れだ。一体どれくらい笑い続けていたのだろうか。

「…ていうか、図書委員の話はどうなったんだ」

 呼吸も落ち着いてきたころ、秋生は本来の話を思い出した。話の展開というのは気をつけておかないとコロコロと変わるもので、最初とは全く違う話になってしまい、そして元の話よりも衝撃的な話が出現することが多々ある。そうなるとほぼ全員元の話など忘れてしまって、元に戻そうとしても思い出せないものだ。しかし、秋生としては元の話も中々の衝撃だったため、思い出すは容易であった。

「あっ、そうだ、それだ。いやー、ちょっとの脱線からの思わぬ展開ですっかり忘れてたー。そのデキてるって話が本当どうか確かめに行こうと思ってたんだよねー」
「でも、確かめてどうすんの?男同士なら、別にデキてても問題なくね?」

 秋生が問うと、春人はニヤリと悪そうな笑みを浮かべた。どこからともなく「おぬしも悪よのう」と聞こえてきそうだ。

「それがですねー、そのネタに上がってる教師がー…なんだと思う?」
「既婚者とか?」
「それも有り!でも、今回は違うんですなー」

 ニヤニヤと笑うその姿は本当に悪人面だ。さきほどまでたらこだのおちょぼだのと下らないことでゲラゲラ笑っていた様子とは似ても似つかない。

「この学校内で他に付き合っている教師または生徒がいる」
「みつ兄、ビンゴー!」
「うわ、修羅場!」
「でしょう、でしょう〜!秋もそう思うよねぇ〜。修羅場なのですよ、今回のターゲットの教師は、他の教師と付き合っているっているのが学校公認なんですよー。それが図書室で図書委員と密会デートなんて、もうねぇ、修羅場の予感しかしないですよねぇ〜!」

 つい先ほどまで悪人面だったかと思ったら、立ち上がって目をキラキラさせて、まるで宝物を見つけた子供のようだ。

「テンション高いな」
「人の不幸は蜜の味って言うでしょ〜」
「お前絶対幸せになれないな」
「他人の不幸があれば自分の幸せなんていらないよぅ〜」

 重症だ。不思議な感じだと思ったが、色々重症だ。テンションが上がった時だけこの状態だからいいようなものの、普段からこれならば絶対に付き合いたくないタイプだ。

「お前ろくな死に方しないな」
「そんなことわかってるよー。さて、話の大筋も分かったことだし、早く行かないと下校時刻になっちゃうからね」
「……少し楽しくなってきた」

 こういうことを楽しむのはよくないことかもしれないけれど。誰だって、他人の不幸や修羅場を見るのは楽しいものだ。自分が関係ないからこそ、傍観者として楽しめるのだ。
 そもそも、学校生活というのはこういうものだ。人間を相手に楽しむことだ。
 幽霊を追いかけて、悩みを聞いて、成仏させることではない。

「でしょー!てことで、みつ兄もレッツゴー」
「あ、俺も行く感じ」
「当たり前の感じ〜」

 そんなわけで、新聞部と秋生は揃って図書室に向かった。
 今まで特に気にしていなかったが、これが本来の高校生らしさというものなのだと、今さらながらに感じた。
 図書室に向かう中、普段華蓮としかいない秋生が新聞部と歩いているからか、通りすぎる生徒が何度か振り返ったが、春人も深月も全く気にすることはなかった。多分、華蓮が新聞部と交流があるのは、2人のこういった性格が大いに関係しているのだと秋生は改めて感じることとなった。


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