Long story


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 琉生には学校内で職員室とは別に部屋があてがわれている。それは、心霊部の干渉を受けた場合に職員室や他の教師に移るのを防ぐためだと言う。その理由の時点でどうかとも思ったが、今までの心霊部の顧問にはそのような措置はなかったというのだから、それですら建前だということが分かる。本当のところは心霊部と深く関わりのある人物になるべく近づきたくないのだろう。だから、部屋の場所も誰も知らないような、旧校舎の音楽準備室なのだ。
 そんな、誰も場所を知らないようなところに来客があったのは初めてだった。それも、まるで道場破りでもするかのように、扉を思いきり蹴り飛ばすとは初来客だ。世月はノックもせず(蹴飛ばしているのだからそれがノック代わりなのかもしれない)学校のマドンナらしからぬ行動でずかずかと室内に入ってきた。


「お前…格好に相応しい態度が取れないのか」
「うるさいわね。私の春君を悲しませる奴は許さないわ」


 いきなり入ってきた世月は、許可もとらずに備え付けの椅子にドカッと座って琉生を睨み付けた。


「何の話だ…?」


 もしかして、授業中の春人への態度のことを言っているのだろうか。それならば、多少やりすぎている部分はあるかもしれない。しかし春人もそれなりに楽しんでいる。それに、昨日今日の話ではないし、今さらこれほど怒ってくるのも不思議な話だ。



「どうして秋君を放っておくの?」
「相澤の話じゃなかったのか…?」
「いいから答えなさいよ」

 ガタンっと、これまた備え付けのガラステーブルの上に足を叩きつける。
 全く行儀が悪いったらない。よい子は真似しないでねというテロップが必要だ。

「秋生が嫌がってるんだからしょうがないだろ」
「あんたの行動が原因でしょ。秋君を放って、私たちばっかり構ってるからよ」
「…あいつはそんなこと気にしないだろ」

 琉生の言葉に、世月は一瞬目を丸くしてから大きなため息を吐いた。

「飽きれた…!秋君が気にしないわけないじゃない。馬鹿じゃないの」
「お前もう少し言葉を選べよ」
「知ったことじゃないわ。…どうしておじいさんが死んだときに帰ってあげなかったの?どうして連絡もしてなげなかったの?どうして久々に会った時、一番に話をしてあげなかったの?」
「……それは、」
「私に説明するんじゃなくて、秋君に説明しなさいよ!それとも、聞いてもらえないならそれでいいとでも思っているの?このまま離れていってもいいとでも?」
「そんなわけないだろ!」

 世月のまくし立てるような言葉に、琉生が声を上げて反論した。
 それでいいわけはない。離れていってほしくもない。
 けれど、悪いのは全部自分だから、拒まれるのに突っ込むことはできなかった。


「本当に馬鹿ね!無視されるなら捕まえて縛り付けてでも説明しなさいよ!そうしないと、秋君はずっとあのままよ!」

 世月は立ち上がると、琉生に近寄ってきて胸倉を掴みあげた。

「あなたに分かる?自分の片割れが大事な人の手によって消されるかもしれない、あの子の気持ちが。あの子はきっと華蓮を止めないわ。それで華蓮が救われるなら…って、割り切るわ!でも…きっと後悔する。いくらそれが正しいことでも、それしか方法がなかったとしても、自分は止めるべきじゃなかったかって。自分が止めていれば、もしかしたら違う方法があったのかもしれないって、一生苦しみ続けるのよ!!」

 世月の表情は、口調とは打って変わって辛そうだった。

「私は…秋君に私と同じ思いをしてほしくない。だから、華蓮を止めて欲しい…。でも、それは私が口出しすることじゃない。そして…秋君が華蓮を止めないことは明らかよ。そうすればきっと…、私と同じ思いをするわ。最悪の結末よ。それが最悪だと分かっていても、でも…私には……何もできない」

 そう言う世月は琉生から視線を離すことなく、今にも壊れていまいそうなくらい、辛そうな表情を浮かべている。
 過去の自分と未来の秋生を重ねて、どうすることもできなかった悔しさと、そして今も何もできない不甲斐なさで、押しつぶされそうになっている。

「でも……でもだからって、あなたまで無くしてしまう必要なんてないじゃない」

 世月は俯いて、ぼろぼろと涙を流した。

「あなたたち兄弟はことごとく私の過去を写しているわ。未来の秋生君も…そして今のあなたも」
「俺も……?」
「…どうしようもなくなって、逃げ出して、いなくなろうと思った。でも、私はすぐに見つかって……酷く怒られたわ。どうしていなくなったんだって。理由を話すともっと怒られて…でも、許してくれた。嫌いになったかって聞いたら、笑顔を向けてくれた。…どんな理由でも、嫌いになんかなれないって。大好きな兄弟なんだからって、そう言われたわ。……私は…、秋君もきっとそうだと思う」


 世月は顔を上げると一瞬笑みを浮かべ、そしてまた辛そうな顔になった。


「だから…最悪の結末になってしまったとしても、秋君にはあなたがいる。それは華蓮とは違う支えよ。絶対に必要なものなの。それなのに、あなたはこのまま秋君とのわだかまりを解消しないまま……差し伸べれば届く手も伸ばさずに、秋君を一生苦しみに縛り続けるの……?」

 世月はそう言うと、琉生の胸倉を掴んでいた手を離した。そしてごしごしと涙を拭きながら乗りあがっていた机から降りると、そのまま自らが蹴破った扉の転がっている入口に向かう。

「世……双月」

 琉生が呼び止めると、世月がくるりと振り返った。
 いまさきほど涙を拭いたばかりなのに、またあふれ出している。

「サンキュー」
「やめなさいよ、気持ち悪い…!」

 世月はそう吐き捨てて、すたすたと出て行った。
 琉生は世月の足音が聞こえなくなったのを確認してから立ち上がると、蹴破られた扉をとりあえずはめてからそのまま部屋を後にした。



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