Long story


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 春人には分からないことだった。
 7人兄弟でちょうど真ん中である4番目の春人には上にも下にも兄弟がいる。上2人の兄は年が離れているために、普通ならば両親がいない下の兄弟たちを支えていくものだと思うが、どちらも3番目の兄に全部押し付けさっさと家を出て行ってしまった。帰ってくるのはせいぜい数か月に1度。実に自分勝手な兄だ。しかし、それでも兄たちが帰ってくれば兄弟たちは喜ぶし甘える。全部押し付けられた兄も文句をいいながら嬉しそうに出迎える。兄たちも自分たちを思いきり甘やかしてくれる。
 例えどんなに会えなかった期間が長くても、許せなくても、戻ってきたことが嬉しくないはずはない。甘えることができないならせめて思いきり怒ればいいのに、秋生は最初に会った時以来口もきこうとしない。話もしていないのに、自分は見放されたのだと諦めている。もう一人の双子の兄弟の方なんて、まだ会ってもいないのに諦めている。

 春人には分からない。
 どうしてそう簡単に諦めることができるのか。まだいなくなったわけではないのに、どうしてもういなくなってしまったと断言してしまうのか。
 人は変わるものだ。ずっと同じままの人間なんていない。年も取れば、性格だって変わるだろうし、考え方だって変わる。
 けれど、それでも変わらないこともある。
 それなのに、秋生はそれを探そうともしないで、自分から突き放してしまっている。諦めてしまっている。


「春君?どこに行くの?」
「ふた…世月先輩……と、夏川先輩」

 目の前に世月と華蓮が洗濯かごを持って立っていた。
 春人は世月に問われてようやく、思わず飛び出してきてしまったが自分がどこを歩いているのかも理解していなかったことに気が付いた。

「どうしたの?怖い顔して」
「……世月先輩は、もし兄弟がいなくなって、戻ってきたときに自分と知っている姿と変わっていたらどうしますか。もう前には戻れないと、諦めますか?自分の知っているその人じゃなかたら…前に戻れないのなら、いない方がいいと……突き放しますか?」
「ちょっと、急にどうしたの?」
「答えてください」

 春人が問い詰めるように言うと、驚いた表情を浮かべていた世月が真剣な表情に変わった。


「どうするかと聞かれたら、まず怒るわね。今までどこで何をしていたのって。でも…それがどんな理由でも、許すと思うわ」
「全然違う人になっていても?」
「ええ。どんな風に変わっていたとしても、戻れないとしても…大好きな兄弟よ。嫌いにはなれないわ」

 世月はそう言ってニコリと笑った。
 春人はその笑顔を見て、何故か泣きそうになった。

「秋生は、嫌いになったんでしょうか……」
「え?」
「もう戻れないからって、諦めてる。お兄さんのことも、双子の子のことも。…嫌いになったから…諦めてるんでしょうか」

 言ってから、春人はしまったと思った。世月の隣には華蓮がいる。華蓮の前で、桜生のことは少しだけでも出すべきではなかったかもしれない。


「秋生が、諦めたと言ったのか?」
「そうじゃないですけど…俺に兄弟が多いのを、羨ましいって。秋生にもいるでしょって言ったら、もう遅いって……」

 意外にも華蓮が反応してきたので、春人は先ほどのことをそのまま伝えた。

「そうか…」

 華蓮はそれだけ言うと、春人の横を通り過ぎて行った。

「俺…、まずいこと言っちゃったんでしょうか……?」
「いいのよ。どうせいつかは決めなければならないことだもの。…秋君の双子の兄弟を、どうするかということは」

 それはあまりに残酷な現実だと思う。
 秋生にも華蓮にも罪はない。桜生にだって、罪はないのに。


「でも…琉生の方はまた別ね」
「え…?」
「どんなに恨んでも、嫌いにはなれないものよ。そばにいるんだもの、手を伸ばせば届くわ」

 そう言うと、世月はもう一度笑った。そして、春人の頭を優しく撫でた。
 春人はまた、泣きそうになってしまった。



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