Long story


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 リビングから移動していると、上からの声がより一層響いてくる。しかし、そんな中でも秋生は全く起きる気配を見せなかった。

「…なんだ、お前も一緒なのか」

 秋生が元々寝ていた部屋に戻ると、姿の無い声が残念そうに呟いた。

「一緒じゃなかったら何する気だったんだ」
「ナイショ」

 ナイショが好きなこの声は、何でもかんでも内緒にしようとする。どうせ問い詰めても答えないので、華蓮はそれ以上聞かない。
 秋生を布団に寝かせると、ふわりと風が横をすり抜けていくのを感じた。

「あんなに寒がって全然寝つけてなかったのに…すっかり寝入ってちゃて……」

 声が秋生に近付いて行く。

「近寄るな」
「ああ、そうか。そういうことか……」

 声は華蓮の指摘を無視して、更に秋生に近寄っていく。そして何か分かったというように言葉を呟いた。

「何だよ」
「この子が寒がっているのは、この子の力によく似た強大な力に共鳴しているからだ。この子は前にこの力に触れているけど―――…普通、一度触れると耐性が出来て共鳴することはなくなるけど、でも、この子と相手の繋がりが強すぎるから、共鳴の力が大きすぎて耐性ができないのか。繋がっているのはこの子の両親か…あるいは兄弟か……」

 声は冷静に分析していく。間違ったところはない。

「お前もこの子と繋がっている力に触れたことがあるな?」

 一人で勝手に考えていると思ったら、突然推論を向けてくる。そしてそれもやはり、間違っていない。

「ああ」
「やっぱり。…お前の力は、前に触れたことで耐性ができてる。そのお前の力が、この子を外界の共鳴から守っている。だから、お前の力に触れている間は共鳴しない」

 だから、華蓮に触れている間だけ秋生は寒さを感じない。
 カイロというより、強力な防寒着と言った方が近いということだ。

「つまり、俺の力に触れていれば、俺じゃなくてもいいってことか?」
「まぁ、そういうことだね」

 そらなら話は早い。


「お前、たまには役に立つんだな」

 これで秋生を終始寒さから解放させることができる。
 少しだけ、勿体ないような気もするが、それでも秋生の寒さを除く手段が分かったうえでそれをしないわけにはいかない。口では言わないが、本人も相当辛いはずだ。

「失礼な奴だな」

 耳元で怒っている声を無視して、華蓮は2階の音に耳を澄ませた。叫び声は聞こえなくなったが、ガタガタと物音がしていることからまだ華蓮の部屋の周りをうろついているのだろう。さっさと出て行ってくれないと、華蓮はいつまで経っても戻れない。


「部屋に戻るのか?その子を襲わないのなら、ここで寝ることを許可してやるけど?」
「何様だお前」

 家の主は華蓮なのに、さも自分の家のような言い方だ。部屋を提供しているだけありがたいとは思わないのだろうか。

「どのみち、お前が離れたらこの子はまた起きてしまう」
「それくらい……いや、まぁいい」

 2階から聞こえる物音は、多分しばらく収まることはないだろう。それが治まるのを待っていたら、ろくに寝る時間がなくなってしまうだろう。それならば、ここで寝てしまう方が賢い選択だ。
 華蓮は自らの言葉を自分で遮ると、秋生の隣に横になって目を閉じた。眠気は感じていなかったが、横になると案外すぐに眠れそうだった。




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