Long story


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 華蓮の態度はいつも同じだ。誰に対しても今のような態度だ。しかし、秋生がいてチビ、つまり加奈子が五月蠅いのは秋生のせいではない。それなのに、秋生が締め出されるのは少し納得いかない気もする。とはいえ、今から追いかけても睨まれそうなので、追いかけたりはしないのだが。

「……酷くないすか」
「華蓮といるせいで普段から友達付き合いできてないんだろ?アイツなりの気遣いじゃないのか」

 深月の言葉に、秋生は目を見開く。

「まじすか。先輩、気遣いとか出来るんすか」
「いや、絶対に違うだろうけど。言葉通りの意味だろうけど」

 ちょっと感心したのに。一瞬で否定するなら、言わなければいいのに。

「まぁ、どうでもいーじゃん。少なくても今日の放課後、秋は自由ってことでしょ」
「…多分」

 そう言われれば、秋生が華蓮と一緒に行動し始めてから何もない放課後というのは初めてかもしれない。華蓮のところに行くのが日課になっていて、何もなくても窓から下校する人を眺めて、何かあれば退治に行って。思えば、普通の高校生らしい放課後を過ごしたことがないような気がする。

「じゃあさー、一緒に図書室行かない?図書委員と教師がデキてんじゃないかってネタ拾ったんだー」
「……デキてるって、うちに女の教員いたっけ?」

 前にも説明したかもしれないが、していないかもしれないが、白鳥高校は男子校である。つまり、生徒は男子しかいない。しかし、秋生は入学してから今まで、女性教員を見たことがなかった。

「女子教員なんていないよ」
「……」

 秋生は頭をフル回転させる。しかし、話は見えない。いや、なんとなく春人の言わんとすることは分かっているのだが。

「秋生は耐性がないのか」

 深月が少し驚いたような表情を浮かべる。驚きたいのは秋生の方――既に十分驚いているのだが。

「耐性って…」
「男子校だよ?女の子なんて相手にしてたら一生青春おわっちゃうよ?ていうか、そもそもそれが目的で入学してる人も多いよ〜、多分」
「ま……まじでか」

 男子校に入ったら、そういう人もいるだろうというのは薄々頭にあった。しかし、いても一割に満たないと思っていた。というか、1人とか2人とかだろうと思っていた。そして、それについて深く考えたことなどなかった。

「結構当たり前だよ。そっか、秋はあんまり教室とかいないから、そういう話とかも聞かないもんね」
「え、そんなに当たり前なのか?俺がおかしいのか?」
「おかしくはないよ。他校に彼女がいる人だっているしねー。でも、少なくとも男同士がいちゃついてても誰も驚かないかなー。ていうか、実際結構カップルいちゃついてるし、運動部の部長とかだとファンクラブもあったりするし」
「うわぁー…俺は時代についていけてないのか」

 秋生が頭を抱えると、春人はクスクスと笑い、深月は苦笑いを浮かべた。

「別に無理してついていくもんじゃないだろ。生物学的にはそれが正しいし、ここでカップルやってても卒業して普通の環境に戻ったら、普通に女と付き合いだす奴が多かったりするし。もちろん、そのままその道を行く奴もいるけど」
「要は環境の問題だよねー。人間ってさ、自分のいる環境に順応するように出来てるんだよ。だからー、秋もそのうち分かるようになるし、好きな人とかもできちゃったりするかもしれないよ。でも、卒業したらそんなこと忘れて、普通に女の子と恋愛するかもしれない」

 妙に説得力がある。新聞という人に読ませるものを普段から書いていたら言葉も説得力が身につくものなのかもしれない。

「……そういうもんなのか」
「そういうもんじゃないかなー。分かんないけど」
「まぁ少なくとも、たった今秋生はこの学校ではそれが当たり前ってことを認識しただろ。だから、後は順応するかどうかの問題じゃないか。しなければしないで見ないようにすればいいし、彼女が欲しければ他で探せばいいし、順応してきたらそれはそれで、彼氏を探すなりなんなりして高校生活楽しめばいいってこと」
「……頑張ります」

 別に頑張ることじゃないけど、と深月は秋生の肩をポンと叩いた。言われてみれば、別に頑張ってどうこうする問題ではない。こればかりはどうにもならない。少なくとも今は、そんなこと微塵も考えられないけれど、2人に言われたら確かに順応していけばそういうこともあるのかもしれないとも思った。

「先輩がいる限り彼氏は無理じゃないかなー」
「まぁ、誰かが秋生を気に入ってもあのラスボスがいたんじゃ近寄れないな」
「ですよね〜。最初からラスボスって、どんだけ〜」
 少し古いギャグを持ち出して、春人は再びクスクス笑った。
「でも、案外あれで人気あるんだよな、夏も」
「えっ!」
「一体何がいいんすか!あんな歩く凶器!」

 春人と秋生は驚きの声を上げた。深月は2人の反応に対して苦笑いを浮かべる。

「……結構酷い言いぐさだな。なんか、生徒会主催のミスコン?みたいなのがあって、去年はそれで上位だったぞ、アイツ。生徒会と折り合い悪いからあまり真面目に見てないけど、近寄り難い感じがいいとか?ネッグウォーマーの下は美形なんじゃないのか的な?授業でないのにそこそこ頭いいから素敵みたいな?」
「ないわー」

 秋生と春人は同時に声を出して、苦笑いというか、引き笑いのような表情になる。
 別に何をしたわけでもなく、他人から勝手に評価されて引かれて、華蓮は全く悪くないのだがなんとも不憫である。

「大体、確かに上は整ってるけど、ネッグウォーマーの下がすげぇ不細工だったらどうすんだ。たらこ唇とか」
「それはいやだー!でも見てみたい!」
「お前ら本当に酷いな」

 と言いつつ、深月も口元を押さえている。先ほどまでの苦笑いではなく、可笑しくて笑
ってしまいそうなのを必死に堪えているのだ。

「秋は先輩の素顔見たことないの〜?」
「ない。あの人、夏でもあれなのかな?」
「夏でも長袖だし、ネッグウォーマーも外さない。よく熱中症にならないよな」
「え、まさか本当にたらこ唇なんじゃあ…」
「もしくは凄いおちょぼ口!」

 ここで必死に笑いを堪えていた深月も等々声を出して笑い出した。秋生はもう爆笑。春人も自分で言った言葉に大爆笑している。部室内に、しばらくゲラゲラと笑う声が響いた。


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