Long story


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 バタン!!!


 扉が壊れてしまうのではないかというほどの音に、騒がしかった室内が一瞬で静まり返る。そして、一斉に開いた扉の方に視線が向いた。

「どいつもこいつも馬鹿みたいに騒ぎやがって…」

 あ、これはダメなやつだ。
 睡蓮は一瞬でそう判断し、二次災害を食らわないようにキッチンに避難した。

「お…落ち着いてなっちゃん。これには深いわけが…」
「うるせぇ黙れ」

 と言われたら、能天気な侑でもさすがに黙るしかない。

「ひっきりなしに騒ぎやがって、誰のせいで俺が時間を無駄にしてるか分かってんのか」
「それは100%侑のせいだと」
「なら誰が殴られるかも分かってんだろ」

 華蓮が胸倉をつかむのは、元凶の侑ではなく深月だ。
 お約束だ。

「ですよねー…」

 今回は一緒に騒いでいたからだろうか。深月は意外に潔い。
 これは深月が素直に殴られて、意外と早く修羅場が終わりそうだ。深月には悪いが、そのまま殴られて早く嵐を送ってほしい。

「やーねぇ、かーくん。やめときなさいよ」

 せっかく手早く過ぎ去ろうとした嵐を、世月がその場にとどめてしまった。どうしてそんなことをするのかと気を疑う反面、この状況で割って入れることに感心する。

「何だよ」
「何だよじゃないわよ。私の可愛い春君と、あなたの可愛い秋君の前で人を殴らないでくれますか」

 世月は春人を抱き寄せながら、呆れたような口調で言い放った。


「えっ」


 秋生と春人が同時に目を見開いて声を出す。
 それはそうだろう。この状況で全く関係ないと思っていた自分たちの名前を出されて驚くなと言う方が無理だ。


「貴様らまた勝手に…!」

 2人を見た華蓮が一瞬動きを止めたかと思うと、また深月と侑に矛先を向けた。

「いや、秋生に連絡したら春人もいるって言うから、まぁいいかと…」
「春人以前に何で秋生を呼ぶんだよ」
「秋生君のご飯が食べたかったからです……!」

 黙れと言われてずっと黙っていた侑が口を開く。
 秋生はいかにも「これ以上自分の名前を出さないでくれ」という表情をしていたが、睡蓮はどうしてか次が自分の番だと思った。

「僕も、秋兄のご飯食べたい…!」

 言ってしまったと思った。そして秋生に心底ごめんなさいと思った。
 隣に立っている秋生を見上げると、もうどうとでもなれと言うような表情になっていた。
 本当にごめんなさいと、心の中で再び謝った。

「睡蓮もこう言ってることだし、秋君たちをここに呼んだことは責められないわねぇ」

 世月が追撃する。

「ということは、秋君と春君がここにいることはしょうがないことよねぇ」

 世月の追撃は終わらない。

「そんな2人の前で、人を殴らないでくれますかって言う話に戻していいかしら」

 華蓮は何も答えない。
 そして、終わったかに思われた世月の追撃は最後の一撃を放つ。

「侑と深月が手伝うから、勘弁してあげてくれないかしら?」

 完璧だった。
 睡蓮はここまで世月のことを尊敬したのは初めてだった。

「もういい。好きにしろ」

 華蓮はそう言ってため息を吐くと、今度は比較的静かに扉を閉めて出て行った。
 尊敬どころの話ではない。睡蓮には、今の世月が神様のように思えた。



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