Long story


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「秋生くーん、春人くーん、戻って来なさーい!」


 狭い室内に深月の声が響き渡る。思わず耳を塞いでしまうほどの音の大きさだ。
 外に聞こえたらどうするのだと一瞬思ったが、今の声は深月の声だったため聞こえていたとしても大丈夫だろう。


「!!!」


 メガホンの効果は絶大で、会話をしていても全く動くことのなかった秋生と春人が、ビクッと体を跳ねた。それと同時に、意識も取り戻したようだ。


「今一瞬心臓止まった俺…」
「俺も止まったと思う…」


 2人の第一声は意外にも普通だった。
 否、普通とは言い難いかもしれないが、もっと騒ぎ出すことを覚悟していたので、そうではなかったことに拍子抜けしたと言った方が正しいかもしれない。

「何だお前ら、意外に冷静じゃねぇか」
「うわ!レフト様!!」
「ち、近!!」

 以外にも冷静なように見えた2人だったが、深月の顔を確認した瞬間にガタガタと立ち上がって後退りをする。
 まるで逃げるように部屋の隅に移動すると、2人で抱き合うような体勢になった。息のい合っていることだ。

「冷静なのかそうじゃないのかどっちなんだよ」
「レフト様がみつ兄の声で喋ってる!」
「レフト様きもい!」
「っ…!」

 抱き合ったまま、春人と秋生が立て続けに声を上げた。
 その反応に思わず華蓮と双月はほぼ同時に噴出してしまう。

「はぁ!?なんだ失礼な奴だな!…何笑ってんだよお前らも!」
「ぷくく…だって……レフト様きもいって!!」
「レフト様きもい……」

 バンドを組んでから結構年月が経つが、レフト様に対して「きもい」と本気でドン引きしたのは後にも先にもこの2人だけだろう。

「お前ら他人事だと思って…!つうかな、俺よりもこいつが世月の声出した方がよっぽどきもいから!聞いてただろ!」
「あ、あの時は顔が見えてなかったから…」

 秋生の言葉を聞いた深月はくるりと向きと変えて双月に詰め寄っていく。

「おい双月今すぐ世月の声で喋れ!」
「嫌だよ!わざわざ自分からドン引きされに行く奴がいるか!」

 双月は深月に胸倉をつかまれながら、思いきり顔を顰める。
 その光景を見たとき、華蓮はふと疑問を浮かべた。


「それよりお前、双月でいいのか」


 一瞬、時が止まったかのように室内が凍りついた。



「ああああああ!!!!」



 かと思った次の瞬間、双月がこの世のものとは思えないほどの断末魔を上げてその場に膝から崩れ落ちた。

「…駄目だったのか」
「まぁ、色々と面倒なことになってくるからな!」
「軽いなお前」

 華蓮が言わないほうが良かったかもしれないと思っている隣で、深月はテンションが高い。まるで双月の秘密がことごとく露見しているのを喜んでいるようだ。

「いや、俺は前々から思ってんだよ。春人には早めに言っといた方がいいって。それなのにこいつ頑なに隠そうとするから。まぁ確かに、双月がバレると色々ややこしいとは思うけど」
「うるさいお前マジで黙れ!」

 もう生気も抜き去って灰になりかけていた双月が、深月の言葉に反応して顔を上げる。

「だってさー、いくらライトだってバレるのが嫌だからって、会わないようにするってのってどうよ」
「明らかに逆効果なきもするけどな。言っても聞かなかったんだから、本人の好きなようにさせておけばいいだろ」
「おいお前ら!!この状況でなにべらべらしゃ……」
「はぁ?」

 深月と華蓮の会話を止めようとする双月の言葉を、春人の一声が遮った。
 秋生と抱き合うように教室の隅に寄っていた春人が、まるで何かが吹っ切れたかのように双月に近寄っていく。


「世月先輩!え?世月先輩でいいんですっけ?」

「え、あ…ああ、うん」
「じゃあ世月先輩!それで俺と会ってくれなくなったんですか!」

「えっ」

「だから、ライト様だってバレるのが嫌で会ってくれなくなったんですかって、聞いてるんです!!」
「はい、そうです」

 双月が思わず敬語で返してしまったのもしょうがなく思えるくらい、春人の勢いは凄まじかった。


「はぁ―――――よかった」

 双月の返答を聞いて、春人はなぜか安心したように深い溜息を吐いた。


「よかった…?」


 心の底から分からないというような表情で春人を見る。
 それに対して春人は今一度溜息を吐いて、頷いて見せた。


「俺、世月先輩に嫌われちゃったんじゃないかと思って……本当に悩んだんですよ!」
「バレると嫌われるかと思って…必死だったんだよ」
「好きな人が好きな人なのに、嫌うわけないでしょ!」

 春人の主張は最もだが、その主張は今ここでしていいものなのか些か疑問な内容である。
 思いきり「好きな人」と大胆に叫んでいることを、多分本人は理解していない。

「す、すいません」

 この反応を見る限り、多分双月も「好きな人」と大胆に主張されていることには気づいていないだろう。
 よかったと言うべきか、悪かったと言うべきか分からない状況だ。

「許しません!!」
「えっ!?」
「嘘です。嫌われたんじゃないって分かったから、それでいいです」

 そう言って春人は笑顔を見せた。
 多分、今双月が世月の格好ならばすぐさま春人に抱き付いているに違いない。


「―――て、ライト様!?近い!」
「えっ、今さら!?」

 ずざざ、と後退りをした春人には、今まで双月が何に見えていたのだろうか。

「……春人超うける」

 深月が小さく呟いた言葉に、華蓮は全面同意だった。




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