Long story


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 心霊部の部室では万一華蓮が来ないとも言い切れないので、秋生と春人は新聞部の部室に腰を据えた。ここならば、来るとしても深月だろうし、深月ならば最悪話を聞かれても大丈夫だろうということで新聞部が会議室に決定された。

「…俺の知らない間に随分と話が進んでるじゃないですか」

 いつからこの学校に順応したんですか、と春人は意地悪く笑う。

「言おうと思ってたけど、それこそごたごたしてただろ」
「まぁ、いいけどね。…夏川先輩、意外と面白い」

 面白いで片づけられる問題ではない。
 秋生には、華蓮が何を考えているのかさっぱりわからない。華蓮の発言はいつも回りくどくて、秋生の理解の仕方が正しいのか、それとも自惚れなのか判断に困ることばかりだ。

「まぁはっきり言って、好きって言われてるようなもんだよね」
「え…」
「すっごい回りくどいけど、絶対にそう」

 秋生がどうしても処理できなかったことを、春人はきっぱりと断言した。
 そして気付いた。秋生がどうしても理解できなかったのは、華蓮が自分のことを好きになるわけないと、そんなことはありえないと断言していたからだ。

「……ありえないだろ」

 しかし、きっぱりと断言されても受け入れられなかった。

「どうして?」

 華蓮が秋生のどこを好きなるというのか。春人みたいに仕事ができるわけでもなく、むしろ足を引っ張ってばかりだ。それだけにとどまらず、顔なんて華蓮が一番憎んでいる相手と瓜二つなのに。
 どう考えても、華蓮が自分のことを好きになるようには思えない。ありえない。


「秋生、いいこと教えてあげる」
「何…?」
「この世に有り得ないことはたった1つだけ。どんなことにおいても有り得ないということだけだよ」

 春人はそう言って、にこりと笑う。

「有り得ないことは…、有り得ない」
「そう。だってさ、猫とネズミだって、つがいになることがあるんだよ。それを考えたら、先輩が秋生のことを好きになることなんて何も不思議じゃないよ。いくら秋生が先輩の一番恨んでる人にそっくりで、おまけに馬鹿で駄目な子でもね」

 春人の言っていることは実に説得力があり、秋生にもしかしたらと思わせた。
 もしかしたら、華蓮が自分のことを好きになることもあるかもしれない。
 一度そう思うことができたら、とても頭がすっきりした。まだ少しだけ不安があるけれど。
 でも、否定するばかりじゃなくて素直に受け入れてもいいかもしれないと、そう思った。

「問題なのは、夏川先輩がどうしてそんな回りくどい言い方をしてくるのかってことじゃない?まぁ…基本的にストレートに好きとか言いそうにはないけど。多分、秋生にはこれくらいのことも理解できないだろうって分かって言ってると思うんだよね。理解できるように言えば早いのに、どうして理解できないように言ってるのかが分からない」

 さきほどから春人は秋生に手厳しい。というか、完全に馬鹿にしている。
 しかし、春人の意見は貴重なので敢えて何も言わない。

「言えない理由があるのかもね。何かすっごい秘密とか。それを知られると秋生に嫌われるかもしれないような」
「嫌えたら苦労しないと思うんだけど…」

 毎日のように華蓮のことを考えて、距離が近づくだけで爆発しそうなほどのこの感情を。簡単に失くせたら苦労はしない。とはいえ、どんなにこの感情に振り回されようと、なくしたくなんかないけれど。

「とはいえ全部俺の憶測だからさ。本当のところ、夏川先輩が何を思って回りくどいことをしてるのかは、先輩にしか分からないでしょ」
「まぁ…そうだな」

 とはいえ、きっと聞いても華蓮は答えてはくれないだろう。また周りくどく言われるか、はぐらかされるかのどちらかだ。

「てことでさ、この際てっとり早く秋生が言っちゃえばいいんだよ。夢だと思ってるところじゃなくて、ちゃんと現実だって理解してるところで好きですって。そうすれば、夏川先輩だって逃げられないでしょ」
「え!」

 春人の提案に、秋生はがたりと椅子を揺らした。

「じゃないと絶対に答えは出ないと思うよ。簡単じゃん。好きです付き合って下さいって、言えばいいんだよ」
「簡単じゃんって…。じゃあお前は世月先輩に言えるのかよ」
「それは無理だけど」
「自分ができないことを人に簡単に言うなよな!」

 何を平然と矛盾したことを言っているのか。
 まるでそこのリモコン取って、と言わんばかりの軽さだ。

「状況が全然違う。…俺は振られる可能性の方が高いから。そんな状況で言うほど馬鹿じゃないよ」
「何で可能性が高いって思うんだ?」
「なんとなく。夏川先輩が秋生に何か秘密にしてるのかどうかは定かじゃないけど、世月先輩は確実に何か隠してる。あと多分、俺が先輩のこと好きだってことバレてる」
「ほぼ同じ状況じゃねぇか」
「それがそうでもないんだよね。俺この前、世月先輩にぽろっと好きって言っちゃったの。あれは確実に聞こえてたと思うんだけど、世月先輩、聞こえないふりした」
「あー…なるほど。それはまた、何ともいえない展開だな」
「でしょ。まぁ、俺も意図して言ったわけじゃないからその点はむしろありがたかったんだけど。問題は、それ以降世月先輩があまり会ってくれなくなったってこと。でも、新聞部には普通に顔出すし、俺が新聞作る手伝いもしてくれる。あからさまに避けてるわけじゃないけど、前より距離を置くような感じ」
「先輩よりも何考えてるか分かんねぇ」
「そうだよ。だから、俺からしてみれば秋生が悩んでることなんて小学校で最初に習う足し算レベルだよ。それに対して、こっちは東大入試受けてる気分」

 春人はそう言うと、顔を顰めながら溜息を吐いた。
 今までで一番説得力のある言葉だ。最初から春人の悩みを聞かされていたら、秋生はもっとすんなり自分の状況を受けとめていたかもしれない。

「なんかごめん」
「ううん。…でもさ、ついでに俺の問題も一緒に考えてよ。世月先輩は一体どうしたいんだろう?」

 秋生は腕を組んで考えた。
 世月と春人の仲がどれほどいいのか詳しいことは分からない。しかし少なくとも、世月は春人のことを相当気にかけている。それは学校での春人への態度を見ていても分かるし、この前華蓮の家に何日か泊まっていた時のことを思い出しても分かることだ。世月は事あるごとに春人の名前を出して、可愛い可愛いと言っている。あれが演技だとは到底思えない。


「付き合えないけど、今の関係は壊したくないとか…?」
「それは俺も考えたよ。でもさ、それなら会うのまでやめなくてもよくない?それって逆効果じゃん」
「まぁ…、そうだな。…世月先輩が何か隠してるなら、それこそそれが原因かも。例えば、好きになられると隠してることがバレるかもしれないから、距離を置くことにしたとか。でも、全く関係がなくなるのも嫌だから、ある程度の関係を保つことにした」
「何それ超勝手」

 秋生の仮定に、春人は思いきり顔をしかめた。

「あくまで俺の憶測だよ。まぁ少なくとも、世月先輩が春人との関係をなくしたくないっていうのは確かだと思うけどな」
「それならそう言ってくれればいいじゃん。俺は別に隠してることをわざわざ追求したりしないし、無理に付き合いたいとも言わない。それくらい世月先輩も分かってると思うけど」
「追求しなくても、一緒にいるだけでバレるかもしれないことかもしれないだろ。だから、あんまり多くの時間一緒にいるとヤバいと思ったんじゃねぇの?特に2人だけで会うのはヤバいと思うような何かがあったとか。春人、最近世月先輩と一緒にいて変なこと言ったとかないのか」
「変なことって……最近は、会うたびに世月先輩がライト様に見えて仕方がないってことばっかり言ってたくらいだよ。それ以外はこれまでと変わりなかったと思うけど」

 春人は最近のことを思い出すかのように、頬杖を付ながら天を仰いだ。

「それは俺も最近の悩みの一つ……ってことはどうでもよくて。…じゃあまぁ、他に何か世月先輩に2人でいたらまずいって思わせるようなことがあったんじゃないのか。言葉じゃなくて、行動とかかもしれないし」
「俺、変なこと言って嫌われちゃったのかなぁ……」

 春人は頭を抱えるように項垂れた。
 世月はよく春人は可愛いと言ってるが、秋生も今の春人を見てそう思わずにはいられなかった。

「俺の憶測だから、本当のところは分からないけどな」

 華蓮の気持ちにしても、世月の気持ちにしても。結局のところ本人に聞かなければどうしようもない。でも、どちらも本人はきっと答えてくれないから困っている。

「まぁいいや。とにかく、秋は夏川先輩に告白すれば答えが出るんだから、実行しなよね」
「そ……その話に戻るのか」

 いい感じにその話から脱線していったと思ったのに、急カーブで戻ってきた。

「当たり前でしょー。答えの出し方が分かってるのに試さないなんて、答えの出し方も分からない俺に申し訳ないと思わないんですかー」
「そういう言い方はズルいんじゃないのか……」
「ズルくなんかないよ。俺はただ、秋に初恋を成就させてほしいだけ」

 だから、そういう言い方がズルいというのだ。
 そんなことを言われてしまったら、告白せざるを得なくなるではないか。

「考えとく」
「いいえ、決定事項です」

 春人にきっぱりと言い切られ、今度は秋生が頭を抱える番だ。

「少し猶予をください…」
「まぁ、それくらいは妥協しましょう」

 春人がそう答えたことで、とりあえず話に決着がついた。
 妥協してくれる猶予がどれくらいかは分からないが、それは敢えて聞かないでおこう。変に時期を指定されてはかなわない。



「さて、じゃあ頭を使う話はこれくらいにして、今日のshoehornの話でもしますか?秋生さん」
「それなら猶予なくいけますよ、春人さん」

 問題は解決してないものの、糸口は見えてきたのでとりあえず集中できそうだ。となると、難しい話は置いておいて、ひとまず目の前の楽しみを謳歌する他ないだろう。
 春人が笑って、秋生が笑い返す。
 部室の扉が勢いよく開いたのは、2人がshoehornの話に花を咲かせ居ようとしていた正にその時だった。




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