Long story


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 柊桜生は柊秋生と一緒にこの世に生をうけた。2人には琉生という兄がいて、そして両親がいた。両親は双子の誕生をとてもよろこんだが、何より喜んでいたのは兄だったと、のちに祖父が語る。琉生は絶対にそれを肯定しないけれど、2人に対する態度を見ていれば一目瞭然で、その溺愛ぶりは凄まじいものだった。
 秋生と桜生は家族の愛情を一身に注がれて健康に育つ一方、少しだけ問題があった。それは、2人とも一般の人間よりも極めて霊力が強いということだった。兄である琉生も同じように霊力が強かったが、2人はそれをはるかに上回っていた。そして、霊力は強ければ強いほどのそのコントロールが難しくなるため、2人はそれを上手くコントロールできずに、物心がつく前から霊にとり憑かれるという騒ぎが頻繁に起こるようになる。
 事態を重んじた祖父が、2人の霊力を封印したのは、実に13年前――2人が3歳のときだった。それから、2人は霊に脅かされることなく平和に暮らしていたのだが、それから2年後に両親が事故で他界したことで悲劇が起こる。両親が事故で他界した悲しみに耐えられなかった桜生の封印が解かれてしまったのだ。
 封印が解かれた桜生の霊力は膨れ上がり、多くの霊たちが寄ってきた。そして、一人の悪霊が桜生にとり憑いた。それはとても強い恨みを持った霊で、これまでにもいくつもの霊を取り込んで、怨霊の塊と化していた。桜生の中に入った怨霊は一瞬にして桜生の意識を乗っ取り、そして体までも乗っ取った。それだけにとどまらず、手始めに近くいた秋生の霊力を吸い取った。そして更に力を付けた怨霊はもうその家にいる必要はないと判断し、柊家を後にした。

 意識を持った怨霊が求めたのは家族だった。それは、家族を亡くした悲しみにくれていた桜生の感情が影響したものだと推測される。桜生に影響された怨霊は、自分の家族を探すために街中を歩きまわり――そして、絶好の獲物を見つけた。

 その名は鬼神華蓮。

 華蓮の霊力は秋生や桜生をも上回るものだった。ただそれだけの理由で、華蓮は家族を壊されることになる。
 目を付けた怨霊は、すぐに華蓮を操ろうと試みるが、華蓮の霊力が自分の取り込める範疇を超えていたために断念する。そして次に華蓮の両親に標的を変える。華蓮の父親は華蓮と同じように力が強かったので、最初に餌食となったのは母親だった。悪霊に毒された母親は優しかったその影を見る見るうちに失くして行った。父親はいち早くそのことに気が付いたが、手を打つことはなかった。そして父親はある日突然、華蓮と母親の前から姿を消した。日に日におかしくなっていく母親を見ていられなかったのか、家族を見捨てたのか、それとも他に理由があるのか、それは誰にも分からなかった。
 父親がいなくなり、とうとう完全に毒されてしまった母親は華蓮を家から追い出そうとした。最初は頑なに拒んだ華蓮も、今の自分の力ではどうにもならないということを察し、自分自身が呑みこまれてしまう前に、いつか母親を取り戻すことを決意して親戚の家に預けられることを了承した。
 母親を救いたいという思いは、同時に華蓮の中に復讐という感情を灯した。そしてそれはいつしか母を救うという目的よりも大きな存在となり、復讐を果たすことが最大の目的となった華蓮は自分からすべての物を遠ざけた。そしてその復讐心に引き寄せられてきたものと契約を交わし、力を得た。
 そんな中、華蓮の前に現れたのが、桜生を追って家を飛び出した琉生だった。復讐のために得た力に呑みこまれかけていた華蓮に、琉生は力のコントロールの仕方を教え、そしてそのほかに色々なことを教えた。そうしていくうちに、華蓮が遠ざけたはずの友人たちが戻ってきた。華蓮はそれを望まなかったが、友人たちは頑なに華蓮に絡んできた。そしていつしか、華蓮もそれを受け入れていた。

 琉生はそのまま何事もなく時が過ぎて行けばいいと思っていたが、物事はそう簡単にはいかなかった。家族から離れてから何年か経ったある日、華蓮の元に再び悲劇が舞い降りる。それは、友人たちを遊ぶために遠出した先での出来事だった。
 どこにでもありそうな公園の中には多くの子供たちが遊んでおり、その親と思わしき大人たちが見守るようにその子供たちに視線を向けていた。そんな幸せそうな家族の集まる中に、自分から何もかもを奪っていった怨霊が、自分の両親に囲まれて楽しそうに笑っている姿を見つけてしまったのだ。
 華蓮の脳裏に焼き付いているのは、いなくなる直前の辛そうな父と、おかしくなってしまった辛そうな母。しかし、その日華蓮が目にしたのは、いなくなる前の幸せそうな父と、おかしくなる前の幸せそうな母。
 かつてその場所には華蓮がいた。数年ぶりに目にしたその場所にいるそれは確かにその名を呼ばれていたが、それは自分ではなかった。「華蓮」と愛おしそうに名前を呼ばれるその姿を見て、華蓮はその場に立ちすくむ。そして、幸せそうな顔をしている両親は、まるで華蓮に気づくことなく、立ちすくむ横を通り過ぎていくのだった。

 どうにか意識を繋ぎとめた華蓮は、友人と遊ぶことも放り出してかつて幸せな日々を送った自分家へと走った。しかしたどり着いたそこは、もぬけの殻となっていた。本来お寺であったその場所はまるで原型を留めておらず、しかし家だけは華蓮が住んでいたときのままだった。
 華蓮はその時身を置いていた親戚の家を飛び出して、その地に住居を移した。どうしても自分の名前を受け入れることが出来なくなった華蓮は、琉生に頼み込んで名字を変えた。本当なら名前ごと変えてしまいたかったが、それは不可能だった。

 なくなってしまった。
 奪われてしまった。
 いつか取り戻すと思っていた母も、何もかも。
 そしてそれを奪って行ったものは、華蓮そのものまで奪って行ってしまった。

 華蓮は再び復讐に取り付かれかけた。まだ残っていた明るい性格も完全に消え失せ、見る影もなくなっていた。
 しかし、今度は琉生の手が無くても華蓮が復讐の力に呑みこまれることはなかった。華蓮がどんなに拒んでも、もう友人たちが華蓮の元から離れていくことはなかったからだ。そして、華蓮が諦めて友人たちの存在を受け入れた頃、それを待っていたかのように琉生は姿を消した。

 それからしばらくして、今度は弟と名乗る子どもが華蓮の元にやってきた。
 鬼神睡蓮は、怨霊に支配された後の両親の子どもだったが、怨霊は自分以外のものに愛情が行くのを嫌い、睡蓮を手放すように両親を仕向けた。両親の元から追い出された睡蓮は、親戚の元をたらいまわしにされた末に、自らの足で華蓮の元にやってきた。睡蓮は最後の綱を握るように、華蓮にすがるしかなかった。それを望まない華蓮も、さすがにその綱を切ることはできず、だらだらと一緒に暮らしていくうちに、睡蓮のことも受け入れていくようになった。

 そうしていくうちに、復讐を遂げることよりも今あるものを失わないことの方が最優先になった。例えどんなことがあろうとも。もう誰も奪わせないと決めた。
 しかし、だからといって復讐をやめようとは思わなかった。失った時間は戻ってこない。家族も名前すら取り戻すことはできないかもしれない。それでも、絶対に許しはしない。華蓮が必ず復讐を遂げてやると誓った気持ちは、いつまで経っても決して消えることはなかった。




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