Long story


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 華蓮のいる心霊部に喧嘩を売ってくるなんて、凄い度胸のある教師がきたものだなと秋生は思っていた。別に喧嘩を売られたわけではないが、このやり方はそう思われても仕方がないように思う。
 心霊部の前に着くと、いつも華蓮がカギをかけているのにそれが開けられていた。職員室には合鍵があるから開いていても不思議はないのだが、はたからみれば随分と不気味なこの部屋に単体で乗り込むなんて、やはり度胸だけはあるようだと再び思う。

「開けますよ?」
「ああ」

 華蓮に了解をとってから、秋生は心霊部の部室の扉を開いた。
どんな人が待っているのだろうかとドキドキして開いた扉の向こうには、背中を向けた男性が一人。


「遅い」

 その後ろ姿を見た瞬間に一瞬こわばり、その声を聞いた瞬間に今度こそ動きが完全に止まった。
 秋生には、振り返らなくてもその顔を想像することができて、同時に怒りが混みあげてきた。しかし、秋生は怒りを抑えながらすかさず華蓮の背後に隠れた。

「秋生?」
「先に入ってください」

 華蓮は一瞬怪訝そうな目をしたが、特に秋生に何を問うでもなく先に部室に足を踏みいれた。秋生は華蓮の後ろに隠れたまま、後を追う。

「よう華蓮、久しぶりだな」

 振り返ったその顔は、やはり秋生の想像した通りの顔だった。
 久しぶり、と言う言葉に秋生は疑問を持ったが、正直そんなことはどうでもよかった。今この男が目の前にいる事実が、腹立たしくてしょうがない。


「また面倒なのが……」

 華蓮が溜息を吐く。どうやら、本当に知り合いらしい。

「何だその言い方は。もう少し喜ぶとか、奉るとか、崇めるとかないのか」

 なんとまぁ、上から目線にもほどがある。昔からこういう人物ではあったが、秋生が知っている頃よりも拍車がかかっている気がした。

「寝言は寝て言え」

 華蓮はとても面倒臭そうに吐き捨てる。

「あいっっ変わらずクソ弟子だなお前は!」
「クソ師匠に言われたくはない。師弟関係を保ってもらえているだけありがたく思え」
「そりゃこっちの台詞だっつーの!」

 そう叫んでから、はぁと溜息を吐く。
 一体どういう師弟関係なのだろう。腹立たしくてどうでもいいと思っていた秋生もさすがに気になってきた。

「つーか、心霊部ってもう1人いるんじゃなかったか」
「…秋生」

 華蓮が背後にいる秋生に視線を向ける。 
 本当は出たくなかったが、いつまでもこのまま華蓮の後ろにくっついているわけにもいくまい。どうせ、いつかは――きっとすぐにバレてしまうことだ。


「しゅうせい?…――――秋生!?」
「うるさい」

 そんなに大声で呼ばなくても、もう出てきている。
 というか、これ以上喋らないでほしい。腹が立つから。

「お前――…こんなところにいたのか!」
「俺がどこに居ようと関係ないだろ」
「おいおい、兄貴に向かってそれはないだろ」

 秋生が吐き捨てるように返すと、目の前の人物――柊琉生(ひいらぎるい)は思いきり顔を顰めた。



「兄貴ぃいい!?」


 背後からいくつかの声が揃って聞こえてきて、華蓮も秋生も、それから琉生もそちらに視線を送った。華蓮に至っては頭を抱えるようにため息を吐いている。

「なんだ、深月たちじゃねぇか。何こそこそしてんだ」

 どうやらこの男は華蓮だけでなく深月たちとも知り合いのようで、秋生は世界の狭さを痛感することになった。きっと今歴史で学んでいる世界なんて妄想で、実際は自分の周りのせいぜい半径30キロくらいしかないのではないかと思えてくる。

「お前ら…バレないようにする気あるのか」
「いや、ごめん。あまりにも衝撃的すぎて……」

 苦笑いを浮かべる深月を筆頭に全員が部室に入ってきた。

「世月?…ああ、双月か。お前、何でそんな格好してるんだ」
「し!私はここでは世月なの。余計なこと言わないで!」
「あ、そう…」

 なんだか、随分と親しそうだ。一体どういう関係なんだろうか。

「つーか、お前ら揃ってこの学校にいたのかよ…。それだけでも問題なのに、まさか秋生までいるとは……」

 今度は琉生が頭を抱えるように溜息を吐く。
 一体に何が問題だというのか、秋生にはサッパリ分からない。秋生だけでなく、他の誰も理解していないようだったが。



「私たちからしたら、秋君があなたの弟だってことの方が問題よ」
「全くだ」

 世月が言って、深月が頷く。

「いや、明らかにお前らが秋生と親しくしてる方が問題だろ。特に華蓮、お前、まさかアイツの顔忘れたわけじゃねぇよな?」

 そう言うと、華蓮の体がぴくっと反応した。


「忘れるわけが…ないだろ」
「それでよく秋生と一緒にいられるな」

 琉生の目つきが険しくなる。
 一体、何の話をしているのだ。自分が一体、なんだというのだ。

「秋生とあいつは関係ない」
「本当にそう思ってんのか?」

 華蓮の言葉に、琉生は疑わしげな視線を向ける。
 そして、次に秋生の方に視線を移した。

「それに、お前…どこでそんなもんくっつけてきたんだ」
「兄貴に教える筋合いはない」

 多分、良狐のことを言っているのだろう。
 なぜ良狐と一緒にいるようになったのか、原因はほぼ琉生にあるようなものだ。

「琉生、相当嫌われてんのな」

 深月がからかうように言うと、琉生は思いきり顔をしかめた。

「琉生さんと呼べ。どいつもこいつも昔からちっとも成長してねぇな」
「さんって呼ばれるほど成長してからいいなよー」

 侑がケラケラと笑うと、琉生の顔が一層険しくなった。
 いったいどこまでなめられているのだろうか。秋生の知ったことではないが。



「お前ら調子に乗ってっけどな。俺がここに来たってことがどういう意味か分かってんのか」

 少し呆れたような表情から、一段と真剣な表情に変わる。
 それと同時に、場の空気が変わった。

「秋生、お前がずっとこの辺にいたなら、最近体調がおかしくなっただろう?」
「え……」

 体調の変化とは風邪を引いたことか――いや、それではない。

「ずっと…、冬みたいに寒い」
「やっぱりな。お前はあいつの波動を感じやすいからな…」
「あいつ…?」

 疑問符を投げかけると、琉生の表情が一段と曇った。





「桜生がすぐそこまで来てる」



 その名前は、もうずいぶんと聞いていない名前だった。
 しかし、秋生が忘れることのない名前だ。顔も、声も、何年も会っていないが、決して忘れることのない、秋生の分身だ。



「さくらお…、が」


 口に出した瞬間、頭の中にその全ての記憶が頭の中に流れ込んできた。楽しかった思い出も。それから、消してしまいたいような出来事も。忘れていたわけではない、しかし、頭の奥深くにしまっていた、記憶だ。



「華蓮、お前たちもよく知ってる奴だ」


 その言葉に、華蓮の表情がこわばる。
どういうことだ。どうして、華蓮が桜生のことを知っているのだろう。




「柊桜生。今の名前で言うなら――鬼神カレン」



 柊桜生(ひいらぎさくらお)。そして、鬼神カレン。
 その名前が出た瞬間、部室の空気が凍りついた。




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