Long story
加奈子と睡蓮を納屋に放り込むと、睡蓮が倒れ落ちる音とともに夥しい量の埃が舞った。華蓮と睡蓮は思わず咳き込むと、どうしてか加奈子までが咳き込んだ。
「お前は感じないだろ」
「同調してるのよ。そんなことも分からないの?睡蓮の、ばあああか!!」
「はぁああああ!?」
ここまで来てまだ喧嘩をするのか。それも華蓮がいなくなるのを待てばいいものを、来てすぐポルターガイストをおっぱじめた。
全く反省の色がない2人の様子に華蓮は心底呆れかえる思いで溜息を吐いた。
「お前ら、その調子じゃ明日の朝までそのままだな」
「えええ!?」
「待って!こんな格好で学校行ったらいじめれるって!」
そんなことは華蓮の知ったことではない。
仮にそれが原因でいじめられるようになったとしても、原因を作ったのも睡蓮なのだから自業自得というものだ。
「はっはー!ざまあ――!!」
「うっっぜぇええええ!!」
加奈子が叫び声を上げ、睡蓮がそれに対抗するように声を上げると、窮屈に押し込められている物がガタガタと揺れた。どこかの何かが落ちた拍子に、色々な物が崩れ落ちてくるのも時間の問題だ。
「お前ら、反省する気がないみたいだな。そんなにここが気に入ったなら、お前らの部屋にしてもいいが?」
冷めた表情で華蓮がそう言うと、さすがに加奈子と睡蓮のポルターガイスト大会が止まった。ガタガタと揺れていた周りの物もぴたりと静かになる。
「華蓮…それ、冗談だよね?」
「嫌よ…私、こんなところ…」
「おまけにこんな低級霊となんて…!」
「誰が低級霊ですって!」
「お前以外に誰がいるんだよ、無能!」
華蓮は今一度大きなため息を吐いた。そして同時に、諦めた。
そして、生き埋めになって死ぬほどではないだろうから、いっそポルターガイストで崩れた物の下敷きになって反省すればいいと思った。西遊記の猿の気分を存分に味わうがいい。
「いいかお前ら。次、俺が家の中でここからお前らの騒いでいる気配を感じたら、問答無用で睡蓮の荷物を全部ここに放り込む。加奈子も一切家には入れない」
「え……待って…」
「ちょっと待って…」
「静かにしておけばそうならなくて済む。できないとは言わせない」
顔を真っ青にした睡蓮と加奈子を尻目に、華蓮はそう言うと納屋を出て勢いよく扉を閉めた。すると、中からポルターガイストも可愛く聞こえるくらいの勢いで何かが崩れ落ちる音がした。
「わああ!?」
「きゃあああ!睡蓮!?ちょっと睡蓮大丈夫!?」
放って行こうかと一瞬考えたが、今の崩壊は明らかに自分が扉を閉めたことが原因だ。華蓮は何度目とも分からない溜息を吐いて再び扉を開けた。
「痛ぁ……何これ、何でこんな細い物がピンポイントで……」
納屋の中はまるでごみ屋敷のように悲惨な状態になっていて、先ほどとは比べものにならないくらい埃が立ち込めていた。その中で睡蓮は片方の手で頭を押さえてうずくまりながら、もう片方の手で何かに触れている。
「大丈夫?」
さきほどまで喧嘩をしていたのが嘘のように、加奈子が心配そうに睡蓮の顔を覗き込んでいる。睡蓮も睡蓮で、それに対して何か悪態を吐くでもなく苦笑いを浮かべながら頷いた。
「うん、平気。…そんなことより、これ何」
「うーん…あ!睡蓮、これ刀だよ!お父さんがいっつも持ってた!」
「えっ…ええ!?本当だ……重い!!」
睡蓮は頭の痛みも忘れてしまったようで、片手で触れていた刀を両手で持ち上げた。どうやら睡蓮の体には少々荷重だったらしい。持ち上げた途端に表情が歪む。
「あっ…夏!刀!刀だよ!」
「見れば分かる」
華蓮は埃を払いながら納屋の中に足を踏み入れ、睡蓮のいるところまで移動した。一人は霊体とはいえ、この狭い空間に3人もいるのは流石に窮屈すぎる。
「この刀何……?呪いの刀だったりしないよね…?」
「普通の刀だ。…元々和室に2本飾ってあったんだが…1本がなくなって様にならなくなったから移動させた」
和室に2本の刀が並んでいる情景が華蓮の脳内に思い浮かぶ。
懐かしい。よく勝手に持ち出して素振りのまねごとをしていた。睡蓮にバレるときっと触りたがると思い、隠れてやっていたのをよく覚えている。
華蓮は睡蓮から刀を受け取り奥の棚の上に置いた。この場所なら例えポルターガイストで崩れたとしても睡蓮の上に落ちることはないだろう。
「どうしてなくなったの?」
「さぁ、もう忘れた」
それは嘘だ。そもそもなくなったという言い方も違うかもしれない。もう1つの刀が誰の手に渡ったのかは知っているし、そもそも手渡したのも華蓮自身だ。ただ、相手が今もその刀を持っている保証はない。そして華蓮は、その相手のことをあまり思い出したくはなかったし、誰かに話したくもなかった。だから咄嗟に嘘を吐いたのだろう。
華蓮は加奈子の問いに答えると、納屋出て今度は静かに扉を閉めた。睡蓮と加奈子は今の騒ぎで落ち着いたのか呆けているのか、華蓮を止めることもなければ納屋の扉を閉めてから再び喧嘩を始めることもなかった。
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mokuji
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