Long story


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 本当にリムジンが来た時には流石に心だけじゃなく本当に飛び跳ねそうになった。リムジンが来ると見にやってきた春人と、それにくっついてやってきた深月と侑。それにリムジンを呼んだ張本人の世月。病院に向かう秋生と、その秋生を運ぶ役の華蓮。結局全員が乗り込んで、てんやわんやと騒ぎながら――これが病院に向かう状況かと、秋生はおかしくなった。

「……しんどっ、ごほっ、い…げほっ」

 病院の待合室。既に診察が終わって畳のスペースで横になっている秋生は、本日一番の死にそうな顔をしている。事実、体は死んでしまうんじゃないかと思うほどに重く、怠かった。


「車で騒ぐからだ」

 と、華蓮に睨まれているのは秋生ではない。

「ごめん、秋生。調子に乗りました」
「右に同じです。ごめんね」
「私も同じです。ごめんなさい」
「秋〜ごめんねぇ、死なないで!」

 なんというシュールな光景だろうか。
 高校生が4人も並んで正座をさせられているこの光景は、端から見ると華蓮が他4人を恐喝しているようにしか見えない。

「…で、結果的に診察結果は何だったんだ?」
「ああ、ごほ、ごほっ…軽い、肺炎っ…らしいです…ごほっ」
「分かった、分かったからもう喋るな。ごめん」

 深月が困ったような表情で秋生の言葉を止める。

「なっちゃんほら、秋生君の背中撫でてあげて」
「お前がやれ」
「僕よりなっちゃんがやった方がいいに決まってるでしょ。ね」

 仮にそうであったとして、頷けるわけがない。秋生は咳込んで聞こえなかったことにして、侑の言葉はスルーすることにした。


「肺炎って…入院しなくてもいいの?」
「自宅療養で済む場合もあるわ。…とはいえ、普通の風邪なんかと同等に扱てってはだめだけれどね」

 喋れてない秋生の代わりに世月が春人の質問に答えてくれた。さすが、大鳥グループは病院経営もしているだけあって詳しい。

「とはいえ…この状態の秋生をそのまま家に帰すわけにもいかないよな」
「だいじょ…ごほごほっ、ぶ、で…」
「もう喋るなってば」

 今度は言い切る前に深月に制止され、秋生は言葉を止める。

「秋生君、面倒見てくれる人いるの?口じゃなくて体で表現して」

 侑に言われて、秋生が口で喋る代わりに選んだ方法は空中に字を書くということだった。面倒を見てくれる人を思い浮かべ、宙に名前を指でなぞる。

「か、な、こく、ろ?」

 春人は察しがつかないのか、首を傾げている。全部を繋げて読むとだめだ――と伝えたいが、伝え方が分からない。

「それ、子どもの幽霊と、猫の幽霊のことじゃないの……?」

 世月の言葉に、秋生は勢いよく頷いた。そして、後悔した。

「馬鹿か貴様は」

 今日はずっと優しかった華蓮が、いつもの華蓮に戻ってしまった。
 いつもなら慣れているため何とも思わないが、今日はさきほどまで優しかった反動か、体が弱っている反動が、ショックだ。

「幽霊に看病してもらえるわけないでしょー!しかも片方人じゃないし!」

 春人も呆れたように、そして怒ったように口を開く。
 この2人が駄目だというのなら、秋生に面倒を見てもらえる心当たりはない。

「俺の家に泊めてあげられたらいいんだけど、兄弟が多いからなぁ…」
「あら、そうなの?」
「7人兄弟です」
「まぁ。…それは、兄弟たちに移ったら大変だものね」

 春人がごめんねと謝ったのに対し、秋生は滅相もないと体で表現した。

「世月のところは?」
「タイミングが悪かったわね。今日は大叔父様の誕生日会で、凄く沢山来るわ」

 世月が凄く嫌そうな顔で言った。なぜだか分からないが、深月は世月よりもはるかに嫌そうな表情を浮かべていた。

「てことは、世月は今日うちに泊まるの?」
「侑、察しいいわね」
「片付けないと、3人も寝るスペースないよ」
「私も手伝うわ」
「……3人……?」

 春人と、それから喋ることを止められていた秋生も思わず声を出してしまった。
 侑と世月と、あともう一人は一体どこから出てきたのだろうか。

「深月と侑、一緒に住んでいるでしょ。それに私を入れて3人じゃない」
「ええ!?」

 春人と秋生が驚きの声を上げる(秋生はその後激しくせき込んだ)と、その反応を見て世月の方が驚いた表情になる。

「あら…、知らなかったの?」
「世月…君って人は……!」
「知らなかったの、じゃねぇよ。馬鹿なんじゃねぇのお前!」
「黙れ、病院だ」

 華蓮に言われ、侑と深月はしぶしぶ口を噤んだ。

「…どういうことなの?え?どういうことなの……っ!?」
「後で詳しく説明してあげるわ。秋君は、かーくんからでも聞いてね」

 絶対に話してなんかくれない。春人が聞いた後で春人に聞いた方が早い。絶対に。


「とにかく…結果的に、夏の家しか残ってねぇけど」
「……本当に間が悪い奴だな」

 華蓮は心の底からため息を吐いているようだ。

「だってよ、秋生。夏が家に泊めてくれるってさ」

 一体、今の会話をどう聞き取ればそういう見解になるのか、秋生にはさっぱり分からなかった。しかし、深月の言葉を華蓮が否定しないということは、どうやらそういうことらしい。

「でも…げほっ…い、ん…で…ごほっ、ごほっ」

 本当にうっとうしい。この咳が、大して重症じゃない病を重く見せているに違いない。

「よくはない。だが、お前をそのまま家に帰すよりはマシだ」

 華蓮はどこか諦めたようにそう言ってから、今一度溜息を吐いた。


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