Long story


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 前言撤回しなければならない。

「げほっ、ごほっ……」

 頭がガンガンする。寝転んでいるのに眩暈がする。
体温が尋常じゃないほど上がっているのが自分でも感じ取れる。今なら鉄も溶かせそうだ。
 おまけに咳のせいでおちおち寝てもいられない。咳をするたびに頭をハンマーで殴られるような衝撃が襲う。いっそ気を失ってしまった方が楽に違いない。
 夏風邪って、こんなに辛いのか。インフルエンザなんて目じゃない。

「お前、いい加減保健室に…」
「嫌…です」

 それだけは嫌だ。保健室にだけは行きたくない。
 さきほどから保健室に行く、行かないと押し問答が何回か繰り返されている。華蓮ならば簡単に秋生を抱えて連れて行けるだろうが、決して強制的に連れて行こうとはしない。その優しさが嬉しくも、そして申し訳なくもある。

「すいません。でも、本当に…保健室だけは、嫌です。……どうして嫌なのか、記憶が曖昧なんですけど……」

 秋生は、どうして自分がここまで保健室を嫌っているのかいまいちよく分かっていない。ただ、「保健室には行きたくない」という記憶だけが頭の中に貼りついている。そしてその記憶は、理由が曖昧な状態でも頑なに拒否してしまうほど、強力な支配力を持っていた。
 こんな曖昧な理由で頑なに拒んでいると知ればさすがに華蓮に怒られるかと思ったが、華蓮は一度ため息を吐いただけだった。

「つまり…、保健室が嫌なだけで、治療されるのが嫌なわけじゃないんだな」
「え?…まぁ…それはそうですが…」
「なら病院だ」
「えっ、それはそれで嫌です!」

 華蓮の目元が顰められ、秋生の返答が不満だという意を示していた。最近、目元を見ただけで心情の変化が分かってしまう、これも相当末期の病気かもしれない。

「さすがにその状態のままにしておくわけにはいかないだろう。世月に言えば、すぐにリムジンが飛んでくる」
「り、りむじん…!」

 ちょっとわくわくしてしまった。

「病院に行きたくなったか?」
「あっ…先輩、ずるい!」

 学習能力のない秋生は、また勢い余って起き上がってしまった。頭がハンマーで殴られる。ふらつく、華蓮に支えられる。心臓が跳ねる。あと1回繰り返したら、心臓が止まるかもしれないと、秋生は気を引き締めた。

「リムジンが飛んでくるのは本当だ」
「えっ」

 懲りずにまたまたわくわくしてしまった秋生を見て、華蓮がくすくすと笑う。初めて聞く笑い声に、また心臓が跳ねた。

「お前、本当に学習能力ないな」
「先輩は本当に性悪ですね!」

 頭が割れるように痛い。体も溶けてしまいそうなほど熱い。どうやら心はその暑さにやられてしまったようで、踊るように跳ねている。



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