成り立つ日常はいつだって | ナノ



誰かに呼ばれたような気がしてよそ見をしたのが始まりだった。

――退屈だなあ。
白い天井をぼんやりと見つめながら臨也はぽつりと呟いた。
昨日も池袋で盛大にシズちゃんと喧嘩していると、空耳に気を取られたせいで避け損ねたポールが臨也の身体に打撲を負わせ、大事を取って新羅の家で安静にすることになった。

怪我人の臨也よりも驚き、治療中も心配そうにうろうろと部屋を落ち着きなく歩き回る静雄の姿は珍しいものだった。
あの顔は忘れられない。倒れ込んだ俺を見下ろし、今にも泣きそうだった顔は。

ベッドサイドに置かれていた携帯に手を伸ばし、時間を確認する。カーテンすら閉められて日差しを遮られているので時間感覚が鈍ったようだ。
思ったより時間は経っていて、もう放課後だった。じきに新羅が帰ってくるだろう。まあ、どうせ愛しい彼女に突進して俺のことを思い出すのは一時間後ぐらいだろうが。

臨也はベッドから落ちかけていた布団を引き上げて再び目を閉じた。
と、その時玄関の方から彼女の名前を叫ぶ新羅の声が聞こえ、臨也はもう一寝入りするか、と欠伸をして首元まで布団を引き寄せた。

「……臨也…?」

カチャリ、とドアが開いた音と恐る恐るといった小さな声が臨也の眠気を一気に覚ました。
――どうして。
思わず洩れた声は静雄の耳にもしっかり届いてしまい、静雄は身体をスルリと部屋の中に滑り込ませた。

「臨也…大丈夫か…?」

臨也を気遣ってか静雄は足音を余り立てずにゆっくりとベッドに近づく。
ベッドサイドに膝を付き、臨也の顔を覗き込んだ。思ったより元気そうな臨也の顔を見て静雄はほっと息をつき、さらさらと流れる黒髪を撫でた。

「…なんで」

口をついて出たのは可愛くない言葉。臨也は自分でも思う。どうして素直に寂しかったが言えないんだろう。
臨也はとっさに出た言葉を取り戻したくなった。もっと素直に、本当のことを言えばよかった――

「…心配だったんだ。それだけじゃ駄目か?」

静雄は、臨也を見つめながらゆっくりと髪を撫で続ける。言葉と行動から溢れるものは温かくて、優しい、彼のような。

「…寂しかった、から」

「うん?」

「ぎゅって、して…?」

臨也は恥ずかしさから、布団を顔が隠れるくらいまで引き上げる。
黙ったままの静雄に慌ててさっきの発言を撤回しようと、ちろ、と目だけを出すと視界いっぱいに金色だけが現れていた。
そして、ぎゅっとされる感触。

「シズちゃ…」

「…ごめんな臨也、痛かったよな」

気のせいかもしれないが少し震えているように聞こえる静雄の声が臨也の耳に届く。
いつもお互い喧嘩してばかりだけど、やっぱり何よりもお互いが好きで、好きだから喧嘩ばっかりになって。

「不器用な俺達だけどさ、俺はこんなふうにシズちゃんが心配してくれるの、嬉しい」

「…うん、俺も臨也が心配してくれんの嬉しい」

「だから、そんなに泣きそうな顔しないでよ」

いつの間にか、静雄の瞳から涙が流れていた。臨也に押し付けていた顔を上げると、茶色の瞳に涙の膜が出来ている。
臨也は薄く笑うと静雄の頭を撫でた。

「大好きだよ、シズちゃん」

「俺も…好きだ、臨也」

そっと唇に落ちてきた彼からのキスは優しくて、臨也は静雄の身体を精一杯抱きしめ返した。



end



秋夜さんに捧げる「来神時代ケンカップルな静臨、心配する静雄と甘える臨也」ということで…待て、なんだか静雄が受けくさくないか…臨也さんもあんまり甘えてなくね…?
とにかく甘く!を念頭において書きました。結果、書いてる途中に「お前らさっさと結婚しろ!」と何度思ったことか…!
こんな残念な仕上がりになってしまいましたが秋夜さんに押し付けさせて頂きます、リクエストありがとうございました!これからもよろしくお願いします^^

title by.獣


*******


椎さん宅より強奪して参りました!
はうわっ!本当にありがとうございますー!
あぁもう!
本当に2人は結婚すれば良いと、思う…!

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -