短編小説 | ナノ


※短いです



 特に何をする訳でもなく、静雄が臨也の事務所兼自宅のマンションに訪れるようになって、かれこれ一年以上が経過していた。次の日が休みの日だったから。飯を一緒に食いたいと思ったから、と理由は些細なものばかりだったが臨也が嫌な顔をする事はなかった。もちろん静雄は臨也が本当に忙しい時期に訪れたりする事はないのだ。
 今日もまた静雄は臨也のマンションを訪れていた。最近ではもう、なぜ来たのかと聞く事も、わざわざ伝える事も無くなってきている。どかりと静雄はソファーの定位置に腰を落とし、柔らかなクッションに体重を預けた。綺麗な天井を見つめ、デスクワークに励む臨也の伏せられた睫を横目で見た。うとうとと揺らぐ意識の中で静雄は臨也を見つめると、そのままゆっくりと瞼を下ろした。








「シーズちゃん」

 それからどのぐらいの時間が立っただろうか。静雄が目を覚ますと壁一面の窓からは夕日すら見えず、微かな月明かりが部屋に射し込んできていた。

 臨也はソファーの後ろから抱きしめるようにして腕を静雄の首に回し顔を埋めていた。シズちゃん、と呼ぶ声は穏やかで、静雄はなんとも幸せな気分になっていた。

「仕事、終わったのか?」
「まあ良い感じに区切りはついたよ。今日中に終わらせないといけない訳じゃないから大丈夫」
「お疲れさん」
「うん」

 静雄の金髪に顔を埋めながら、臨也は猫のように寄り添った。

「頑張ったご褒美でさ、シズちゃんお酒つくってよ。カクテル」
「どうしたんだよ、突然」
「前に言ってたじゃない。カクテルつくれるって。だからさシェイカー買っちゃったんだよね」

 甘いお酒でほろ酔いしたいなー。
 にこっと笑う臨也の頭を静雄は撫でながら腰を起こしてキッチンへと向う。すぐにつくれると言ったらすぐにつくれるが材料が無ければつくる事はできない。だが臨也が言い出すのだから他の酒や割るためのジュース類も、もちろん購入済みなのかと冷蔵庫の中を覗く。やはり材料はすべてそろっていて、グラスは棚の上だよ! と陽気な声が響いた。
静雄と変わって臨也がソファーに座り、ぱたぱたと足を動かす。時折キッチンを覗き静雄の様子を窺いながらふふ、と頬を緩ませていた。すると臨也は何かに気か付いたかのように立ち上がり、デスクの上に放置されていた携帯を手にとると、そっと静雄に向けていた。

「おい、臨也。買ったシェイカーはどこ…って何してんだよ」
「あーっ、こっち向いちゃダメじゃないか。折角いい写真が撮れそうだったのに。携帯だけど」
「勝手に撮んなっての。早くシェイカー」

 はいはい、と臨也は立ち上がり買ったばかりのシェイカーを取り出す。それを受け取る静雄はさっそくお酒を混ぜ合わせ始め、カシャカシャッと音を立てた。リキュールやジュースを混ぜ合わせ、入れたシェイカーを両手で抱え、左胸の前で持つと静雄は素早く振り始めた。カシャカシャカシャッ。ただ上下に振っているのではなく、シェイカーを起こして寝かす運動なのだ。そしてスクリューのひねりの運動。八の字に動かすその運動に静雄はなんのひっかかりもなく行っていた。
素人ではうまくできないと言われているシェイカーの扱いを簡単にこなしてしまうのは、やはりバーで働いていた事もあってかとても美しく、うまい。
 すっと伸びた背に美しい線を描いてシェイカーは振られていく。バーテン服が今日ほど似合っていると感じた事は無いだろう、と臨也は関心しつつ静雄の姿から目が離せなかった。

「ほら、できたぞ」

 シェイカーからカクテルグラスに注がれたのは桃色とも赤色ともとれる綺麗な色をしていた。静雄はグラスに大きな氷をひとつ入れると、立ちすくんでいる臨也に勧めた。

「カンパリグレープフルーツ マティーニ。飲みやすくするためにグレープフルーツで割った。アルコールも低いし、丁度いいんじゃねえ?」

 いただきます、と一言。臨也はそっとカクテルグラスに口をつけた。第一の感想に、飲みやすい。第二の感想にこれは自分のために作ってくれたんだ。第三の感想に、恥ずかしい。それは臨也が飲んだ瞬間に、静雄が言った言葉だった。
手前と同じ目の色だから、綺麗だよな。
 甘いセリフを聞くのは初めてではない。今までだって共に過ごしてくる中で何度だってあった事だというのに、臨也は固まってしまっていた。だが突然顔をあげ静雄を睨み付けると、黄色いのも作れ! と声を上げていた。
 そうして静雄の作ったカクテルを飲み続け、臨也はほろ酔いの域を簡単に超えてしまう。苦笑いを零しながら静雄は臨也を介抱するが、酔っている臨也を見るのは初めてだな、と臨也の少し高い体温に笑みを零した。




(20110731)

ツイッタで成田先生が静雄がカクテルを作れるって仰ってて…カクテル作る静雄…萌えた…!!
ホントはもっと臨也を酔わせるという確信犯な静雄とか…書きたかったのにすごく甘くなって私がびっくりました。乙女臨也さんも好きです!

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