2.




キーンコーンカーンコーン…



ホームルーム開始を報せるチャイムが鳴る。
生徒たちが慌てた様子で席に座り、間もなくして担任が入ってくる。
ザワザワとしていた教室が静かになり、教卓の前へと立った担任が口を開く。

「えー、突然ですが今日からこのクラスにもう1人、仲間が増えますよー」
この言葉で、落ち着きを取り戻していた教室がまたざわめき始めた。

「なんでこんな時期に?」とか「男?女?」とか「カッコいいかな?」とか「女だろ女!」
…って、思い思いすぎる自分らの会話、廊下からでも全部聞こえとるで。
なぁ、先生まだなん?早よしてーな。前置き長すぎや。無駄ありすぎやで。何より、待ちくたびれたっちゅー話や。ほんまに。


痺れを切らし始めていると、「白石くん、入ってきて」
と、ようやくお呼びがかかった。おぉ、やっとやなー。

俺は真っ直ぐ前を見据え、教卓の先生の横に立った。
俺を見るやいなや、クラス内の奴(っちゅーかほぼ女子やな)が、
「めっちゃカッコいいんだけど!」「ヤバくない!?」と言って俺のことを頭のてっぺんから足のつま先まで見ている。
…あかん、ほんまにこういうん苦手や。勘弁してほしいわ。

とりあえず俺は、
「大阪から越してきました、白石蔵ノ介言います。東京のことはあんまり解らんので、いろいろ教えてもらえたら思います。
どうぞよろしゅう頼みます」
とだけ挨拶をした。まだ女子ら何や言うとるわ…。
うわ…ずっとこっち見つめんといて…引いてまうわ。
せやから女子って何かこう…苦手やねん。正直。


「席は…そうだな、このクラスには生徒会長がいる、跡部くん!手をあげてくれ」
と担任の先生が言った。え、え?ん?跡部…?あとべ?
ちょう、もしかして……

その「跡部」と呼ばれた生徒は立ち上がり、高らかに手を掲げ、指をパチンと鳴らし、

「俺だ!久しぶりだな!白石よ!」
と言った。やっぱり…そうやんな…。あの跡部よな…。
ってかいちいちそんな派手なことせんでえぇやん…なんか俺まで恥ずかしいわ…。

跡部の立ち振る舞いに、クラス内の女子は「キャー!」とか「跡部さまかっこいい!」とか
またしても思い思いの事を言ってる。
ってか自分ら、切り替え早っ!!!びっくりするわ!!!


俺はハァとため息をついて、跡部の右隣に用意された空席を目指した。
せやけど、これから先、どないなるか思うたけど、跡部がおるならまぁ、安心そうやわ。
俺は与えられた席へと着席し、

「まさか跡部と同じ学校、しかも同じクラスなんて、なんちゅーか、世間は狭いなぁ」
「アーン?お前のほうこそ、俺様と同じクラス、しかも隣の席にしてやったんだ。感謝されるべきだと思うがなぁ?なぁ樺地」
「ウス」
「え?ちょう樺地くん自分2年よな?どっから出てきたん?しかも隣の席にしてやったってどういうことなん」
「白石、お前俺様を舐めすぎなんじゃねえのか?俺様の権力をもってすればそれくらい朝飯前だってんだよ」

跡部はフッと笑って言った。
そうやこいつ、そうやったわ。そういう奴やったわ。もうえぇわ。諦めよ。




「そういや白石」
と跡部が俺に改まって聞いた。
「お前の家からこの永観高はだいぶ時間がかかるんじゃねーのか?家からここまで、通えるのか?」

跡部は真っ直ぐ俺に問うた。
なんで跡部が俺の家から学校まで時間かかること知ってんのかはもうこの際気にせんことにして
(もうツッこんだら負けな気ぃしかせーへんしな)そう、跡部の言う通りやねん。

俺ははるばる大阪から父さんの仕事の都合でこっちに越してきたんやけど、
父さんの会社であらかじめ決められたとこに引っ越さなあかんことになってて、
でも何より、新しい家からこの永観高校までが結構遠くて。
せやかて俺も、この永観高校に転入することも決まってたし、
どうしようもなかったから無理言うて俺だけ学校近くで下宿させてもらえることになったんや。
父さんの転勤が決まったんもめちゃくちゃ急やったし、高校の編入手続きしかする時間なくて、
まだ住むところまで決めれずに引っ越しすることになってもうてんけどな。

と、俺はこれまでの経緯をそのまま跡部に話した。


「…なるほど、そういう訳か。で?住むところは決まってんのか?もしまだなら俺様が手配してやってもいいんだぜ」
「あぁ、そう言うてくれんのは嬉しいねんけど、実はもうえぇ目星ついてんねん」
すると跡部は納得したような顔で、また口を開いた。

「ほぉ。さすが、相変わらず無駄がねぇな白石は。近いのか?」
「うん。学校まで徒歩10分圏内らしいわ。家賃もめっちゃ安うてな。
今日このあと早速下見行かしてもらうねん。よっぽどのことがなかったら、そこで決めてまうつもりや」
「安いっていう庶民の感覚は俺には解らねえがな。で、何ていう名前なんだ?そこは」
「えっとなぁ、確か……母羽路荘、っちゅーたかな」






俺が手を顎に当ててそう言うと、
跡部はまるで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。



「? どないしたん跡部」
「……今、何て言った」
「え?せやからボロそ「聞こえねぇ」」
「ちょいちょいちょい何なん自分、」
「白石……お前…まさか…住むつもり、ってのはボロ荘のことじゃねえだろうなぁアーン?」
「え?何で?何があかんの……………ってあぁ!もうこないな時間なん!?俺、もう行かなあかんわ、ほなまたな跡部!」
「ちょっと待て白石!まだ話は終わってねえ「急いでんねん!ほなな!」…………。」

俺は自分の鞄を持ち、急いで教室を出た。
その白石の後ろ姿を、跡部はただじっと見つめていた。




















「……なぁ、どう思うよ、樺地」
白石が居なくなったあと、跡部は静かに樺地に問うた。
「なにか……ありそうな…気が…します」
樺地は静かに答えた。

跡部はひとつため息をつき、言った。



「これから先どうなるかは……、神のみぞ知る、ってことか……?」















































































「えーっと…、たしかこのへんなはず、やねんけどなぁ……」

俺は、事前に渡されてた母羽路荘までの地図が書かれている紙切れと睨めっこしながら一人で言った。
いま俺がおるとこの周りはめっちゃ閑散としてて、
これ夜やったから完全に何か出てきそうな感じのあれやな。ほんまに。
俺としたことが迷ったんやろか…?大家さんに連絡したほうがえぇ気がしてきたな…。


俺は自分の学ランポケットから携帯を取り出そうとしたその時だった。









「なぁー!!!!!!コシマエ!!!!引っ越してくるヤツまだ来うへんのん?ワイ、待ちくたびれたわー……」
「知らない。そういうことは大家さんに聞けってば」
「コシマエのケチー!おーばーちゃーん!!!まだ来うへんのんー?」
「金ちゃん、ゴンタクレばいかんよ。家ん中で大人しく待たんね」
「えぇー…、なぁ千歳ェ、ワイといっしょにそいつ探しにいこうやー!」
「金ちゃん」
「にしてもおかしいわねぇ。本当にそろそろ着いてもいい頃なんだけどねぇ…道に迷ったりしてなかったらいいんだけどねぇ」










































…この聞き覚えのありすぎるゴンタクレ具合。
間違いないわ。嘘やって誰か言うて欲しいけど、間違いないわ。





俺は次第に早く、
声がするほうへ足を進めた。










































「もうワイ我慢できひん!ちょっとそのへん探しに行ってくるわ!」
「金ちゃん!待たんね!」
「…まだまだだね」






















ボロ荘の門から勢い良く飛び出してきた豹柄タンクは、
俺にとったら見覚えがありすぎるほどやった。










「ハァ…金ちゃん、ゴンタクレたらあかんてなんべん言うたら解るんや?言うこと聞かれへんのやったらもう…」
「ひぃいぃ!白石!毒手は勘弁…ってアレ?え?し、しらいし?えぇええええ!!!ししししし白石やぁああぁあ!!!」
「金ちゃん、いきなり飛び出してったら危ないちいつも言うとるばい……。
………………って、こいつは驚いた……久しぶりやね、白石」
「おぉ!千歳も、久しぶりやな。元気しとったか?」

久しぶりに再会した千歳と金ちゃん(は横でずっとわめいてるからうるそうてしゃーないけど)を見て
俺は心底嬉しかった。し、何よりほんまに安心した。




「にしても、どげんしたと?白石?こげんところで何か用ね?」
「あぁ、そのへんの話はまた後でやな。千歳、このへんにボロ荘てないか?
下見に行かしてもらう予定でさっきからずっと探してんねんけどなかなか見つからんくて。迷うてしもたみたいやねん」

「待つたい…今日下見に来るち言うとった学生ば、白石のこつね?」
「白石や!白石のことやったんやて千歳!!なー白石!もうここに住むんやろ!?決めたんやろ!?」
「せやから金ちゃん、下見さしてもろてからて…」














「あんたたちさっきから何を騒いでるんだい……ってあぁあぁあ!!!あなた!!!今日下見に来るって言ってたボウヤね!
まぁイケメン!久しぶりに見たら更にイケメン!!!待ってたのよー!!さぁさぁさぁ、こんなとこで立ち話じゃなくって、
中へ入りましょ!!ね!!」

そう言って門の中から突然現れたおばちゃん。俺は完全にこのおばちゃんの威力に圧倒されてしもた。
千歳は横で苦笑いしてるし、金ちゃんは相変わらず「白石やー!白石やー!」ってずっと言うてる。金ちゃん、そろそろ煩いわ。




「え、ほなもしかしてここが母羽路荘なん?」
「そうたい。ばってん、こげなとこで白石と会えるん、嬉しかよ」
千歳はニコッと笑って言った。


「俺も嬉しいわ、千歳。せやけどこの寮、えらい変わった名前やんな。ネーミングセンスちょっと疑うわ」
「あぁ、何でもボロっちいから『ボロ荘』て言われとるらしいばい」
「ボロっちいから『ボロ荘』…?」
そう俺が不思議に思っていると。



玄関に足を踏み入れるなり、広がってくるのは、

今にも抜けそうな床。
カビが生えた壁。
ひび割れた窓。






俺は、言葉を失った。
















「ようこそ、ボロ荘へ!!」

























































背面歩行
 02 ようこそボロ荘へ


















































































……って、

まんまやん!!!!!





































































つづく




























































































あとがき

いや、長かった。
やっと白石が出ました。跡部も出せました。
全く方向性が定まってませんがこれからもこんな感じだとおもわれます(笑)
そして名前変換なくってすみません、、
これから白石と女の子がどう絡んでゆくのか、楽しみです!
しかしちこは千歳推しですけどね!笑

ちこ





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