1.




「ふんふふんふふーん♪アラ、亮ちゃん今日は早いねぇ」
「あ、おはようございます」
アパート前で鼻歌まじりに掃除をしている大家さんに俺は挨拶をした。

「なんか早く目ぇ覚めちまって」
俺は頭をかきながら言った。
「そうなのー、じゃあ亮ちゃんにはそろそろ皆を起こしてもらおうかしら!おばさん、朝ごはん作るからね!」
大家さんは笑顔で言った。
「あー、いつも悪ぃな、ホントに」


いつも通りの朝が、今日も、はじまる。



















背面歩行
 01 バックウォーカー7人衆とたまにおばちゃん











































「ふわぁあぁぁあ…あー、ねみぃ〜…」
「なぁコシマエ、ワイ、まだねむいわぁ…」
「…知らない」

ぞろぞろと階段から降りてくるのは、まだ冴えない顔付きをした男達だった。

「フフ、みんな早く。ごはんにするよ」
「赤也くんに金ちゃんにリョーマくん。おはよう!今日の朝ごはんはおばさんが腕によりをかけた!具だくさんお味噌汁!とお魚だよ!
おかわりもあるからね!たーんと召し上がれ!」
「うらぁ!早くしろよな。ったく、いつまで待たせんだよ」
幸村と宍戸は既に席についていて、まだボーっとしている切原、遠山、越前に着席するように促した。
そこへトントントンと階段を降りてくる足音がした。

「みんな、早かね〜!おはようさん」
「千歳!めずらしいな!帰ってきてたのか!」
「千歳や〜!ワイ、千歳の隣な!な!」
「金ちゃん、わかったばってん、机の上に乗るんはいかんばい」
「ちょ、遠山てめ!俺の味噌汁こぼしてんじゃねーよ!」
「…汚い」
「なんでー!ワイ、わざとちゃうもん!そんな怒らんといてやー切原のアホー」
「な!てめぇ潰すぞ!!!!」
「フフ、うるさいよ2人共」
「「わわわわわわかりました」」



いつも通りの朝。
ここは、どこにでもある、ような、ごく普通の、いや、ちょっと変わってる、かも、しれない、
学生のための寮、母羽路荘(ぼうろそう)、通称ボロ荘、である。

「あら?なまえちゃんがまだ起きてきてないわねぇ。ご飯冷めちゃうわねぇ。どうしようかしら」
大家さんが頬に手を当てて言った。

「うーん、誰か起こしてきてくれないかし「「「「却下」」」」
大家さんが言い切る前に、一同は声を揃えた。2人を除いては。

「お、おい切原、お前幼なじみだろーが。おおお起こしにいってこここいよ」
宍戸が焦りながら切原に促した。
「な、無理っスよ!寝起きのアイツの人相半端ないんスから!つーか!そこ幼なじみ関係ないっしょ!?しかもどもりすぎっしょ!」
切原が口の中に白ご飯を入れほお張った状態で言うので、ご飯粒が当たり一面に飛んだ。
それを越前は汚いと言いながら歪んだ表情で見ている。

「んだよ越前リョーマ!そういうお前が起こしに行ったらどうなんだよ!一番年下だろ!」
切原が越前に言う。越前は呆れた顔付きで、
「やだ。しかも年齢関係ないってかどさくさにまぎれて俺の卵焼き取るなよ遠山」
「なんふぁいっふぁふぁ?(もぐもぐもぐもぐ)」
「あーもうホントムカつく(いらいらいらいら)」



「やれやれ…朝から元気やねー。どれ、俺が起こしにいってくるけん、喧嘩はやめなっせ」
千歳はそう言って席を立ち上がった。

「あらまぁ、悪いわねぇ千歳くん」
「よかよか」





「ホラ、あんた達、千歳くんが行ってくれたんだから、ケンカはやめなさい」

「大体今日と言う今日は許さねーぞ!」
「だいたい人の分のおかず食べるってどういう神経してんのアンタ。まだまだだね」
「取られたなかったら名前書いときーな!ワイ悪ないもん!」
「っだぁああぁもう!飯くらい静かに食わせろ!」
「…だめだこりゃ」
「元はと言えばお前が」
「もうムカついた」
「コシマエのアホー」

朝食どころか食堂はもはや内乱騒ぎになっている。

「皆いい加減にしないと」

ギャー
ギャイギャイ
ガッチャーン
ドーン

「お前らいい加減にしろよ」
「「「「すみませんでした」」」」


…これも、いつも通り。
















































「みょうじさん?起きとる?
……返事なかね」

さて、どうしたものかと迷った挙句、
俺は少し遠慮がちに扉を開いた。


「わいたー…、こら熟睡やねー…起こすの可哀相な気もするばってん、朝食やし…学校もあるし…」
俺は目の前で眠るみょうじさんの背中を静かに揺さぶった。が、一向に起きる気配がない。

みょうじさんの寝起きの悪さは、ボロ荘メンバーの間では定評がある。
俺はあまり帰ってこんおかげ?か、被害はあまりないばってん、
宍戸は首を絞められて目の前が霞んだらしく、
幼なじみの切原ですら頭を思いっきりごつかれたり、
越前は目覚まし時計が頭に命中したらしく、
金ちゃんは蹴り一発でドアに吹っ飛ばされたらしい。(金ちゃん一番酷かね)
それ以来、誰もみょうじさんを起こそうとはしない。
幸村に至っては、「俺が行かなくても誰かが行けばいいだろ」と涼しい顔をしている。
ばってん、誰も逆らえんのやけどね。俺も無理やね。うん。

何だか想像したらおかしくなってきて、笑いを堪えていると、
布団の中から小さな声がした。

「るせーなー…あと3ふ…ん」
「んー…そうさせてあげたいんは山々やけん。ばってん朝ご飯も無くなるやろ。それでもよかと?」
「んだよ…じゃますんな…よ、………ん?……あれ?えっ?」

ガバっと、布団の中から起き上がってくると同時に、
「…エ、千歳??あれ?ん?え?ここ?え?なんで?いんの?」
「(あら)おはようさん。朝ごはんおばさんが作ってくれとるけん、一緒に下行くばい?」
「まてよいつかえってきたんだよおまえ」

うつろな表情ながらに俺に問いただすみょうじさん。
……面白かー。

「昨日の夜中ばい。ばってんそれ、まるで俺が遊び人みたいみたいな言い方やね」
「うーん……」
目をこすりながらみょうじさんは必死に目を覚まそうとしている。
その光景が何だかやっぱり面白くて、プッと笑ってしまった。

「…んだよ……」
「いやいや、昼間とは全然違うたいね、みょうじさん。面白いったい」
「はぁ……?なんだよそれ」
眠たそうなみょうじさんだったが、いつもの調子に戻った。

「何でもなか。ほら、下行くばい。皆待っとるけんね」
俺はみょうじさんの頭をぽんぽんと触って立ち上がった。

「さ、さわんなっての!」
みょうじさんが少しあたふたしながら言った。
……やっぱり、面白かー。
久しぶりに帰ってきて、正解やったね。


「…やっぱりみょうじさん、面白かー」
「…変なやつ」

そして俺は食堂(というか居間やね)のドアを開けた。
俺らを見るなり切原が、









「あ!起きてきた!千歳さん!何ともないんスか!?」
「何ともなかよ。さ、みょうじさんもご飯食べなっせ」
「…食べるよ」

無傷で戻ってきた俺を、メンバー全員がまじまじと見つめる。
(大家さんも、幸村もちょっとびっくりしてる。面白いばい)
普通に起こすってことが、みょうじさん相手やとこげに難しいことになるとは。



「あーそういやおばちゃん」
俺はお皿を洗っているおばちゃんに向けて言った。

「ん?どうしたんだい?千歳くん」
「俺ん隣の部屋って、ずっと空き部屋のままなんかいね?」
「なんだ?どうした千歳、急に」
「んー、空き部屋になってだいぶ経つけん、ただ気になっただけたい。いつも誰かしら越してきとったけんね」
「あの人が出てってから、誰も入ってこないっスもんね」

「おばちゃーん、誰も入ってこおへんなら、ワイがあの部屋使いたいわー」
「アンタは自分の部屋を片付けろよ。んだよあの部屋、ブラックホールかっての」
「そんなん言うなら姉ちゃん片付けてーなー。ワイ、片付けるん、苦手やー…」
「うるせーなわけわかんねーよ」
「でもよー、誰が好き好んで入ってくるってんだよ、こんなボロ荘に」
「赤也、あんまりボロボロ言ってると許さないよ」
「(幸村部長おこってる!!しかもこの怒り方ってマジじゃねーかよ!)「マジだよ」えっちょっ」

何かどす黒いものが見える。
しかし、そんなどす黒いものを浄化したのは、おばちゃんの思いがけない一言だった。




「うふふふふふふ」
大家さんがもの凄い解りやすい含み笑いをしている。

これは、あの、能力がお目見えなさった。間違いない。
メンバー全員がそう、確信した。
あえて、聞いたのは、宍戸だった。いいやつ。








「で?今度はどこの男前が入ってくるんだよ?」
宍戸が呆れ気味に問うた。「オバサンの基準ってほんとわかんねーよな…あーわかんねー」
「赤也くん。甘い!甘いわよ!今回の子はねぇ、すううううううううんごおおおおおく!もう!
とびきり!てんこもり!の!イケメンなんだからね!おばちゃん、腰抜けちゃうかと思うくらいよう!」

「ばーちゃんおかわりもぐもぐもぐ」
「なまえサン…すかしてるっスね…」
「イケメンだろうがなんだろーが知ったこっちゃねーよもぐもぐもぐ」
なまえは朝ごはんをひたすら食べ続けていた。

「なまえちゃんは今日も絶好調に冷たいねぇ!でもおばちゃんめげない!なぜなら今日そのイケメンくんがこのボロ荘の下見に来るからよう!」
大家さんは親指をビッとたてて言った。今、この瞬間、誰よりも元気、大家さん。推定年齢60代前半です。

「へー、もうそんなとこまで決まってるんだな」
宍戸が言った。
「まだいろんな物件見てるそうなんだけどね、おばちゃんこの命に代えても説得するつもり!
あの子がここに越してきてくれれば、おばちゃん、あと10歳、いや、30歳は若返れると思うの!きっとそう!」

「うわぁとうとう命かけちゃったよそのイケメン(仮)に」
「10歳から30歳への飛躍のデカさな。こえーよ」
「なーなー、誰か引っ越してくるん!?誰なん!?おもろいなー!!おもろなりそうやなー!!!」
「や、まだ越してくるって決まってないから」
「どんなヤツなんやろーなー!ワイと遊んでくれるヤツなら誰でもえぇわー!」
「「「話聞けよ(や)」」」


「でもどんな奴かは気になるよなー。男?女?」
「おばちゃん女には興味ないよ。女なんていらないいらないおばちゃん1人で充分」
「えっちょっのやろ」
「あぁ、なまえちゃんねおっぱいないし女としておばちゃん見てないから大丈夫!全然大丈夫だからね!」
「ブッ」
「ちょいちょいちょい失礼すぎだろばばあってかいま笑ったのだれだ前出ろ」
「あぁなまえどうかした?」
「ななななんでもないですすいませんんんんまじすいません幸村さん」
「フフ、ならいいよ」
なまえの顔が青ざめていた。
当の幸村は横でニコニコと笑っている。


「(ためいき)で、どんなやつなの」
「リョーマくんため息ついたら幸せは逃げてくよ。まだ名前までは聞いてないんだけどねぇ、たしか関西から来たって行ってたかしらねぇ。
親御さんらといっしょにこっちに来たらしいけど、学校がちいと遠いんで、その子だけ下宿することになったそうよ」
「関西人なんねー」
「関西のヤツに悪いやつはおらへんでー!うおー!はよこうへんかな!そいつ!」
きらきらした目で遠山が言う。

「つーかよ、この辺で下宿先探してるって、もしかして俺らと同じ学校じゃねぇの?」
「たしかに、この辺にほかの高校ばなかね」
「そうそう!アンタ達と同じ永観高校って言ってたわ、たしか!特進科だったかねぇ」
おばちゃんがぽん、と手を叩いて言った。

「それだけ話し込んどいてなんで名前は聞いてねーんだよ…」
「…さぁ皆、そろそろ学校へ行く時間だ」
幸村が椅子から立ち上がり言った。

「やっべー!もうそんな時間かよ!俺、今日1限英語当たるんだった!おばちゃん!ごちそうさん!」
「赤也、ちゃんとやってるんだろうね?」
「ももももちろんっスよ幸村部長(ぶるぶる)」
みんながぞろぞろばたばたと、学校へ行く支度を始めた。

「皆が帰ってきたころにねぇ、その子も下見に来てるだろうからそのつもりで皆も頼んだよ」
おばちゃんがばたばたと靴を履く皆の様子を見つつ言った。

「ばーちゃん、今日あたしバイトある。そんな遅くなんねーとおもうけど」
「あらまぁ。例のカフェかい。頑張るねぇ」
「おう。じゃあいってきます」
「いってきまーっす!」
「いってくるっス」
「いってくるばい」
「いってくるぜ」
「いってきます」
「いってくんなー!!ほななー!」

「いってらっしゃい。気をつけるんだよー!」
ボロ荘の玄関から、おばちゃんは全員に手を振って言った。







一同は、新しい入居者の予感に、
それぞれ密かに胸を高鳴らせていた。




























何かが、変わる、かもしれない。









































つづく


















































あとがき

どうも。ようやく完成しました第1話!
だらだらちんたら書いてしまう癖はご健在のようです(笑)しかし熊本弁まるでわからん!
第2話ではようやく彼と特進科が主体になりそう!ちょいちょい他のひとも出していきたい。
先行きはまるで見えませんが、あたたかく見守っていただければ嬉しいですー。
ちなみに、みんなが通う永観高校って名前は、京都にある永観堂から拝借しました。

ちこ





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