ホロスコープ




「ぜったい浮気や」
何の反応もない携帯を片手に呟く。

そんなあたしの横で友達の藍が、
「何言うてんの、そんなんしはる人とちゃうやんか」
と雑誌を捲りながら言った。
「だって昨日の夜から全く連絡ないねんもん!今までそんなことなかったし・・」
「もうすぐテニス部試合なんとちゃうの?やから忙しいとかさぁ」
「いままでこんなことなかったもんもういややしぬ」
「そんなんで死んでたら命いくつあっても足らんわ」
藍がうんざりしたように言った。ひ、人事だと思って・・!
そう、何をこんなにぐちぐち言うてるかっていうと、
あたしの彼氏である白石蔵ノ介。奴は昨日の夜からあたしに全く連絡をしてこない。
いつもはぜったいメールのひとつでもくれんのに。
いままでこんなことなかったし余計に不安や。浮気や。ぜったい浮気や。
「あたしフラれるんかなぁいややなぁ藍いややそんなん」
「ひとりで自己完結せんの」
藍に丸められた雑誌で頭をぺこっと叩かれた。うーいたい・・!

「大体なまえ、あんたはもうちょい白石くんのことを信用しなさい」
「信じてるよー信じてるからこそ不安なんやんかー・・」
「ほんまに信用してるならそんなくらいでうじうじ言いません」
藍の言葉があたしの胸にぐさっと刺さる。

「どうせあたしはがきんちょやもん藍とは違ってお子様ライスやもん」
「3日待っても何の連絡もなかったときはちゃんと話聞いたげるしちゃんと信じて待ってなさい待つなら犬でも出来るで」
「ちょう!3日とか無理!ほんまにしぬ!!」
「あーもううるさい女々しい!ねちっこい女はほんまに捨てられるで」
「あああもうこの状況で捨てるとかそんなん言わんといて!藍の鬼畜!」
「知らん。じゃあ、あたし用事あるし帰るわ」
あたしを置いてすたすたと帰り支度を始める藍。
「ええええちょっと姉さん!傷心する親友を放っていく気!」
「何が傷心やねんもう聞き飽きたわその話。またメールするし、ほなね」

そう言って藍はあたしなんか放ってさっさと帰ってしまった。
ぐ・・ぐれてやる・・!!!

とはいえ1人で放課後の教室に居ても寂しすぎるだけなので、
あたしもさっさと帰ることにする。
はー、蔵のあほ。あたしなんもしてへんやん。なんなんほんまに。
1人になるとやっぱり急に寂しさがこみ上げてくる。
今日はこの涙をシャワーでかき消すことにしよう。そうしよう。

ほんまに虚しくなってきていまにも溢れてきそうな涙を必死で我慢して交差点で信号待ちをしていると、
聞き覚えのある声があたしを現実へと引き戻した。

「誰か思たらなまえさんやないですか」
「ざ、いぜん・・?」
「ひどい顔っすね」
そう言うと財前はあたしの横に立ち止まった。
「部長が一緒やないなんてえらい珍しいっすね」
「いまのあたしにそのワードは猛毒やわ財前」
「え喧嘩でもしたんすか」
財前がちょっとびっくりした顔でそう言った。
あたしがぽつぽつと話し始めようとすると財前は「なんか甘いもんでも食べながら話聞きますわ」
と言って行きつけらしいお店にあたしを連れて行ってくれた。






































「あー、助かった。ほんまおおきに。藍ちゃん」
「これくらい構わへんよ。せやけどちゃんとほんまのこと言うたらええのに。なまえ、えらい落ち込んどったよ」
「え?ほんまに?驚かせたい思たから連絡も控えとったんやけど逆効果やったかな」
「まぁ事の本心がちゃんと解ればあの子も大丈夫やと思うけど」
「あと今日1日の辛抱やねん」
「今日1日って?」
「あんな、実は―」
「ちょっと、白石くん!あれ・・」
「ん?」














































































「大体話は読めましたわ。つまりなまえさんは昨日の夜から部長からなんの連絡もないのにすねてるんすね」
しょうもな、と財前は最後につけたして言った。ひ、ひど!
「きみ!先輩の彼女が真剣に悩んでるんだからもうちょい真剣に受け答えるべきやと思うな!」
「女々しすぎますわ先輩」
次から次へと財前は遠慮なしにあたしに言った。
せ、せんぱいやぞ・・!!!
「そんなしつこい女やったらホンマに近々捨てられますよ」
「ぬぁあぁあ!ざいぜん!きみね!」
「ってかなまえさんももーちょい部長のこと信用してもええと思うんですけど」
ついさっき、藍があたしに言った言葉と
同じことを財前が言う。

「大体部長、浮気できるほど器用な人ちゃうし」
「え?」
「・・とにかく、信じて待つってことも先輩には必要ですわ」

そう言うと財前はさっさとあたしの分までお会計を済ませていた。
お金を払おうと財布を取り出そうとするあたしに、
財前は「あ、今度めっちゃ高くてめっちゃうまいとこつれてってください」と言ってきた。
なんかしてやられた感があるけど、何だかんだでちゃんと話を聞いてくれた財前に感謝しなきゃだ。

「ありがと財前、ちょっと元気でた」
「さいですか」
「うん、今度ちゃんとお礼させてね」
「まー期待せんと待ってますわ。じゃあ俺こっちなんで・・ってあれ?」
青になった信号を渡ろうとせず立ち止まってる財前が不思議に思い、
あたしも財前の目線の先を見やった。

「あれ、部長ちゃいます?それと横に居るん・・」



あたしの脳内が一気にフリーズ。

向かいの交差点には、
楽しそうに会話する、蔵、と、
用事がある、って言ってさっさと帰っていった、藍。

どういうこと。
なんで2人が一緒に居るん。
なんでそんな楽しそうなん。
いややいややいやや










「! ちょう!なまえさん!」
財前があたしを引き止める声がしたけど、
そんなものはあたしの耳には止まらず、
あたしは蔵と藍の2人の姿が見たくなくって、
逆方向の道を走って行った。

「財前!」
「あ、部長」
「い、いま、一緒に居ったんなまえか!?」
「あ、あぁ、そうです、さっきまで話し込んどったんすけど先輩ら見た瞬間走ってってしもて」
「ちょっとどうすんの白石ぜったいなまえ要らん勘違いしとるよ」
「あかんわ・・完全に良かれと思ってしたことが全部逆効果に出てしもたわ・・!
財前、なまえ、どっち走ってったか解るか?」
「たぶん、あっちのほうやと思うんすけど、あの公園があるとこ」
「そうか!おおきに!藍ちゃん今日はありがとうな!俺行くわ!財前も、すまんな!」
「ちゃんと誤解解いてきいよ」
「ほんま今度特盛善哉奢りっすわ、先輩ら」
「なんでも奢ったるわ!ほなな!」

俺は猛ダッシュで
なまえが走ってったであろう後を追いかけた。


「若いっすねー」
「せやねーあーあほくさーあたしらも帰ろか」
「ホンマあほくささ以外ないっすわ。帰りましょ」





















ひたすらなまえを探して走り続けること30分、
人気のない公園で、ギシギシとブランコが揺れる音がした。


「ここに居ったんか」
「・・! 蔵!」
「携帯もなんも繋がらへんし、心配したわ」
俺はそう言い、なまえの横のブランコに腰を落とす。
なまえは何も言わず俯いたままや。
あー、このときのなまえは、なかなかめんどくさいバージョンや。
「なまえ?」
俺はなまえの顔を覗き込むと、なまえは思いっきり顔を逸らした。
何なん、さすがにちょっと失礼すぎひん?

「あたしに連絡する暇はなくても、藍と遊ぶ時間はあるんだね」
俯いたままなまえが聞こえるか聞こえないか位の声でそう言った。
やっぱりそうか。完全に誤解しとるわ。

「なんでよりによって藍なわけ!あたしのいちばんの友達やん!
酷いわ!ほんまに・・2人して、ほんまにひどい・・」
「ちゃうねんなまえ、ちゃうねんて」
「なにがちゃうんよ!2人共楽しそうやったやん!すごいお似合いやった!
あたし藍には敵わへんもん!きれいやし、賢いし・・」
「ちょっと、なまえ、落ち着いて俺の話聞いて」
「言い訳なら聞きたくないわ蔵のあほ!もうどっか行って!」
そう言い終えたなまえは、せきを切ったように
ぼろぼろと涙を流し始めた。
俺はふぅ、とため息をついてなまえに向き直る。


「・・去年の冬、覚えてるか?」
俺が放った言葉が意外だったのか、なまえは真っ直ぐ俺の方を見た。
「はじめて一緒に遊んでんで、俺ら」
この言葉になまえはハッとしたようにして俺を見た。

「付き合い始めたんは年明けてからやったけどな、初めて遊んだのは12月の頭。
普通は付き合うてからの年数を祝うやん。けど俺は初めて自分と遊んだときのことが忘れられへんくて。それが、明日やねん」
「あ・・」
「ほんで去年な、駅からちょっと離れたとこのカフェでケーキ食べてから近くの時計台見に行ったやろ?
あのカフェめっちゃ人気らしいやんか。予約せな入れへんて聞いてたし俺1人ではなかなか入りにくいし、
それでよう事情知ってる藍ちゃんについてきてもろててんけど・・完全にミスったわ。ごめん」
「も、もしかして連絡がなかったのも・・?」
「今日の夜日付変わったら明日の誘いがてら連絡しよ思てて・・びっくりさせたかったし・・」
「じゃ、じゃあ、完全にあたしの勘違い・・・」
なまえがその場にへたれ込んで、力なくそう言った。
「いや、俺も、まさかこんなことになるとは全然思ってへんかってん・・考えが甘かったわ、堪忍な」
そう言ってなまえをぎゅうっと抱きしめる。

「・・悲しませて、ごめんやで?」
「もういいよ・・あたしこそ・・ごめんな・・勝手に早とちりしてもうて・・」
「いやいや、そんななまえも最高にエクスタシーやわ」
「! あほぬかせ!」









ホロスコープ
(あなたの笑顔で何もかも許されてしまう)










1万打リクエスト第1弾!
白石でほのぼの、でした!
なんっか白石って簡単なようで難しいなぁ、
と、痛感させられました!!
リクエストありがとうございました!
これからもスタイラス!をよろしゅうお願いしまっす!

ちこ




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