7.




「んじゃあ2人とも、もう上がってくれ、お疲れさん」
店長の言葉で、今日のバイトが終わった。

いつもなら、着替えたあとちょっと一服して、
バイクですっとばして帰るとこやが、今日は違う。


あー、思い出しただけで腹筋割れそうじゃ。
そんでもってこの後のことをちょいと考えてみただけで
また腹筋がよじれそうになる。
まさか、冗談半分でみょうじをいじくった結果がこうなるとはな。
まあ俺にとったら結果オーライっちゅうところかのう。


俺は煙草を吸いながら夕方の出来事を思い返していると、
休憩室のドアがバンと勢いよく開く音がした。
ドアのほうに目をやると、あからさまにうんざりしたような顔で、
みょうじが立っていた。























































背面歩行
 07 はじめてのボロ荘


































































「やーすまんのーみょうじ。なんや無理言うたみたいで」
俺は相変わらず横でむくれとるみょうじに言った。
まー悪いなんてそこまで思っとらんがのー。
っていうのはみょうじにもバレとったみたいで、

「悪いなんてちっともおもってないんでしょー」
みょうじが言った。
・・・プリッ。その通りじゃよ。


「いやいや、こんな夜に急に押しかけることになって申し訳ないと思っとるんはホントじゃよ」
俺は吸い終わった吸殻を灰皿に押し潰しながらみょうじにそう言った。
「・・・べつに1人増えたところで大したことないけど」
みょうじはロッカーから荷物を出し、ぶっきらぼうに言う。

「そいつは良かったぜよ。で、お前さんはいつもどうやって帰っとるん」
俺はみょうじに問うた。みょうじは、「歩いて」とだけ答えた。

「なら俺も今日は歩くかー」
「・・・え」
「ん?お前さん歩くんじゃろ」
「でも」
「じゃー帰るかのー」

俺は乗ってきたバイクをそのままバイト先に置いていくことにした。
また明日バイト入っとるし、別に構わんじゃろ。
目の前のみょうじは俺がバイク置いて帰ることをだいぶ気にしとるようじゃけど、
元はと言えば俺が言い出したことなんじゃし、そこまで気にせんでええやろに。
・・・律儀なヤツやの。見かけによらず。





そうやって俺たちがバイト先をあとにしたのは、
21時すぎだった。



















みょうじの家までは、聞けば20分くらいで行けるらしい。
そういやみょうじの家は寮って聞いとったが、具体的なことは何も聞いとらんな。
というか、みょうじとはバイトで一緒のシフトになることはあっても、
そのへんの話はなーんもしたことないのう。
この前ばったり会うた男は、みょうじにとってどういうヤツなんじゃろのう。
みょうじのこと苗字で呼んどったし、深い仲ってワケではなさそうやの。たぶん。
まぁ、俺にはどのみちそこまで関係ない話じゃけどな。






















とかいろいろ考えちょったら、
みょうじが「着きましたけど」と言った。早いのー。






「・・・ここが、あたしの家」
とみょうじが言った先には、


こん前みょうじとばったり会うたときに俺が見た、
なんともボロっちい建物そのものだった。




「どうしたんですか仁王さん」
みょうじが俺の顔を覗き込む。

「あーいや、なんつうか意外でな」
「・・・こんなとこにあたしが住んでんのが?」
「ピヨッ。まあな。正直驚きでいっぱいじゃよ」
「・・・そんな驚いてるようには見えねーけどなあ」




とみょうじが言い、
玄関のドアを開けようとすると、


家の中から豹柄のタンクを着た男が
勢い良く飛び出してきた。















「いややああああ!いややあああ!物置部屋だけは勘弁してーな幸村ああああ!」
豹柄タンクの男は半泣きでそう言った。
え、幸村?ゆきむら??


「・・・今日は何やらかしたんだよ・・・遠山」
みょうじが豹柄タンクの男に向かって呆れたように言う。
遠山と呼ばれた豹柄タンクの男は、

「ねーちゃん!エエところに帰ってきてくれたわあああ!助けてえな!!
幸村がな!!ワイをあの物置部屋に入れようとしよんねん!!あそこ、寒いしジメジメしとるしワイ、いややー!!!!!」

「いや、こたえになってねーよ・・・幸村、遠山が何やらかしたの」
「あぁお帰りなまえ。遠山がね、俺が大事に育ててたガーベラの鉢を壊してね。
今月に入って何回目だと思う?もう13回目だ。これはもう一度ちゃんと言って聞かせないとと思ってな」
「や、こえーよそのどす黒いオーラってか客が来てんだからちょっとはしまえよそのどす黒いオーラ」
「・・・お客さん?」

しゅうううう、と、
みょうじいわくどす黒いオーラが消えていくのがわかる。


「そう。同じバイト先のにお」
「・・・仁王?」
「・・・・・・久しぶりじゃな、幸村」
「え?え?」





さすがに奇想天外すぎてパニクってる俺なんかよそに、
また家の中から、




「だー、もうワケわかんねーよこんな英語まみれの長文なんて!!!
なまえー!!!!?帰ってきてんだったら教えてくれよー!
越前のヤローに教えてもらうのだけはどうも俺のプライドが許せねえー!!!」


「赤也、玄関でわめくな、この人同じバイト先のにお」
「ええええええににににに仁王先輩いいい!!!!!?」
「おーここまでくるとまるで夢でも見とるような気分じゃのー元気か赤也」







































「まさか仁王がなまえと同じバイト先だったとはね」
俺を居間へと招き入れてくれた幸村が言った。

「ビックリなんてもんじゃないっスよ!マジで!」
つられて赤也が言った。

「俺も驚きじゃよ。まさかみょうじがお前さんらと同じ寮住まいとは」


あー世の中ってのはやっぱり狭いもんじゃのー。
みょうじがこんなボロいトコに住んでたんも驚きじゃが、
そこに中学が同じやった幸村に赤也が居ったのが更に驚きじゃけ。
更に驚いたことに、聞いた話では高校も同じとは。
というか、このボロい寮、もはや永観高生専用の寮と化してるな。
幸村とは普通科と特進で会わんから解らんっちゅうたらそれもそうじゃが、
赤也とは何で会わんのじゃろな?
・・・・・・俺が学校行っとらんからか。納得。



久しぶりの再会をお互いでかみしめていると、
1人のおばちゃん(大家さんって幸村が説明してくれたの)が
俺にコーヒーを出してくれた。礼を言おうとした瞬間、












「あああああんんまああああなんてイケメンなのうううううう!!!
もったいない!!!ここに住んでないのがもったいないわあああああ!!!!」

目の前に置かれたコーヒーが机の上でひっくり返ってる。
・・・・・・・・・強烈じゃな・・・。


「おばさんコーヒーこぼれてるから」
幸村が言う。やーだからお前さんのその笑顔ほど怖いもんはないのう・・・。
しかし目の前のオバサンは幸村の言うことなんかお構いなしに(強いな)
俺の手を取って、

「あなた彼女はいないの!!!!?
あら、なんていい匂い!イケメンはつけてる香水も一味違うわねえええ!!!」

と言った。
あー・・・帰りたいかもしれん・・・。



と思っていると、みょうじが、
「ばーちゃん客に向かってやりすぎ。コーヒーこぼれてるし。新しいの出してあげてよ」
「おばちゃん、仁王先輩引いてるから!」
みょうじの次に赤也が言った。お前さんもちいとは気が利くようになったな赤也。
にしても、あー、助かった。






「なんやえらい騒がしいなあ、誰かきとるん・・・」
「幸村、切原。風呂空いたばい。お先やったね」

やったら背が高い男と、やったら男前が居間へ入ってきた。
おぉ、男前のほうは確かこの前みょうじと一緒に居ったヤツか。
って思ってるとその男前のほうも俺のほうをじーっと見ていた。


「えーっと、この前会うたような・・・あ!せや!
みょうじサンのバイト先の・・・えーと、名前なんやったっけ・・・」
「白石?知り合いね?」
「おぉ。この前みょうじサンとスーパー行ったときに偶然会うて・・・
せや!仁王、サン!や!すんません、失礼やわ俺」
「いやいや、構わんよ。白石、やったの?よろしく」
「おー、改めて、よろしゅう頼みます」
男前の白石は俺にぺこっと頭を下げた。

「俺は千歳千里たい。みょうじさんがいつもいろいろお世話になっとるね」
「おーそりゃあもう。いろいろ、な」
「ちょっと待てよ!バイト以外でなんも世話なんかなってねーよ!千歳も何言ってんだよ!!」

すかさずみょうじが俺に向かってガン飛ばしてきよった。笑える。
そんで千歳っちゅうのは、みょうじの頭をぽんぽんと叩いて、
「そうか。そいはすまんかったね」と微笑んで言った。
するとみょうじはちょっと下を向いてうつむいている。
おー何じゃ何じゃ。こげなみょうじ、見たことなかー。
こいつはもしかしてもしかすると、そういう感じかのー。
・・・面白くなってきそうやな。またみょうじをイジるネタができたっちゃ。



とか何とか考えてて俺が1人でにやにやしとったところで、
千歳っちゅうヤツとみょうじの絡みをあんまエエ感じでない様子で見てるのは・・・
ほーう、そういうことか。でも何か、こいつら3人寄ってたかって自覚なし、っちゅうところかの。
俺の読みすぎとるだけかもしれんしなー。
まあ、俺の読みって外れること、滅多にないけど。プリッ!










「そうだ仁王。お前さえ良かったらだけど、今晩泊まっていくか?」
自分の世界から脱却させてくれたのは幸村の一言だった。

「そうっスよ!せっかく久しぶりに会えたんだし、泊まってってくださいよ!」
「いや、明日も朝早いしの。今日はこれで帰るぜよ」
「せっかくやねんし泊まってったらええのに」
「俺らは構わんたい」

「いやいや。また今度ゆっくり来させてもらうきに。お邪魔さん」
俺はそう言って、腰を上げた。
玄関の扉前まで全員が送ってくれた。

「んじゃ。みょうじ、またバイトでな」
「送っていかなくて大丈夫すか」
「よかよか、もう夜も遅いしの。ほいじゃ」
俺はそう言って玄関の扉を開け、ボロっちい寮をあとにした。




















やー、ほんにええモン見た。
これから先どうなるか、じっくり見せてもらうとするぜ、みょうじ。




























































「にしてもかっこよか男やったたいね〜」
「せやなー、同性やとは思えへんわ。何か嫉妬するわー。俺も頑張らなな」
白石がそう言って居間へと入って行った。

・・・頑張るって、何をだよ白石・・・。


「・・・千歳も白石も目え大丈夫か」
「なしてね?」
「あの人のタチの悪さ半端じゃねえよ・・・」
「タチの悪さ、ね?」
「・・・わかんないならいい」
「? みょうじさんも早いうちにお風呂入りなっせ。あったかいばい」
「・・・千歳」
そう言って自分の部屋に入って行こうとする千歳をあたしは呼び止めた。


「ん?どぎゃんしたと?」
千歳はきょとんとしてあたしのほうを見ている。
言え。言うんだよ、あたし。





「あー・・・、この前の、アイス、ありがとう」
途切れ途切れにあたしが言うと、千歳は目を丸くして、

「・・・おばちゃんから聞いたと?」
と少し苦笑いを浮かべて言った。

「うん。うれしかった。あんたはなんも関係なかったのに・・・
なんつうか、気い使わしたみたいで・・・ごめん。でも、うれしかったよ」

とだけ言って、
あたしは自室へと向かった。



























































不意打ちすぎた。
その場を丸く収めるために、良かれと思ってしたことではある。
が、別にどう思われたいとか、
そういうのはいっちょんなかった。






それだけに。





うれしかった、の言葉のあとの、
みょうじさんの笑顔が忘れられん。


「こいつは・・・やられたばい・・・」





俺は自分自身に流れた電流のような正体が一体何なのか、
気づくまでにそう時間はかからなかった。




























































































つづく


































































あとがき

はいはいはいまたしてもまさかの展開でーす!
書いてる方もまったく先が見えません(笑)
仁王さんはすごい捏造されとるな!!
そんな彼はこれから先キーパーソンになってくると思われ!
そしてそして千歳がだいぶリードしすぎてるんで、
白石のほうもがんばらねばなーと思ってます。がんばれ!白石!
あと最初のほうで金ちゃんが放りこまれそうになった物置部屋ってのは、
幸村が金ちゃん(たまに赤也)を反省させるために使ってます(笑)こわ(笑)


ちこ



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