5.




ちゅんちゅんちゅんちゅん・・・・・・







また、いつもどおりの、
朝がはじまる。




























































背面歩行
 05 アイス争奪戦!?

















































「ふわぁあぁあぁ・・・あー、よう寝たわぁ。えぇ朝やわ」
俺はおもいっきり身体を伸ばした。窓から入ってくる朝日がえぇ感じや。

このボロ荘に俺が越してきて、ひと月ほどが経った。
歩く度に床が抜けそうな音がするのや、
風が強い日に本気で窓取れるんちゃうかとか、
千歳は相変わらずふらっふらしとるんとか、
金ちゃんや切原クンが何やいらんことしてよう怒られとるんとか、
そこに越前クンがとばっちりくらったりしとるんとか、
宍戸クンは誰よりも不憫な役回りになってしもとるんとか、
大家さんはどうやらかなりの面食いなこととか、
幸村がここのメンバーの誰よりも権力握ってるんとか、
みょうじサン・・・はちょっとまだよう解らんけど、
ぽつぽつなら話してくれるし、ちょっと笑うてくれるときもあったりして、
寝起きはあんま近寄らんほうがえぇらしいことも解ってきたりして(このまえメンバー総がかりで起こしたな)
もうすべてが日常茶飯事として受け入れることができるようになってきた。


そう思いながら居間の扉を開けると、
リビングではもうすでに大家さんが来てて朝ごはんを作っていた。


「アラおはよう白石クン!いつもだけど今日も早いのねぇ!そして今日もとびきりのイケメン具合ね!」
大家のおばちゃんが俺を見て言った。イケメン具合て・・・。

メンバーいわく、このおばちゃん、俺にはごっつえこひいきしとるらしい。
確かに他のメンバーより違和感がある。ご飯ん時もやたら俺のやつはやたら大盛りにしてくれたり、
この前はじめて家賃払おうとしたら、「白石クンは特別に今月はまけちゃう!」とか言い出して、
切原クンや金ちゃんからの非難の的になったりして(結局はちゃんと払ったけどな)、
まぁ根は悪い人ちゃうから、あんま多くはよう言わんねんけどな。

「あぁおばちゃん、おはようさんです」
イケメン具合のくだりは無視るとして、
俺はいったん外に新聞を取りに行ってから、おばちゃんに挨拶した。
そういや新聞取ったときに気づいたけど、千歳は今日も帰ってきてへんのか。
最後にあいつと話したんいつやったやろ・・・言うてまだ最近かな。
女遊びとかするような奴ではないけど、あいつの放浪癖は相変わらずやなぁ。
何でも1週間で戻ってくる日のほうが少ないとかなんとか。
そういや、越前クンも週末なったら実家に帰っとるみたいやなぁ。今日も居らんみたいやし。


「今日の朝ごはんは出し巻き卵作ったからねー!そろそろ皆起きてくるんじゃないかね」
おばさんがお皿にとりわけながら言っていると、

幸村や宍戸、朝からうるさい金ちゃん、
しばらくしていつも以上に寝癖が際立ってる切原クンが起きてきた。
みょうじサンが一番最後まで寝とるんもいつも通りな感じやな。
・・・とか思ってたら、やったらぼーっとした感じでみょうじサンが起きてきたのは
朝ごはんが終わり際になってからのことやった。



「今日日曜やーん!コシマエおらんかったら退屈やー!千歳もおらんし・・・」
ひーまーやー!と言いながら金ちゃんがゴンタクレとる。

「金ちゃん。ゴンタクレなや」
俺は金ちゃんに言った。が、金ちゃんは相変わらずゴンタクレとる。
・・・あとで毒手やな。

「ったく・・・越前は夕方には帰ってくるだろーがよ。少しは静かにしろよな」
宍戸クンが言った。

「あ、おばちゃん!俺、今日昼ごはんいらねー!」
「アラ赤也くん。デートかい?」
「だったらいいんだけどなー。ダチと遊んでくるっス!」


いつも通りのみんな思い思いな空間が、
ぶち破られるのはとても一瞬のことだった。







・・・みょうじサンがおかしい。




「・・・ない」
そう言いながらみょうじサンは冷蔵庫の全部の扉を開けたり閉めたりしている。

「なまえ?どうしたんだ?」
みょうじサンの異変に気づいた幸村がみょうじサンに尋ねた。

当のみょうじサンは、朝っぱらにしては珍しく血相を変えて、
まだ「ない、ない」言うてる。

「せやから、何がないん?」
俺からもみょうじサンに尋ねた。
なーんか嫌な予感がするわ・・・これ・・・。



「あたしの・・・アイス・・・チョコチップのやつ・・・
ほかにもあったけどチョコチップ楽しみで・・・最後に食おうと思って取っといたのに・・・ない・・・」

とだけ言ってまた冷蔵庫を開け閉めするみょうじサン。
なんか、焦っとるみょうじサンて俺、初めて見たかもしれへん。
そんでもってやっぱ嫌な予感ってのは的を得るよなぁ。
更に感じる嫌な予感が的中せんかったらエェんやけどなぁ・・・。


「アイスのひとつやふたつ、買ってきたらいいじゃねーかよ。ったく朝っぱらからうるせーな」
宍戸クンが呆れた様子で言うてる。この言葉が火に油を注いでしもた。

「ひとつやふたつ・・・だと?」
みょうじサンが言った。ああ、アカン、アカンわ、コレ。

「(びくっ)あー・・・、なんだその、かかか買ってきたら済む話しなんじゃねーの?」
宍戸クンの顔が青ざめとる。口は災いの元って、こういうことやな。まさに。

「・・・ざけんじゃねー」
みょうじサンの周りからどす黒いオーラがにじみ出てきた。幸村とはまた違った感じの。
「あーあー、命知らずなことするヤツもまだ居たもんだな。なまえ、いつまであったんだ?そのアイス」
切原クンがみょうじサンに問うた。

「・・・きのうの夜はあった・・・でも明日の朝に食おうと思って・・・置いといたのに・・・」
「赤也、まさかお前、食べたりしてないだろうね?」
「幸村部長、俺が何年こいつと関わってると思ってるんスか?
そんなことしてたら命いくつあっても足んないっスよ」
切原クンが幸村の言葉に呆れた様子で答えていた。

「昨日の朝ってことは・・・越前も違うだろうな」
「アイツ常識はあるんだからそんなことはしねーだろ。ちなみに俺も食ってねーよ」
「千歳もちゃうやろ。まず最後に帰ってきたんいつやねんっちゅー話やしなぁ」
「白石サンも食ってないっスよね?」
「そんな人のモン食うとか卑しいことはせえへんよ。金ちゃんならまだしも・・・
・・・・・・・・・あれ、金ちゃん?きーんちゃーん?」

金ちゃんが居らん。
そういやこの話なった瞬間、金ちゃんの反応が一瞬でなくなった気が・・・
俺がそう思っていると、部屋の端のほうでそっぽ向いてる金ちゃんが目に入ってきた。
・・・なんちゅーかもう、ベタやなぁ・・・。





「金ちゃん?金ちゃーん?どないしたんや、金ちゃん」
「ま、まさか遠山・・・お前がみょうじの・・・」

宍戸クンがげっそりした様子で言う。
俺も、これから起こるであろう展開にうんざりした。出かけてこよかな・・・。
幸村、切原クン、それから大家さんもハァとため息をついていた。
・・・みんな察しとるみたいやな。みょうじサンが残しといたアイス食うた犯人が。

しばらく沈黙が続いたあと、
変な汗をかきまくってる金ちゃんがとうとう口を開いた。






「わわわわわわわワイちゃうもん!ワイ、アイスなんか知らんで!アイスなんか!」
「・・・金ちゃん。こっち向き」
「知らんて言うてるやんかー!白石のアホー!」
金ちゃんはまだ一向にこっちを向こうとしない。

「・・・とりあえずこっち向いて早くなまえに謝ったほうが命のためだと思うけどな、遠山」
幸村がまたため息をついて言った。大家さんは苦笑いをしながら食器を洗ってる。
「金ちゃん。えぇ加減にしいや。悪いことしたんやったら謝らなあかんやろ」
俺が金ちゃんを説得しようとしていると、
沈黙を守り続けていたみょうじサンが金ちゃんの肩をぐいっと引っ張った。

・・・自業自得やな、金ちゃん。
たぶん俺以外のみんなもそう思ってるやろ。



「ひぃいい!いやや!いやや!ワイちゃう!ワイ食うたんちゃう!」
と言いながら俺らの視界に飛び込んできたのは、











































口の周りにべっとりチョコチップのアイスをつけた、
金ちゃんの顔やった。





























「・・・・・・やっぱてめーか、遠山」
みょうじサンがぶるぶる震えながら言った。
切原クンはこれから起こる内乱に耐えかねたのか、いの一番に、
「あー俺そろそろ出かけてくるっス!」と言って出て行った。

・・・・・・俺も出かけてこよかな。
そう思ったけど金ちゃんが俺の背中にへばりついとって、
身動きひとつ取れへん。金ちゃんめ・・・!



「(ハァ)金ちゃん、エェ加減みょうじさんに謝りや。悪いのはどう見たって金ちゃんや」
「だってワイ知らんかってんもん!ずっと前から置いてあったし食べてエェんか思たんやもん!」
「(いらっ)なんだとてめえ」
「だだだだだ第一ねーちゃんこそ食べられとうなかったら名前書いときーな!解らへんわ!」
「(ぶちっ)てめーは」

見る見るうちに青ざめてく金ちゃんの顔と、
どんどん大きくなってくみょうじサンのどす黒いオーラ。
あ、幸村のとはまたカテゴリーが違うやつな。

・・・ってか俺、全くこの事件に関係ないよな?なんで巻き込まれたみたいになってんの?
ホンマこのゴンタクレは・・・何か俺もよってたかって悪いみたいな絵面やん、これ。
また俺はため息をひとつ吐いた。










































































































「ただいまー。・・・居間のほうが騒がしかね・・・」

俺が靴を脱いで、部屋に上がった瞬間に聞こえてきたのは、
珍しく朝から吠えているみょうじさんの声と、
それにゴンタクレとる(んやろね)金ちゃんの声やった。

・・・大体何が起こっとるんか、想像つくばい・・・。





「千歳くんお帰りー」
大家のおばちゃんが玄関に来て俺を迎えてくれた。

「おばちゃん、ただいま。・・・で、何が起こっとると?」
「金ちゃんがねぇ、なまえちゃんが大切に取っておいたアイスを勝手に食べちゃったみたいなのよ。
すぐに謝ればよかったろうに」
「・・・金ちゃんがゴンタクレてなかなか謝らんち、こつやね」
「そうなのよ。で、金ちゃんが白石くんの背中に隠れちゃってねぇ。
赤也くんはとっとと出かけてっちゃったし、亮ちゃんも部屋行っちゃって」
「やれやれ。しょうがなかたいねー、金ちゃんも。
・・・おばちゃん、そのアイスってどげんやつね?」
俺はついさっき脱いだ外靴を再び履いた。

「たしか・・・茶色いパッケージの・・・ほら、ちょっと高めのやつだったかねぇ。
千歳くん?また出かけるのかい?」
おばちゃんが俺に尋ねた。
「・・・なら、そこのコンビニにも売っとるやろね。
買って帰ってきたらちょうど戦も終わっちょる頃やろけん、行ってくるばい」
「? あぁ、行ってらっしゃい」



































































































「ねーちゃんごめんな・・・」
「だいたいてめーの食欲はどうかしてんだよ!あ!?
人のモン勝手に食うって、てめーは親からどうやって育てられてんだよ!」
「(食欲に関してはみょうじサンも人のこと言えへんな)すまんなみょうじサン、あとでよう言い聞かせとくさかい」
「あー!ないと思ったら余計食いたいんだよ!買ってこい!遠山!」
「ワイ・・・お金持ってへん・・・」
「話になんねーんだよ!何なんだよてめーは!どうやって家賃払ってんだよ!」

さっきまで今にも金ちゃんのこと殴り飛ばしそうなみょうじサンやったけど、
どす黒いオーラは消えつつあるみたいや。なんべんも言うけど、幸村のとは違うやつな。これ重要やし、3回言うてん。
それに俺が盾になっとるからか、殴るのだけはなんとか耐えてたみたいや。
みょうじサンも理性はあるんやな。やっぱりちょっと変わっとるけど普通の女の子や。

とか何やら色々考えてたら居間のドアがガチャっと開いて、
入ってきたのは久しぶりに見た千歳やった。



「・・・おばちゃんから話ば聞いとおよ。金ちゃん、ちゃんとみょうじさんに謝ったと?」
「もう何回も謝ったわぁ・・・千歳ぇ・・・」
金ちゃんが半泣きになりながら千歳のほうへ駆けていった。
やっと開放されたわ・・・この感じ、んんー、絶頂!


「おかえり千歳。ほんま、災難やで」
「白石、ずっと金ちゃんの盾ばなっとったとね?お疲れさん」
千歳が苦笑いをして俺に言った。


「・・・で、みょうじさん。落ち着いたと?」
「おちついてないアイスくいたい」
とみょうじサンがむくれながら答えた。

千歳は少し笑って、
「食べ物ん恨みはすごかね。ばってん金ちゃん、もう人のもん黙って食べたらいけんよ」
と金ちゃん、そしてみょうじサンの頭をぽんぽんと叩きながら言った。
金ちゃんは再び「ごめんなねーちゃん・・・」と言った。どうやら、さすがの金ちゃんも懲りたみたいやな。

・・・なんか千歳、大人やなー。にしても何が驚きやって、
千歳に頭ぽんぽんされて、ちょっと落ち着きかけてるみょうじサンや。
前に切原クンから聞いた話やけど、千歳だけはみょうじサン起こしに行っても、
何の被害も受けたことないとかで。まぁ起こしに行ったことすらないらしい幸村だけは別やけど。
もしかしたら千歳には超能力者張りのスゴイ力があるんちゃうか。


「なまえちゃん、落ち着いたかね?」
「・・・ばーちゃん」
もういつもとすっかり変わらんみょうじサンやった。

「勝手に食べた金ちゃんが悪いけどね、女の子がそんなに暴れるもんじゃないよ」
おばちゃんは言った。みょうじサンは「だってこいつが」とむくれながら言うてる。
やっぱり普通の女の子や。なんかかわいいやん。

・・・・・・・・・・・・え?あれ?


























































































「みょうじちゃん、冷凍庫、見てごらんよ」
「・・・冷凍庫?アイスはもうあいつが食ったからねーよ」
「つべこべ言わずに見てごらんよ」
あたしはばーちゃんに言われるがまま、冷凍庫の扉を開けた。

するとそこには、遠山が食べたはずの、
あたしが楽しみにしてたチョコチップのアイスが3つ、
コンビニの袋に入って姿を現した。


「・・・え、これ・・・」
びっくりしている様子のあたしを見て、ばーちゃんはにっこり笑って、
「あたしじゃないよ。千歳くんがね、さっき帰ってきたんだけど、
あんたらの騒ぎを知って、そこのコンビニまでわざわざ買いに行ってくれたんだよ」
と言った。

「千歳が・・・・・・?」
「そのままなまえちゃんに渡したらって言ったんだけどねぇ。千歳くんには黙っててって言われてさ。
やっぱり言っといたほうがいいかと思ってねぇ。お節介だろうけど、お礼言っといたほうがいいんじゃないかい」
「なんで・・・」
まだびっくりしているあたしの横で、おばちゃんが、

「男だねぇ。青春だねぇ。・・・・・・・・・・・・・・・さぁて、お洗濯しなきゃだわ〜♪」
と言って洗面所へと駆けていった。




















「なんで・・・あいつは関係ないのにわざわざ・・・あたしのために・・・」





あたしは、アイスが入った袋と、
遠山と白石と戯れてる千歳を、交互に見やった。








































































































































つづく
























































あとがき

笑いを提供するとか言うといて、
ちっとも笑いを提供できてないですね(笑)まぁそこはご愛嬌!

にしても千歳はオトコマエすぎか!
だからかっこいいんですよね!にやける!
ちこの中で彼はわりかしスマートなイメージです。
そして千歳一歩リードの中で白石の心境変化の予感、ですね。

次回もお楽しみに!
そろそろあいつも出したいな!天災やろうを!





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