4.




新しく引っ越してきたそいつ。は、
あたしにとって「へんなやつ」、だった。







背面歩行
 04 ひょっこり遭遇しました








「卵Lサイズと、ねぎと、しょうゆと…」
あたしはばーちゃんから渡されたメモ用紙を読み返して言った。
ってか卵だけって言ってたじゃねえかよばーちゃん。
何をどうしたらこんなに忘れられるんだよ…。

あたしは心の中でそうぼやきながら、
白石と一緒にレジをすませた。

財布をかばんになおしたのをちゃんと確かめて、
買い物カゴを元あった場所にしまって、
荷物を持とうとすると、荷物は白石の手の中にあった。


「お、おい」
あたしは白石に言った。

「ん?」
白石はきょとんとした顔であたしのほうを見た。

「にもつ」
あたしがそう言うと、白石は「あぁ」と言うと、
「こんな重たいの、普通男が持つモンやろ」
と笑いながら答えた。


あまりにも、白石がさらっと言うもんだから、
あたしはびっくりして動けずにいた。


「? みょうじサン?どないしたん?なんか忘れモンか?」
白石はまたしてもきょとんとした顔であたしのほうを見つめた。


「へん!おまえへん!やっぱり変!」

心の中で言ったつもりが、
あたしは気がつけば口に出していた。
すると白石はしばらくしてからプッと吹きだして笑い始めた。

「…!」
あたしはずっと笑っている白石を睨んだ。
それに気づいたのか、

「……あぁー、すまんすまん!
やー、やっぱおもろい、おもろいなみょうじサン。
なんか、今日会ったばっかりやとは思えへんわ。えぇ感じやで」
白石はひとりでそう話している。


だめだ、
こいつと話してるとなんかこう、
調子狂う。




「…おまえさぁ」
あたしは白石に言った。

「え?なに、どないしたん?」
白石はまだ笑いを堪えている。


「……あたしのこと怖くないのかよ」
あたしは素朴な疑問を白石にぶつけた。


その日に出会ったやつに聞くのもおかしいのかもしれない。
でも、ボロ荘のやつも、こいつも。
あたしに対して何にも言ってこない。


小学校、中学校、高校に入ってからもあたしは、
誰とも馴染むことはなかった。
こんな見かけのせいか(悪いと思ってないけど)
誰も寄ってこないし、更には上級生からは
毎度毎度呼び出される始末だった(全員のしてやったけど)

でも、あたしがボロ荘に越してきてからは、
ボロ荘に住むやつらは全員、あたしを見ても
怖がったり近寄ってこないどころか、
対等に話しかけてくるやつしかいない。
赤也が居てくれたおかげかもしれないけど、
それでも、ばーちゃんも越前も遠山も宍戸も幸村も、千歳も。
みんなあたしを避けたりはしなかった。

それがなんだかむずがゆくて、
最初は皆に当たったり暴れたりしたこともあったけど、
あぁ、こういうのも悪くないかもなって思えるようになってきた。


それに今日越してきたこの白石。
あたしを怖がるどころか、あたしを見て吹きだしてる。
おかしいのは白石だけじゃない。
普通のやつなら、あたしのことを見て笑うやつなんて容赦しない。

けど、こいつがあたしを見て笑うのは、
なんだか悪い気はしない。

……今日はじめて会ったやつ相手に、
あたしもどうかしてんのかもしれねえな。

白石に向き直ると、







「こわないよ」
と言った。

「え?」
驚いた。白石の言葉に。

「むしろ、俺にとったら、なかなかえぇ感じやで、自分。
たしかにその見てくれは最初ちょっとびっくりしたけどな。でももう何てことないわ」
目の前のやつはそう言う。
次々と出てくる予想外すぎる言葉に、
あたしはただ驚くしかできない。



「……やっぱりおまえ、変なやつだよ」
あたしはフッと笑って言った。
「あ、また今笑ったやろ?えぇやん、やっぱり女の子は笑うてるほうがえぇで」
「………そーかよ」
「そやそや」


出会って1日も経ってないこいつ。
でも、悪くない、かもしれない。こいつも。





「あ、そうやみょうじサン。
さっき大家さんに言われてたモン以外に何か買うてへんかったか?」
白石は何事もなかったかのように言った。

「あぁ、これ?」
あたしは白石が持ってくれている袋からあるものを取り出した。

「何買うたん?」
「プリン。3つ。あたしが食う。自分の金で買ったからいいだろ。
あとは綿菓子とマシュマロと…」
あたしが袋からガサガサと取り出しているのを見て、
白石はまたしてもプッと笑っている。こいつ…!

「んだよなにがおかしいんだよ」
「いやいやいや、すまんな、つい、笑わずにはいられんくて…。
えぇわ自分。そのギャップ、ナイスやで」

なにがナイスやで、だよ!
あああもう調子狂う!ほんとに!
帰ったら速攻プリン食ってやる!3つともに決まってんだろ!文句あるか!


あたしはそう心に決めた。
横で「怒らんといてや」と白石が言ってる。勝手に言ってろ!




あたしはやっぱりスタスタと歩いて、
買ったものを白石からひったくって、
曲がり角を曲がろうとした、

その時だった。




































ドンッ

















「……あー急いで歩くからやで。
…みょうじサン?大丈夫かー?」

後ろから白石の声がする。
けど痛くて気にしてらんねえ。でこ打った…!

ってか買ったモンぜんぶ出てる!たまご!たまご!
ってかそんなことより!ぶつかったやろう!謝れよ!

と言おうとした矢先。
あたしは目の前にいる人物にただひたすら吃驚した。




「……げ」
あたしは気がつくと声に出していた。
目の前の人物はフッと笑って、

「……ようみょうじ、すまんな。
よそ見しながら歩いとったらお前さんとぶつかってしもた」
「…仁王さん」
「こんな所で会うとは珍しいのう。今日はバイトやったん?」
「あぁ…まぁ」
「そうか。お疲れさん。…で」

仁王さんは白石のほうをじっと見ていた。
白石は事態が飲み込めず、きょとんとしている。
というかやべぇ。仁王さんのこの顔。絶対なんか勘違いしてる。

「みょうじサン、知り合いか?」
白石はあたしに問うた。
「……あぁ、あー、同じバイト先の先輩の、仁王さん」
「…じゃよ。よろしくの」
「あー、そうなんや。白石です。よろしゅう頼んます」

白石があたしのことを苗字で呼んだだけが救いだ。
というか仁王さんとこれ以上居たくねえ。めんどくさい。し、何よりこの人の目が苦手だ。
出会ったときから、全部見透かされてるような感じがする。


「すまんな。買うたもんは何もなっとらんか?」
「あー、大丈夫、だと思うんで、」
あたしは仁王さんから視線を外して答えた。


「よかったぜよ。あ、俺こっちじゃし。ほんならまたバイト先でな。みょうじ」
と言うと仁王さんは踵を返していった。
あたしは深くため息をついていると、白石が、

「…なんか、えらい大人びとる人やな。ってかバイト先て、みょうじサン何のバイトしてるん?」
「あー…カフェってか珈琲ショップ、みたいな感じの、小さいとこ」
「へぇ。今度行ってみよかな」
「まじかよやめろよ」
「俺が行ったらまけてな」
「話きけよ」

構わず話し続ける白石。
あたしは小さく笑った。また笑ったなって言われるのめんどうだしな。
そしてあたしと白石はボロ荘へ向かった。
仁王さんなんかに遭遇しちまうし遅くなっちまった…!











































「このへん住めるような場所…ねぇ」
俺が振り向いた先には、ボロッちい寮ひとつ。


ちょっと前に入ってきたバイト先のあいつ。
何も話さんし愛想はないし、
いろんなとこに穴は開きまくっとるし、
目つきも悪いし、背は低いのに変に存在感はある。
ほかのバイトのやつは、あいつを怖いだの何だの
好きなように言うちょるけど、
俺は出会い頭から妙な好奇心があった。

さっき会うたときも、あいつは俺を見るやいなや、
思いっきり嫌な顔(というよりどうしたらえぇか解らん感じやな)をしていた。
それでも俺は、興味がある。
そこらへんに転がっとる女子には全く興味がないが、
あいつはちょっと違う。
単純に、気になる。






「…面白くなりそうやの」
そう言って俺は再び帰路を歩き始めた。





















































つづく




















































あとがき

なんかいろいろ無理矢理感がありましたけど、
第4話です。やっと落ち着いた…!
仁王さん、わたしの推しメンです(笑)
というか逆ハーチックになってきているような気がしますが
全くそんなことはありません(笑)気のせいです(笑)
つぎは笑いを提供できればなーと、おもいます。

ちこ




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