1、提出期限は厳守!
「奈良シカマル、今日もカッコイイ」
いつも朝早く学校のグランドで、キバとナルトくんとチョウジくんとサッカーをしながら遊んでる奈良シカマル。
動くのが嫌なのかキーパーを務めるチョウジくんと、ボールを追っかけるキバとナルトくんをただ突っ立て見ている奈良シカマル。
えへへ、今日もめんどくさそうだ。けどいつもいるんだもん。
そんな姿にクスクス笑みが漏れる。
「まあた見てんのぉ?」
「あ、おはよう、いの」
窓際であるいのの席をお借りして、いつものようにグランドを眺めていると登校してきたいのが若干引き気味で声をかけてきた。
「で、妄想の彼氏さんは、あいっかわらずなーんにもしないでボーとしてるわね」
「妄想の彼氏って…!……、私痛い子みたいじゃない」
「痛い子じゃない。よくもまあ毎日飽きないわね」
「………」
「つか、シカマルのやつゲームしないんならいつもいつもあいつらに付き合って朝早く来なきゃいいのに。馬鹿じゃないの〜」
「確かにねー!」
いのはグランドを覗き奈良シカマルを呆れたように見つめた。そんないのを私はクスクス笑う。
するといのは「そんなことより、早くどきなさいよ」と私の背中を叩くので慌てて立ち上がり本来のこの席の主人であるいのに返した。
「ったく、ほんとどこがいいのかね。あんなの」
そう言っていのは鞄から鏡を取出し髪を触りだす。
いのは奈良シカマルと幼稚園からの幼馴染らしいけど、中学に上がってからは一言も喋らなくなったとか。
いの曰く、男女の幼馴染なんてそんなもんよ、とのこと。
確かに、小さい頃から見てきた人って異性として認識しがたいもんね。
それにさ、あのうちはくんを好きないのにとったら、確かに余計に「あんなの」に見えるんだろうけど…
いのは知らないんだ。
奈良シカマルがいかに、イケメンなのかっていうことを…!!
「ちょ、いきなり怖い顔で私見ないでよ」
「あ、ご、ごめん…」
「もう。ビビったあ」
ふー、とため息をついたいのは鏡を鞄に仕舞うと、ガタっと立ち上がった。
「どこ行くの?」
「バカね!決まってるじゃない。サスケくんのところに行くのよ」
「…いのも、毎日毎日飽きないね」
「あんたに言われたきゃないわよ!」
いのは軽く私を小突くと、「ふふ〜ん♪」と鼻歌奏でて教室から出て行った。
いのの華麗なる後ろ姿を眺めて、私はまたグランドに目を向けた。
…まあ確かに、人のこと言えない。
部活も委員も入ってない私にとって、あの4人の遊びに合わせて朝早く学校に来ているのはとても馬鹿らしいよね。
奈良シカマルと出会ってからずっと片思いをしてきて、彼を眺めてるんだから…。
たまに冷静になっては、なにしてんだ。って思うけどさ。
それにだいたい私は、一度も奈良シカマルと会話したことがない。
さすがの私でも卒業を間近にしてこんな状態じゃ、この恋はもう実りはしないってわかってしまっていた。
「なまえどうすんの?進路」
放課後、先週配られた進路希望の紙を眺める私たち。
今日が締切だったりして、私たちはシャーペンを片手に頬杖付いてため息をした。
「いちおうM女高」
「あー、制服かわいいもんね!ってかシカマルと同じ高校行かないんだ」
「行けないよ。偏差値高いもんあそこ」
そりゃぁ行きたいけどさ。そこまでストーキングするつもりはないよ。
「私の偏差値をバカにしないでよ。M女、制服は可愛いけどバカ校だよ!笑ってくれてもかまわないさ!」
「…あ、うん。ごめん」
真剣に同情するいのに、マジでへこんで机に顔をうずめる。
「まーあいつ。頭意外といーからさ、しょうがないよ」
と、いのには珍しく優しい口調で慰められた。それがなんだか余計にさ、
「い、いの…それ以上なにも言わないで」
「え?」
「死ぬ」
「あ、そりゃごめん」
………うーん、そっか、もうすぐ卒業か…………、
奈良シカマルにはもう会えないのか…。
「よし、私も書ーけた!」
「いのはどこ行くの?」
「私も、M女」
「サスケくんと同じとこ行かないんだ」
「あんたも嫌味なやつね!私の偏差値はあんたと一緒だっての」
「ははは、そーでした。行きたくても行けないねー」
「あんたに言われるとムカつくわ」
いのはぶすっとした顔で、持っていたシャーペンで私の額をコツンと押した。
「いたた」と額を擦ると「はい」と2枚重ねられた進路希望の紙を渡された。もちろんそれは、私といのので。
「な、なに?」
「私の分も先生のところ持ってって」
「えー!なんで!」
「私はこれからサスケくんのとこ行かなきゃいけないし」
「…ならいのがついでに職員室行けばいいじゃん」
「サスケ君の教室と職員室は真逆の方向じゃない!」
「なんだそれ…」
「それに早く行かないとサスケくん帰っちゃうし!どうせこの後暇でしょ」
「…呪ってやる」
「はいはい。どーぞご自由に〜」
と手をひらひらさせてまたご機嫌に教室を出ていくいの。
いのよ。あなたは私以上のストーキング者ね!
仕方なく私は重ねられた2人分の進路希望の紙を手に、職員室に向かった。
「お!お前にしては提出期限守ってるじゃないか」
担任のイルカ先生はからかうように笑って、進路希望の紙を受け取った。一言余計です先生。
「まあいのの分も託されましたんで」
「二人ともM女か。まああそこなら…」
「…先生。その言い方へこむからやめて」
「ハ、ハハ!すまんすまん!」
苦笑いを浮かべるイルカ先生に眉を下げて見つめると、後ろから「イルカ先生ー!」と声が聞こえた。
「じゃあな、ご苦労さん!」
慌ただしくイルカ先生は自分を呼んだ生徒のもとに行ってしまったので、私はトボトボと職員室を出るべく歩き出した。
その瞬間、運悪くある先生の机の横で声を掛けられてしまった。
「あ、みょうじ。いいところに」
その声に反射的にゲッと唸ると、声を掛けた先生は眉を垂らしながら笑った。
「お前ね、失礼だぞ」
「…カカシ先生。なんの用ですか〜…?」
カカシ先生。私のクラスの数学を担当してる先生。なにかっちゃー私に雑用を押し付ける、私にとったら厄介の何物でもない!
「ま、そんな嫌そうな顔しなさんな。お前さこの前の課題プリントまだ提出してないでしょ」
「やってるわけないでしょ!そんなもん!」…って。くそ叫んでやりたい。けど、言えない。言ったらなにされるかたまったもんじゃないものこの人。
「すいません」
と、ここは素直に謝ってみたけど、カカシ先生は「まー、いいけど。あのさ、」と続けたのでやっぱりただじゃ許してくんないのかと肩を落としてカカシ先生の言葉を待った。
「奈良呼んできて」
「…………は、い?」
「いやだから奈良。奈良って知ってる?3組のやつなんだけどね、」
「あ、し、知ってますけど。私の課題プリントとなんの関係が…?」
「いいから呼んで来い」
ん な 無 茶 な !
「カ、カカシ先生!そんな殺生な!勘弁してくださいよ!」
「はい?なに言っちゃってんのみょうじ。いいから奈良呼んできて。知ってんでしょ」
「知ってるもなにも…!」
「だったらホラ行った」
そう言ってカカシ先生は私の背中をポンと押した。
…くそー!いつかやっちまうからなー!
奈良シカマルの3組のクラスの前まで着くと、私はウロウロウロウロしていた。
この教室の扉を開ける勇気がない。
その前に、奈良シカマルに話かける勇気さを持ち合わせていないんだよ!
なぜなら私はチキンだから!
けどけど!早く呼んでこないとカカシ先生になにされるかたまったもんじゃないし、
でも、喋りかけろと?あの奈良シカマルに?む、無理無理!!
そんな勇気があれば、会話ぐらい最初からできてるっちゅうに!
「おーなまえじゃねえか」
「おわ!」
突然後ろから声を掛けられて、ビクっと体が揺れた。
声から誰か特定できたので苦笑いを浮かべて振り返る。
「キバ。ひ、久しぶり」
そこにはやっぱり幼馴染のキバが立っていて、不思議そうに私を見ていた。
キバとは幼稚園から一緒だけど、いのと奈良くんと違って私たちは中学に上がっても見かければ話もする。
まあ廊下ですれ違うこともあまりないからたまにだけど。ごくたまにだけど。
「だな!つーか、ウチのクラスになんか用か?」
「う、うーん。まあ、用なんだけど」
「おー、なに?」
「えーと…、な、奈良君まだいる?、あの、先生に呼んで来いって、頼まれて」
「なんだ。ちょっと待ってろ。呼んでくるわ」
「え、マジ!」
え、ちょ、ちょちょ!ど、どどどうしよう!
タンマタンマ!タイムとるから、時間よ止まって!!
と、私の抵抗はやはり虚しく、ドアからあの奈良シカマルが現れた。
「なに?……………て、お前」
私の顔を見るなり奈良シカマルは怪訝そうな顔を浮かべる。そんな顔でも見つめられてるのに耐えきれなくて私は俯いた。
「な、なんでしょうか…?」
「いや別に。それよりなんか用?」
「あ、先生が呼んで来いって」
「えー?なんだよ、めんどくせーな」
奈良シカマルはボソっとつぶやくと、渋々職員室へ歩きだした。私は会話をした感動もできぬまま彼の後を追ったのだった。
「奈良クンねこの前のプリントまだ出してないでしょ」
「プリント?なんだそれ」
「こーれ」
「あー、つーか手もつけてねえし」
「提出期限はもうとっくに過ぎてるんだけどさ」
「ジュケンベンキョーで忙しいもんで」
カカシ先生と奈良シカマルの会話が始まり、使命を果たした私はこれ以上ここにいても心臓に悪いと2人に背を向けた瞬間、カカシ先生が私の腕をガシっと掴んだ。
「おわ!」
「んー?みょうじ。誰が帰っていいと言った」
「え、でも用はもう済んだんじゃ…」
「お前も課題プリントまだでしょ」
「え、……………、カカシ先生?」
「ま、キミらね結構提出期限守れてないからさ、この際ちょっとお仕置きでオレがお前らのために作ったこの特製プリントを50枚。ハイ。やってもらうから」
「はあ!?」
「い、いらない…!」
「来週までに持って来い。いいな」
と、ギロリと言うカカシ先生に私と奈良シカマルは背筋をピンと伸ばし、そのあとすぐ肩を落とした。
つか、なにこれ!
二人で共同作業的な萌えシチュエーションなんて、い、い、いらないから!!
提出期限は守りましょう
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