28、その一歩は大きい




準備室のドアのひっかけ口に手を置いてみたり離してみたり、そんなことを繰り返していた。

どんな顔でシカマルくんに会ったらいいのか私には難しすぎたのだ。

当然「昨日彼女があなたの約束を破って違う男と手を繋いでデートしてましたよ」と言えるわけもない。
だからと言って昨日の出来事を気にせずシカマルくんの顔を見ることもできない。
どこかでかならずボロがでる。
わかる自分ですっごくわかる。

1つため息をついて、今度は長いため息を吐く。

制服のポケットからこっそり携帯をだして時計を確認した。
4時…か。もう私30分ぐらいここにいるわ。ハ、ハハ。

「よし、」と小声で気合を入れた。
ひっかけ口に手を置いて扉を右に引………待て。

あれ…、待って、物音してる?誰かがいる気配がないんだけど。

なかなかシカマルくんに会いづらくて結構遅く来てしまったしこうして30分悶々と扉の前に居たし、
その間にシカマルくんは来なかったからてっきりもう中にいると思っていたけど…

私はそーと扉を開けてみた。けど、


やっぱりそこは、もぬけの殻だった。























先生に見つかって取り上げられないように急いで準備室に入り扉を閉めて、携帯を出した。
Nのページを開いて、『奈良シカマル』の名前を見つけて通話ボタンを押す。


プルプル――…プルプル――………―――――お客様の、


「出ない…なんで?」

急に心臓がバクバクと脈を打ち出した。
なにをそんなに不安がることがあるのだろうか。
原因はわかっているだけに泣きそうになった。

…わからないじゃん。またアスマ先生から呼び出しがあったのかもしれないし、
もしかしたらキバがシカマルくんを呼び止めて教室で長話してるかもしれない。
長い長い長い長いトイレに行ってるかもしれないし…

「…な、わけないじゃん……!」

私は携帯をギュウッと握って準備室を飛び出した。
廊下を走って曲がりの階段を駆け下りる。

警報音が私の頭で鳴っているのだ。
シカマルくんになにかあったって。
勘だけど、違うかもしれないけど、違ってくれていいんだけど。
それでもどこかでシカマルくんが泣いているんじゃないかって、一人でいるんじゃないかって…、



ガラガラガラ――!


シカマルくんの教室を開けても誰もいなくて、でも見覚えのあるものがそこにはあった。

「カバンはある!」

これがあるということはまだ帰ってない。
まだ学校に居る。
私が次に向かうのは職員室だった。

お願い、お願い!いて!


ガラガラガラー…

膝に手をついて唾を飲み込む。
肺が空気を欲しがっていて膨らんだりへこんだりしてる。
全力で息を整えて、ゆっくりと顔を上げた。…でもシカマルくんはいなかった。


ゼエ、ゼエ、ゼェ……あ、やっばい。喉から変な音聞こえる。
近くの席に座っていた先生が「大丈夫か?」と近寄ってきた。「3年3組の奈良シカマル見ませんでした?」って聞きたいのにうまく声が出てこない。

息を吸って吐くだけでいっぱいだった。
違うところ、探しにいきたいのに……

「だ、だいじょ…ぶ、で……」

聞こえているかどうかわからないけどそう答えて職員室の扉を閉じた。
壁に寄り掛かって息を整える。落ち着け…落ち着け…。

「すー…はー…、すー…はー…」


徐々に呼吸はキレイになって息苦しさはなくなった。
それと同時にまた私の思考が動き出す。
どこにいるのだろうか…
考えられる場所がそれ以上見つからなくて、でも電話をしてもつながなくて。

購買、図書室、また戻って準備室に、シカマルくんの教室。それでもカバンはまだそこにあった。

ふと外をみると空はうっすらと茜色に染まってて教室に高いところに飾ってある時計に目を向けると5時を回っていた。

どうしよう…もうどこ探していいか…。
するとふとある場所が浮かんででもすぐ掻き消す。だけどもうそこぐらいしか思い当たらくてすがる思いで足を運んだ。














一番最後まで階段を上がると「立ち入り禁止」と大きく立てかけられてる板が目に入る。
普段は鍵がかかっていて開いてることはまずないこの屋上の扉。
カカシ先生は合鍵を勝手に作っていたけど、生徒がそんなことできるはずもない。
きっと鍵は閉まっているだろう…でも、

ゆっくりとドアノブに手を置いて回す。

ガッ、チャ…――――

開いた…!と思って扉を開けるとそこにはずっと探していた人がいた。
寝そべって、驚いた顔でこっちを見ていた。


「………びっくした…!」

飛び上がるように起き上がるシカマルくん。「あーお前でよかったぜ。センコーだったら反省文書かされるとこだった…でも扉もともと開いてたんだからな、」なんて早口にまくし立てて笑ってる。
でもその顔は無理に作られている顔だった。


「……探したよ」

「あー悪い。サボっちまって」

「そんなことどうだっていいよ!」

ギっと睨んでシカマルくんに詰め寄る。
そんな私に驚いていたシカマルくんもすぐに眉間に皺が寄った。

「な、なんだよ。悪かったっつってんだろ」

「………心配したんだよ」

「…え」

「カバンはあるし、電話してもつながらないし…!心配したの!心配したから…心配だったから探して…でも見つからないし」

「…」

「…良かった…見つかって」

今頃になって安堵感が襲ってきた。
良かった、泣いてなかった…
膝に力が入らなくてへなへなとその場に座り込んだ。
シカマルくんが慌てて近づいてきて私の顔を覗き込む。

「汗だくじゃねえか…」

そう言って私の額に流れてる汗をそっと拭った。

「き、きたない、」

「きたなくねえよ…」

覗き込んでくるシカマルくんは眉がだらしなく垂れ下がってて「…悪ぃ」とポツンと呟いた。

どこか弱弱しいその姿に鼻がツンとした。
どうしたらいいのかわからずにいると、トンと肩が重くなって、


「…悪い…ちょっとだけ…いいか」

「う、うん…」

シカマルくんの頭が私の肩に寄り掛かってそれが余計に私の胸を締めつけた。


「オレ…フラれたわ」

その言葉にギュッと目を瞑った。

想像はしていてどこかで聞きたかった言葉で、一番聞きたくなかった言葉。


「やっぱり男とし見れねーってさ」

「…」

「傷つけたくなくて断れなかったんだと、なんだよそれ…オレすげー恥ずかしいじゃねえか」

「………」

「めんどくせーな…女ってよ、」

シカマルくんの声は生きてるようには思えなくて淡々と発せられていて。

私がいつもいろんなシカマルくんを発見するときは彼女のことを話すときが多くて、
そんな顔できるんだって…、胸が痛くて。
でもいろんなシカマルくんが見れることに喜びさえ感じるようになって。
本当に、本気で…、幸せになってくれたらいいって、最近は思っていたんだよ。
私はそれを友達としてそばで見れればいいって…思、

「う、…ぐ………ッ」

それは急に来た。バカみたいに涙が流れてきた。バカ、バカバカバカ!私が泣いてどうすんだ…、
一生懸命手首の袖で拭いてみても次から次へと溢れてきて、
シカマルくんはそんな私に気づいてか顔を上げると、私の顔を見てぎょっとしていた。

「おい、んでお前が泣くんだよ………」

その顔はいつも私を見る本気で呆れたシカマルくんの顔で、

「ごめ………っ…ぐ、」

今私すごいぶっさいくな顔してると思う。
だって顔が締まらない。ぐしゃぐしゃに皺が寄っているのが自分でもわかる。

カカシ先生に「引くわー」ってお墨付きをもらった鼻水がツーと流れているのもわかっている。

「そんだけ泣かれるとオレ泣けなくなんだろーが」

「ごめ…っ、う、」

「あーあきったねーな、鼻水すげーって」

「ごめんん……っ……!」

袖で鼻をゴシゴシふく。繊維で鼻が痛くて余計に涙が出た。
もう涙でシカマルくんの顔がいまいちよくわからない。今どんな表情をしているのか、でもきっとつらいはずだ。
好きな人に振られるのはすごく辛いはずだ。傷ついて、胸が痛くて、生きてるのもつらいはずなの。
そんな気持ちをシカマルくんが今抱えているのかと思うと、私はもっと辛い。


眉を上げて笑ってるシカマルくんが大好きなの…その顔が私はもっと見たい。
苦しそうに、作った顔なんて見たくない…!
笑った顔が、好きだから―――







「…ブっ、」

………………え。あれ?なんだ今のぶーぶーくっしょん鳴らしたような音は…、


「…ククククク」

なにこの喉がかすれて、人をバカにしたようなこの不愉快にさせるようなこの音は…


「…ククク…ハ、あ、ムリだ、わ……ア、ハハハハ!」

なにが起こっているのか…涙で前が見えないのに、今のシカマルくんがどんな顔をしているのか想像できた。
眉を上げて…笑っているんだ…、


「な、んんぐ…で、笑……の…」

「ククク…っ、ハハ…あームリ、お前……すんげー…ハハ…ぶさいく」


ぶ、!?
聞き捨てならなくて私は両手で目をゴシゴシと涙を拭いた。涙は今のでピタッと止まった。

「ひどい!」

「お前…くくく…涙より鼻水……くくはは…っ、拭けって…!」

涙を拭いて視界に見えたシカマルくんはそれはそれはおかしそうにお腹を抱えて笑っていた。
私は恥ずかしくなってすぐに鼻水を拭いた。


「……ったく………ブッ、」

落ち着いたと思ったら思い出したようにまた笑いだす。
それがなんだかちょっと、ムカついた。

「笑いすぎです!」

「…お前が笑かすからだろ。はぁぁーっ腹いて」

目じりから流れる涙を拭って、シカマルくんはわざとらしく息を整いだした。

「もう、」

「お前が…」

「そうです!私が勝手に泣いて鼻水垂らしてたんです!」

「…ありがとよ、」

恥ずかしくてちょっと力強く言うと、向かいからポツンと声が聞こえた。
驚いてシカマルくんの顔を見ると、眉を垂らして笑っていた。

「さっきまですげー辛かったんだけどな、」

「シカマルく、」

「だせーけど、泣きそうになったりなんかしてよ」

「…、」

「でも、」

「……」

「救われた。お前が居てくれてよかった、ありがとな」

ニカリと笑うシカマルくんにまた鼻がツンとして涙が出そうになったのをぐっとこらえた。

どこかその笑顔は、気持ちに答えられなかった私になんだかスッキリしたような笑顔を向けてくれたキバの笑顔に似ていて、そう…大人だと感じたんだ。
この笑顔が何故大人に見えたのか、今わかった。


恋に勝った人の顔だ…
辛いのに、泣きたいのに、それでもそれを乗り越えようと、向き合おうとしている人の顔だ。
支配から、乗り越えた人の顔だった。
それが私には大人に見えた…、
向き合うこともせずシカマルくんの言動にただ一喜一憂してる私にはできない笑顔だった。

私も…この人と同じように笑っていたい。
胸を張って、隣に笑顔で立っていたい。そう思った。



一歩を……踏み出したいと思った。
シカマルくんの傍で…






「……私、シカマルくんのことが好きです」









その一歩は大きい




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