27、見るは目の毒 聞くは気の毒
「女つうのはよ、記念日とか大事にすんだよな、」
「……記念日?」
木曜日。今日もいつものように放課後、カカシ先生の準備室でお片付け。
やはり4日も経つとだいぶ、そりゃあもうだいぶ綺麗になった。だって机の上に書類がない!
ガランガランだった棚には綺麗に並べられた本やファイル類。そしてなにより床が、床が見える!
本日も順調に片づけは進んでいる。もしかしたら今日中には終わるんじゃないかな。
そういう過信があるからか私たちの手も次第と遅くなっていき、雑談も増える。
なにがってカカシ先生の悪口を言い合っているときの方が驚くほど手がはかどるんだけど。
少し飽きてきたのかシカマルくんはカカシ先生の机の前に置かれいる(昔は教室に置かれていたと思われる)4つに固められたボロボロの勉強机の上に腰かけた寝そべった。
うーんと伸びをして大きいあくびを一つ。私もつられてこっそりあくびをする。
そしたら急に「女つうのはよ、記念日とか大事にすんだよな、」だからちょっとびっくりする。
「彼女さん、との…?」
「まぁ」
シカマルくんの口から彼女の話が出てくるもんならいつも真っ先に胸がズキズキするはずなのになぜかそれがない。
それよりも驚きのほうが強かった。俗にいうこれって「恋愛相談」だ、よね。私にその「恋愛相談」を私に、私にしてるんだよね。
"嬉しい"と思ってしまった私は悲しいほど順調に友達ルートを辿っているようだ。
「記念日大事かな…うん。なにかしてあげるの?」
「……まあ明日で2週目だからな」
「………………に、にしゅう…」
「なんだよ」
「えっと…普通さ、これすごく一般的なんだけど、記念日って1か月、3か月、半年、1年とかっていう区切るんじゃないかな…」
「あー…」
カリカリとおでこをかくシカマルくん。
「めんどくさそうな顔してるとこ悪いんだけど、シカマルくんから聞いたんだからね」
「わーってるよ」
「だからね別に毎回祝わなくていいんだよ。人それぞれだから自分のキリのいいとこでお祝いしたいいんじゃないかな」
「そうか、」
「うん」
「じゃあせっかくだから祝うわ」
「……彼女思いなんだね」
「別にそんなことねえよ。ふつうだろ」
…ふつうだってさ。あ、きたきた胸のズキズキ。
いやいやふつうじゃないよ。そんな記念日とか気にしてさ祝うだなんて。そんな羨ましいことがふつうなわけないじゃん…
「羨ましいなあ……」
「え?」
「あ、」
――しまった。
思わず口から洩れた。シカマルくんはポカーンと私をみていて私は思わず目を逸らす。
「羨ましいか…?」
「えー…と、そりゃあだって記念日とか気にしてくれる彼氏なんて、羨ましすぎるよ」
「そうなもんか?」
「そんなもんですよ、」
「あー…」
テレくさそうにまたおでこをかくシカマルくんに心の中で「ちぇ」と呟いた。
「つうかよ、お前はいねえのか?」
「え?」
「好きなやつとか」
「……」
「あー、悪い。聞き流してくれかまわねーから」
「…いる」
「へー。オレの知ってるやつか?」
知ってるもなにもシカマルくんだし、
なんて彼はこれっぽっちも一ミリも考えないだろうけど。知ってる知ってるもうわかってますから。
「うん」
ちょっと投げやりに答えるとシカマルくんは寝そべっていた身体を起こした。
「うまくいってねえのかよ」
「……うまくいってるよ」
ある意味ね。なんて自嘲気味に言うとシカマルくんは机からぶら下がってる足をゆっくりと揺らす。
「あー、大丈夫だ」
「え?」
「…アイツもお前のこと好きだし」
ボソボソ言っていてよく聞き取れなくて首を傾げるとシカマルくんは珍しく眉を垂らして「なんでもねえよ」と言って机からポンと降りた。
「さーやるか」なんてらしくもない張り切った声を出してまだ片づけられてない棚に手を付け始める。
「おーら、お前も手ぇ動かせや」
「…さっきまで机に寝そべった人に言われたくないよ」
「なんか言ったか」
「なななんでもありません!」
「ったく。丸聞こえなんだっての。お前、前の方がしおらしくて可愛げがあったのにな」
「かわ…!」
まんまと嬉しくて顔を赤らめてしまった。
「ま、でも。今のほうが喋りやすいわ」
「…っ」
眉を上げて嬉しそうに笑うシカマルくんは私が今ナニに見えているのだろうか。
そこそこ長いこの髪も短い髪にでも見えてるんだろうか。
そこそこ短くしてるこのスカートもきっとシカマルくんが着ているあのズボンに見えているんだろうか。
長かった片づけもやっと終わりが見えてきた。
片づけはほぼ終わり、あとは床や机やついでに窓も拭いてしまえば綺麗な部屋に成り上がるだろう。
それは明日にしようということでシカマルくんと別れた。
なんでも今から彼女に会いにいくらしい。一緒に記念日のプレゼント選ぶんだって。
5時過ぎだというのにすっかり外は暗くて、そろそろ本格的に冬が来るんだと再確認した。
私は夕食の材料を買いに駅前のショッピングセンターの食品売り場に足を運んだ。
おばあちゃんは最近調子が悪くて寝込んでいることが多い。じいちゃんはいつもばあちゃん任せで料理なんかできない。
かと言って私は威張れるほど料理ができるわけじゃない、だって今までおばあちゃんが作ってくれていたから作る必要がなかった。
私が作れるものと言えばオムライスぐらい。
こればかりは昔から上手だった。特別練習したわけじゃないけど綺麗に卵を巻けることができたし、自分でも不思議なぐらい。それ以外はめっぽうだけど。
しかしじいちゃんは大の和食好き。オムライスなんか出した日にゃちゃぶ台(ないけど)ひっくり返されそうな勢い。
「(じいちゃん気に入らないとすぐ怒るからなあ…)」
今晩のおかずにこんなに時間がかかるとは…おばあちゃんの偉大さがまたよくわかる。
早くおばあちゃん良くなってくれたらいいな…
「おい、こんなもん買わないぞ」
「なんだよ買えよ。俺今日これ食べる」
「だめだ」
結局なにも浮かばずに手抜きだ!手抜き!と総菜コーナーに向かおうと歩き出した時だった。
向いから男女が歩いてくるのが見えた。会話からして恋人だろう。
どいつもこいつも、なんて妬み恨みにチラっと見てやろうと顔を上げると、私は息を飲んだ。
隣同士で歩いている男女は会話とは裏腹に仲よさそうに手を繋いでいて、恋人だとすぐわかる。
わかるんだけど…その彼女のほうに問題があった。
あれは…シカマルくんとあの日学校の前で……、キスをしていたあの彼女だ。
間違いない。あんな金髪の綺麗な人を、羨ましくてずっと思い出していたあの人…忘れるはずがない。
なのに、隣にいる人は……シカマルくんじゃなかった。
思わず立ちつくして彼女の顔をじっと見てしまった。近づくにつれて彼女も違和感を感じたのかジロっと私の顔見た。一瞬目があってその威圧感に思わず目を逸らした。
そのなんとも言えないオーラを身にまとった彼女に瞬間的に感じた。
負けた、と。
女のとしての格の違い。
彼女は選ばれ人(なにかはわからないけど)で、そんな彼女は男の人はひきつけられるんだと。
女の私でもあの目力に吸い込まれそうになった。
カッコいい…人。
「てかお前いいの?」
「ん?」
「今日約束あったんだろ」
「あー……、うん。」
すれ違う瞬間に聞こえた会話に私は我に返った。
そうだ、これって…浮気なんじゃ。約束って…シカマルくんのことじゃない。
どういうこと…?
私はゆっくと振り返って遠ざかっていく二人の背中を見つめた。
愛おしそうに繋ぎ合っている二人の手から目を離すことができなかった…。
見るは目の毒 聞くは気の毒
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