26、近づいていく距離。
「よーす」
「早いね、奈良くん」
「…、まーな」
放課後になって私は当たり前のように準備室に向かった。
お昼はカカシ先生と一緒に(しかし結局カカシ先生はなにも食べず読みかけの本を読んでいたけど)昼食をとった準備室。
結構速く来たつもりだったのでまさか奈良くんがにいるとは思わなかった。
「なんでそんなに驚くんだよ」
「や、奈良くんいつも遅いから…」
「お前言うようになったじゃねえか」
と、なんだか嬉しそうに笑う奈良くんに心ときめかせた。最近は無防備によく笑ってくれてなんだか嬉しい。
「月曜日はどうなることかと思ったけどさすがに片付いてきたな」
「そうだね」
「相変わらず片してもカカシの席だけはいつも次の日きたら元通り汚ねえしな」
「うん。なんかね見てたんだけどあれ無意識だと思う。典型的な片づけできない人のしぐさ。出したもの戻さないもん」
「よく見てんだな」
「まあよくカカシ先生の仕事手伝いやらされてるしねここで」
「お前ほんとにカカシに目つけられてんだな、ある意味お気に入りじゃん」
「……お気に入り」
ゾワゾワゾワゾワ。全身で鳥肌が立ちました。
「やめてよ!いじめだよ!向こうは可愛がってるつもりらしいけどさ」
ちょっと悪態をついてはみるものの、確かに悔しいけどカカシ先生は優しい…時も!あるけどさ。
お昼休みだって、
「俺はお前にすごく優しいよ」
「……知ってる」
結構頑張って素直になったつもりで、でもそんな私の心情もやっぱりカカシ先生はお見通しみたいでクスクス笑ってるし。
なのに、
「お前今日はやけに素直だねぇ、明日は雨だな、傘忘れずに持ってこなきゃな」
なんてベタなからかい文句を言ってくる始末。ふん!やっぱりヤなヤツ!
「まあでもカカシのことわからんでもないけど」
「え、」
「俺もお前のこと構いたくなるし」
「…っ!」
ボンっと顔が真っ赤になっているだろうが、奈良くんは気にせず片づけを進めているし。
奈良くんは今なにを言ったかわかっているのかな。
「なんかいい意味に聞こえないよ…」
「あ〜そうか?」
「うん…」
全然私のこと意識してないってことじゃんか…。
「奈良くんのバカ」
「はぁ?」
「………なにか?」
「お前人をバカ呼ばわりしたあげくなんだその顔は」
目を細めて奈良くんを見ると奈良くんは少し困った顔で手を止めた。
「感じわりーぞ」
「別いいもん」
「は?お前なんだよ急に機嫌悪くなんなよ」
「……ごめんなさい」
…なにをやってるんだ、私は。
奈良くんは彼女いるんだし。私のことはなんとも思ってないってわかってることじゃない…
勝手に傷ついて、奈良くんにあたるなんて…バカ。
しゅんとしていると奈良くんはため息つきながら私の前まで近づいてきて顔を覗き込んでくる。
「お前最近情緒不安定だな、」
「………うん」
「なんか悩みごとでもあんのか?」
「……」
奈良くんのことだよって、いっそう言えたら楽なのに。
「なんでもないよ…ごめんね」
「そうか?」
「うん。女の子はいろいろあるの」
「あ?……………………あーと……、」
急に奈良くんの顔が少し赤くなって私から視線を逸らす。
ん?
「まあ…なんだ…オレそういうのわかんねえけど…辛かったら今日…帰っていいぞ」
「え…………、」
「……………」
と、気まずそうに呟く奈良くんに私は彼の言ってることを一瞬で理解して耳から鼻から煙が出そうになるぐらい顔が真っ赤になった。
「ちちちちちちちちちち違うよ!違うからね!」
「え、?」
「違うよ!違う!今日違うから!」
「…あーっと…」
って「今日違うから!」ってなに言ってんの!私の、私の、バカー!
死 に た い
「わ、悪い…オレが勝手に…」
「…………死にたい……」
「悪ぃ……」
「恥ずかしい………穴があったら入りたい」
「お前一生出てこなそうだから入るなよ。…ったく大丈夫だっての…、オレが勝手に勘違いしたんだから、悪かったよ」
そう言ってしゃがんで顔を覆ってる私の手を剥がそうとする奈良くん。
「別にオレ相手だから恥ずかしがることねえだろ…」
「………奈良くんだから恥ずかしいんだっての……」
「あ?なんて?」
「…奈良くん"でも"恥ずかしいの!」
言い直して、なんだか泣きそうになったがこれで泣くと余計に恥ずかしいので我慢した。
お嫁行けないってよく漫画で見るけど…なるほどこういうときに言いたくなるんだな……
「悪かったよ……」
「………」
「機嫌なおせよ」
「………」
はあ、とため息をついてまた顔を覆ってる手を剥がそうと奈良くんの指が私の指を優し触れた。
初めて触れられる手の感触で、思わず胸が高鳴って、あっという間に奈良くんによって剥がされて、困ったような表情の奈良くんの顔が視界に入った。なんか…近い…。
「悪かったな…」
「う、うん…」
まだ奈良くんは私の手に触れたままで、至近距離の奈良くんの顔は私には相当のダメージを与えているらしく、心臓の負荷が…
「悪かった、ほんと」
「そ、そんな謝らなくていいよ。う、うん!もう大丈夫…!だいぶ落ち着いたから…うん!だから…」
「ん?」
「奈良くん……!」
「…おい、」
「はい!」
近いし早く手を放して欲しい一心で名前を呼ぶと、奈良くんはなんだかちょっと眉間に皺が寄っていて思わず反射的にいい返事を返してしまった。
ああ早く離れて欲しい!じゃないと、心臓が…
「どうでもいいけどよ、お前さ」
「え、」
…なんかもっと顔が近づいてる…怖い顔の奈良くんが近づいてくる……
恥ずかしいを通り越してちょっと怖くて汗が噴き出してくる。
あまりにも私がメソメソうじうじしてるのが彼の機嫌を損ねてしまったのだろうか。
奈良くんがあんなに謝っているのに私が……
「いつまで言うつもりなんだよ、」
「………え?」
「だから…、」
「奈良くん…?」
「それだ、ったく」
「え?」
じっと私の顔を見る奈良くんに思わずお目々がパチパチする。
「や、別にいいんだけどよ…」
と、我に返ったように奈良くんの耳がみるみる赤くなっていって、ちょっと顔が離れた。
「………………シ、シカマ…ルく…………ん」
試しに控えめに言ってみると、奈良くんは恥ずかしそうに私から目線を逸らした。
「…………や、やっぱ奈良くんでいいわ」
「えっ!」
「なんか照れくさい。奈良くんで、」
「や、無理!シカマルくんって言うもんね!」
意地になって言い返すと、奈良くんは少し驚いた顔をしてそのあとすぐ笑った。
本当に…奈良くんってば……
どれだけ私を虜にするつもりなんだろう……やっぱり好きだよ。奈良くん。
諦めることは私にはできない。
彼女いてもいい。
私のこと女の子として見てなくてもいい。
友達の良いヤツポジションでもいい。
この手の温もりが、たとえ奈良くんにとって特別じゃなくてもいい。
「頑張れ」
ふと、昨日の放課後の屋上で言ってくれたカカシ先生の言葉を思い出した。
まさかこんな時にあの大魔神カカシの言葉を思い出して……心強く思うなんて。
「………シカマルくん!」
「…そんな力強く呼ばなくていいっつの」
私はこれでもちょっとずつ、奈良く…シカマルくんと近づいていってる。
その行く先のゴールが私が思い描いていたものじゃなくても。
確実に私とシカマルくんは近づいている。
見ているだけだったあの頃とは…違う。
私たちは、"友達"になったのだ。
「シカマルくん!」
「…ハイハイ」
近づいていく距離。
「…………あ、あれ?」
「なんだよ?」
「あれ?……シカマルくん…私のこと名前で呼んでくれたことないんじゃ…」
「そうか?」
「…いつもお前って言ってる」
「…………みょうじ」
「……………なんか違う気がする……」
「照れくせーだろうが」
「…………自分は名字呼びして怒ったくせに」
「だー!めんどくせー!」
「……………別にいいですけど」
「…………………………なまえ。」
「はい!なんですか!」
「喜びすぎだっての、」
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